福利厚生の種類や人気のメニュー、ユニークな事例も紹介

「福利厚生が充実している」 は、企業の求人情報などでよく目にする表現です。求職者が重視する要素の一つであるため、経営者や企業側もこの点に注目することが重要です。ここでは、基本に立ち返り、福利厚生制度を充実させることのメリットとデメリットを整理してみましょう。

目次
1.福利厚生とは
福利厚生制度は、簡単に言えば「会社が従業員に提供する、通常の賃金以外の報酬」のことです。条件にもよりますがほぼすべての従業員が享受できる、法律で定められた最低限の範囲のものから、会社の魅力やPRの一つとして、他の企業との差別化要素として用いるもの、まであります。
働き方が多様化し、仕事の内容も細分化される中、給与とは別に会社の独自色を出すためには、福利厚生制度をきちんと強化することが求められています。
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2.福利厚生の種類

それでは、福利厚生のメリット・デメリットをそれぞれ紹介する前に、まずは福利厚生を二分類にしてみましょう。法律で定められたものを法定福利、そうでない企業独自のものを法定外福利とそれぞれ呼び、ほぼすべての制度は概ねこの2つに分かれます。中でも法定福利は、多くの方が一度は聞いたことのある項目が多いのではないでしょうか。それぞれの特徴を以下に具体的に挙げますので、参考にしてみてください。
2-1 法定福利
法定福利(法定福利厚生)とは、法律で定められている福利厚生を指します。社会保険料の負担などの分かりやすい例を何点かここではご紹介します。
①健康保険
労働者およびその扶養家族が疾病・負傷した際に適用される保険。労使折半で保険料を支払いますが、保険料は標準報酬月額によって算出されます。保険の提供者が協会けんぽか自社の健康保険組合であるかによっても異なるため注意が必要です。国民健康保険とは別の保険制度です。
②介護保険
加齢により生じる心身の変化により介護が必要になった際に適用される保険。健康保険同様、労使折半で保険料を支払います。第1号被保険者(65歳以上)は市町村区が所得に応じて決定し、第2号被保険者(40~65歳未満)は 加入している健康保険(事業が提供する保険や国民健康保険など)によって異なります。「標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率」の計算式で算出されますが、料率基準は介護保険事業計画に基づいて3年ごとに見直されます。
③厚生年金
労働者の老齢(原則65歳以上)、障害、死亡に対して適用される保険。労使折半で支払います。「標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率(18.3%)」の計算式で算出されます。
④雇用保険
労働者が失業したとき、および雇用継続が困難になったときに、求職者給付(失業保険)や再就職手当を支給する保険。事業者と従業員がそれぞれ支払います(労使折半ではない)。業種によって負担割合は異なり、「賃金総額×雇用保険料率」の計算式で算出します。
【雇用保険の負担割合】
- 一般事業 … 従業員1/3:事業者2/3
- 農林水産・清酒製造事業 … 従業員4/11:事業者7/11
- 建設事業 … 従業員1/3:事業者2/3
⑤労災保険
業務中、およびそれに付随する時間(=通勤途中など)に心身を負傷したときに、公正に労働者を保護するために給付される保険です。「事業者の100%負担」となります。「賃金総額×労災保険料率」で算出します。労災保険料率は事業の種別によって非常に細かく分類されています。
⑥その他 …子ども・子育て拠出金(児童手当拠出金)の納付など
このような、法律により定められた保険料は法定福利とされ、ほとんどの企業でこの制度が適用されています。
2-2 法定外福利
法定外福利(法定外福利厚生)とは、前述の法定福利とは別に、会社が独自に定める福利厚生のことです。世間でよく聞く「福利厚生が充実している」とは、この法定外福利の質の高さを示しています。
ここでは例として、代表的な法定外福利を紹介します。独立行政法人労働政策研究・研修機構が『ビジネス・レーバー・トレンド』 2018年8・9月号のなかで、一般的に良く知られている福利厚生制度を、一覧として列挙していますので、ここではその表を引用します。
以上のように、直接的な金銭負担だけではなく、休みや働き方についての制度面も福利厚生として利用されていることが分かります。これらは働く人が最大限のパフォーマンスを発揮できるようにするために「働きやすさ」を向上させる数々の施策を選んで導入しているのです。
引用元:労働政策研究・研修機構 ビジネス・レーバー・トレンド 2018年8・9月号「福利厚生のトレンド」JILPT調査
3.福利厚生が充実しているとされる基準の最低ライン
では、福利厚生が充実しているとされ、会社の魅力やPRのひとつとしてアピールするためには、どの程度の福利厚生制度が存在する必要があるでしょうか。
明確に「ここまでの福利厚生があるべき」という基準はありませんが、まず一つの基準として、「法定福利のみ」という企業は、他社との差別化にならず、求職者から見ても、「福利厚生が充実している」と評価はされないと考えるべきでしょう。
法定福利は、法で定められており、従業員を雇用する全企業で当然備えているべきものだからです。
法定福利はスタートラインであり、福利厚生の充実度はここからどれだけ法定外福利を導入しているかで評価されることになります。
経団連の福利厚生費調査結果報告によると、2019年時点で法定外福利費は、従業員1人当たり平均24,125円とされています。
金額で見た場合には、この金額が分岐となると考えられ、1人当たりの金額が24,125円より高い企業は、福利厚生がよいと評価される可能性があります。
もちろん、ただ金額だけを増やしていればよいというものではなく、金額に見合った質の法定外福利が提供されているか、制度利用の公平性はどうか、実際の金額以上に運用に社内工数や手間がかかっていないかなど、広く見たときに「従業員が満足しており、費用対効果も納得できるレベルである」と評価できるかどうかで、「福利厚生が良い」と言えるかどうかは決まってくるでしょう。
例えば、以下のような法定外福利は、公平性に欠け、問題があると言えます。
- 一部の従業員だけが恩恵を受けるような福利厚生(喫煙ルームを整備したが、喫煙しない従業員には特に恩恵がない)
- 時代に合わない福利厚生(補助を出して全社員対象で社員旅行をするが、子どもが小さいなどの家庭の事情で参加できない、また参加したくない従業員の声を反映できていない)
- 選べない福利厚生(毎年テーマパークのチケットを全社員に配布してくれるが、子どもも大きくテーマパークに行かないので無駄になる)
4.必要最低限の福利厚生を導入しないデメリット
必要最低限の福利厚生を導入していないことで、どのようなデメリットがあるでしょうか。
ここでは、「法定外福利」を導入しないデメリットについて解説します。
4-1 人材獲得が難しくなる
昨今では、就職活動の際、企業の福利厚生について調べることはもはや当たり前です。就活生へのアンケートでは、「企業の福利厚生についてどの程度関心があるか」という質問に対し、6割以上の学生が、「勤務地、仕事内容、給料と同程度に関心がある」と回答した例もあります。
このことから、法定外福利が全くない場合、人材獲得の面で他社と比較してかなり不利になることが予想されます。
逆に、法定外福利厚生にあまりお金をかけられなかったり、使える制度数が少なくても、制度を厳選して本当に従業員の喜ぶ・使ってもらえる制度を取り入れていたり、その制度を上手に外部へ発信することにより、採用活動における有効な武器とすることもできるでしょう。
少子高齢化で人手不足が深刻になっている状況下では、人材獲得面でデメリットを被らないためにも、必要最低限の法定外福利厚生について、求職者へアピールできる程度に取り入れておくことが必要です。
4-2 従業員のモチベーションが低下する
福利厚生は、もともと、企業が従業員に提供する賃金や賞与以外で、従業員の健康や生活を向上させる目的で導入されています。
この福利厚生が不十分だと、従業員のワークライフバランスをうまく調整できないこともあり、従業員のモチベーションに影響します。
最近では、物価高・消費税などのため、食料品だけでも負担が大きいと感じる方が多いのではないでしょうか。
その際、交通費や家賃の補助、各種手当がない企業とある企業とでは、生活の負担感が違うことが考えられます。
もちろん、福利厚生をなくして給与に全て反映するという方法もあるかと思いますが、その場合、若手社員や前年度うまく成績を上げられなかった社員については反映額が少なくなってしまうことが考えられ、これから頑張ってもらわなければならない従業員のやる気を削ぐことにもなりかねません。
福利厚生は、特別休暇や通勤費、家賃補助、家族手当などを考えていただくと分かる通り、ある条件を満たせば平等に使うことができるものです。
従業員のモチベーションを維持向上させるためにも、福利厚生制度を導入しておくことは意味があると言えます。
4-3 従業員の定着率が低下する
必要最低限の福利厚生を導入していない場合は、ある程度従業員の離職に繋がりかねないことを覚悟する必要があります。
離職理由を調査した、エン・ジャパン株式会社の「本当の退職理由」調査(2024)では、会社に伝えなかった本当の退職理由として、「人間関係が悪い」、「給与が低い」、「会社の将来性に不安を感じた」、などとなっていますが、そのうち15%程度の退職者は「福利厚生他、待遇が悪い」ことを理由として挙げています。最近の傾向として、給与と福利厚生を一環で考える傾向もあるため、「給与が低い」という回答にも一部福利厚生への不満を含んでいると推測できます。
これを踏まえると、福利厚生への不満を放置し、最低限以上の福利厚生を用意せずにおくことは、定着率低下を引き起こしかねません。
福利厚生制度を用意しておくことにより、従業員を大切にしたいというメッセージを発信し、離職防止に努めることが大切です。
5.福利厚生の人気ランキング

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」の企業/従業員アンケート調査結果(2020年7月)にて、従業員の「必要性が高いと思う制度・施策」の回答結果が以下の順位となっています。
従業員による特に必要性が高いと思う福利厚生
1位 |
人間ドック受診の補助 |
21.8 |
2位 |
慶弔休暇制度 |
20.0 |
3位 |
家賃補助や住宅手当の支給 |
18.7 |
4位 |
病気休暇制度(有給休暇以外) |
18.5 |
5位 |
病気休職制度 |
18.5 |
6位 |
リフレッシュ休暇制度 |
16.1 |
7位 |
有給休暇の日数の上乗せ(GW、夏期特別休暇制度 |
15.2 |
8位 |
治療と仕事の両立支援策 |
14.8 |
9位 |
慶弔見舞金制度 |
14.5 |
10位 |
法定を上回る育児休業・短時間制度 |
13.0 |
11位 |
食事手当 |
11.7 |
12位 |
財形貯蓄制度 |
11.4 |
13位 |
短時間勤務制度 |
11.2 |
14位 |
永年勤続表彰 |
11.2 |
15位 |
法定を上回る介護休業制度 |
10.4 |
n=8298 単位:%
出典元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 『企業における福利厚生施策の実態に関する調査 ~企業/従業員アンケート調査結果~』
最も必要であるという制度が1位の「人間ドック受診の補助」、4位に「病気休暇制度(有給休暇以外)」、5位に「病気休職制度」、8位に「治療と仕事の両立支援策」と、健康関連の制度に集中する結果になったのは、自身の健康管理への意識の高まりを表しているようです。その他には休暇に関する制度などが多く入り、ワークライフバランスにより、プライベートの時間を大切にしたいという傾向も強まってきています。
6.ユニークな福利厚生の導入事例
近年はユニークな福利厚生制度を導入している企業も多数あります。転職を検討している求職者や新卒の就活生が、就職先を選ぶ基準に福利厚生の充実度を注目することが多くなってきているからです。ユニークな福利厚生を導入することで、従業員は居心地が良い環境となり、自社への満足度や愛社精神が高まり、定着率が向上することにも期待できます。
具体的にどの企業がどんなユニークな福利厚生を導入しているのかを紹介します。
6-1 サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は「個人の幸福とチームの生産性を両立するために、100人いれば100通りの働き方を追及する」という考え方をもとに、さまざまな福利厚生の取組みを行っています。
①働き方マッチング
個人のライフスタイルにあわせて、勤務時間や場所を選べる制度
②ウルトラワーク
一時的な働き方の変更に対応するために作られた制度
③複業
自分らしく働き、経済的にも精神的にも自立できるように、申請不要で複業が可能
④リモートワーク環境手当
在宅環境を整えるために一人につき5,000円/月を支給
⑤プロアクティブ休暇
働き方と一緒に休み方も模索し、年に5日、取得要件を限定しない休暇が取得可能
⑥ケア休暇
自分や家族の傷病(看護・介護)や療養で休みが必要な時に、年に5日の休暇が取得可能出典元:サイボウズ株式会社 採用サイト 『職場を知る_社内制度』
6-2 株式会社バンダイ
株式会社バンダイでは 「産前・産後休暇」「育児休業」といった一般的な制度の他に、働きやすい環境づくりをめざし、様々な形で社員をサポートする制度や活動を行っています。
①出産子育て支援金_3人目が生まれると300万円のお祝い金!
第一子 30万円
第二子 30万円
第三子以降 300万円
②ライフサポート休暇
社員が家族をサポートするために、最大30日間使える休暇制度を2016年度より新設
③フレキシブルな勤務体系
不妊治療や子どもの不登校、身内の介護などの家庭事情を想定し、時間短縮・フレックス勤務等の制度を利用した働き方が、フレキシブルに認める
④社員や家族の記念日を祝福
社員本人や、子どもの誕生日、結婚記念日などに会社からプレゼントが贈呈
⑤ファミリーイベント開催
ヒーローショーや最新のおもちゃで遊べるファミリーイベントなど、社員の親や子どもが参加できるイベントを年に1回開催出典元:株式会社バンダイ 採用情報 「ライフサポート」
6-3 Sansan株式会社
Sansan株式会社では、働くメンバーの生産性や創造性の向上を通して、ミッションの実現につなげることを目的とした社内制度があります。
①Know Me
部内、部外のメンバーが三人一組で飲み会やランチをすると、飲食費を補助
②Geek Seek
エンジニア職や研究開発職、デザイナーなどのメンバーは、知識の習得や業務効率向上にかかる費用が年5万円まで補助
③H2O
自宅の最寄り駅が表参道駅または渋谷駅から2駅以内の場合に、家賃にかかる費用の一部として補助
④よいこ
メンバーが自発的に企画、実施する「社内部活動」を後押しする
⑤ブランチ
入社1年目の間、新卒入社のメンバーは「ブラザー」「シスター」と呼ばれる先輩社員とペアを組み、月に1回ランチに行く時間が設ける
⑥M2O
新卒のメンバーが入社時に表参道駅または渋谷駅から2駅以内に引っ越した場合、新生活を始めるための費用として一律で33万円を支給出典元:Sansan株式会社 新卒採用ページ 「社内制度について」
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7.福利厚生の3つのメリット
福利厚生制度を充実させるメリットは低く見られがちです。企業は経営上のほかの課題を多く抱えているためです。しかし、経営上のメリットに直結する要素が実は多く隠されています。3つに大類し見ていきましょう。
7-1 従業員の生産性向上
福利厚生制度の充実は、従業員のワークライフバランスを調えます。私生活が充実することで適切なリフレッシュができ、仕事に対するモチベーションが上がることで、最大限のパフォーマンスを発揮できるようになることが期待されます。また、終業後やプライベートな時間を有効に活用しようと、従業員は 仕事を早く終わらせよう、休みの日に会社に来るのはやめよう、といった意識が生まれます。
心身に影響が出ることを未然に防ぐことにも効果があり、リラクゼーションやカウンセリング、ヨガやフィットネスなどの要素を福利厚生制度に設けることにより、健康増進を図ることも最近では注目されています。
一人ひとりのパフォーマンス向上は、組織全体のモチベーション向上にもつながることは言うまでもありません。生産性が高まった結果、より良い業績を収めることで会社としての成長にもつながるといった、正しい方向のアップスパイラルが生み出されます。
7-2 人材定着率の向上
福利厚生制度の充実と離職率には密接な関係があることが分かっています。内閣府が2018年に実施した「就労等に関する若者の意識調査の結果」では、「仕事が自分に合わなかったため」「人間関係がよくなかったため」といった理由に次いで「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」が挙がっています。
引用元:内閣府 2018年版 子供・若者白書(全体版) 特集「就労等に関する若者の意識」
その企業へ属しているメリットを最も具体的に、かつ効果的に示せるのは、独自の福利厚生です。賃金を一律アップさせても、可処分所得においては格差が広がるだけです。その点、福利厚生制度であれば、使う側が自由に自身に合ったものを選択することができることから、不公平感を募らせずに利用できるのが良い点です。ただし、幅広い福利厚生を用意しても、使われない、使いづらいメニューを選択肢として用意したところで意味はありません。求められているものを取捨選択しながら、無駄なく導入していくことが求められています。
7-3 企業ブランドイメージの向上
一般的に各企業が行う「ブランディング」とは、多くが対外的な「アウターブランディング」と呼ばれるものです。「植林活動をしています」、「環境対策をしています」、「生活に役立つことをしています」、などが分かりやすい例です。ただしこれは、あくまで社外や一般のお客さま向けのイメージ活動であり、働く人にとっては直接的なメリットにはなり得ません。対して「インナーブランディング」とは、採用や教育から始まり、人材評価や福利厚生制度の充実といった、総合的な観点ですべての部署や部門で手を取り合って一つのブランドイメージを組み立てていくことを指します。
社内に良い評判が広がることは、働く人が相互に手を取り合い高いエンゲージメントを維持できること、家族からも支持されること、その知人にも自社を自慢することで、最終的にはアウターブランディングにもつながることといった多くのメリットがあります。
そのためには、自社の福利厚生を自慢できることも一つの条件と言えるでしょう。「うちの会社、福利厚生制度なんて本当に最低限なんだよね…」と暗く語る人と、「今度、会社の福利厚生で旅行に行ってくるんだ!」と笑顔で語る人、どちらの社員がいる会社で働いてみたいですか? と聞くとイメージは湧きやすいでしょう。このようなクチコミは、人材採用においても非常に有効に機能します。
社内外問わずイメージを向上させるためにも、福利厚生制度の充実は非常に効果があると言えるのです。
8.福利厚生の3つのデメリット
福利厚生に限った話ではありませんが、会社制度を充実させる・変更させるのには大きな労力や負担を要します。ここでは、その代表的な3大要素を紹介します。
8-1 費用負担
福利厚生がまったく無い状態から新たに制度を作るとなれば、当然コストは増えます。このコストは年々増加傾向にあることが、経団連の定点調査でもわかっています。これを必要投資と捉えればプラスすることに抵抗はないかもしれませんが、そう簡単にいかないのが中小企業です。もちろん大手企業もコロナ不況などの要因でかかる費用を見直しているところが多いとは思いますが、毎月変動する費用を算入するのは非常に難しいことです。そこで、定額の福利厚生アウトソーシングサービスなどを用いることを検討する企業も増えてきています。
ただし福利厚生は、一度良いものを導入すると、簡単に元には戻せません。従業員からの不満の声を防ぐためにも、持続可能な制度を導入することが大切なのです。
出典元:一般社団法人 日本経済団体連合会 2020/11/17発表 「2019年度 福利厚生費調査結果の概要」 より
8-2 管理体制
福利厚生の充実化に伴い、その管理は非常に難しくなります。その作業は導入準備から、利用を推進するための周知活動、利用時の申請受理、その後の関係部門への支払い、経理処理など非常に膨大です。つまり、制度として膨大な手間をかけても、利用されない、または利用率の低い福利厚生はコスト製造機になりかねません。また、今度は利用されてもなお、担当者の負担は増えてしまいます。時代や世相の移り変わりによる見直し作業も求められるなど、アフターケアにも手間がかかってしまうことが懸念されます。
8-3 不公平感
従業員によって求める福利厚生制度は多様です。例えば、食堂を充実させてもお弁当派の人は利用しづらいでしょう。家族向けの旅行制度を設けても、若手や単身者は利用しづらい。働き方も多様化している現在、容易に判断ができるものではありません。家族経営の数人規模ならまだしも、スケールメリットを活かしやすいはずの大企業でもこの問題はついて回ります。本来、従業員満足度を高めてエンゲージメントを向上させるはずであった制度も、享受できる人にばらつきが出ることから不公平感が生まれ、不満や従業員間の対立につながってしまう場合もあるようです。
9.中小企業の福利厚生3選
大手企業は、グループ企業などと連動して制度策定などが行えることから、そのスケールメリットを活かした福利厚生制度の構築が可能です。かつては“ハコモノ”と呼ばれる、保養施設などを各大企業がこぞって用意していました。ただし、今ではライフスタイルも多様化したことで、大企業に勤めていたとしても、それを全員が利用しメリットを享受とも限りません。また、莫大な維持費もかかること、ジャンルも偏ってしまうことから、どちらかと言えば廃止傾向にもあるようです。
“ハコモノ”も無い、制度策定にかける時間も労力も経済的余裕も無い、そんな中でも誰もが活用しやすい新たな福利厚生のかたちが、昨今、中小企業からも多く注目を集めています。単身家賃補助や親睦会といった、偏りの発生しやすいよくある制度とは別の、新しいかたちの福利厚生制度をここでは3つピックアップして紹介いたします。
9-1 社販
自社の取り扱う商品を一般消費者よりも安く・早く入手できるというのは、小売業や製造業に多い方法です。自社商品に愛着を持ってもらう手段の一つにもなり、導入コストも大きく抑えられる(例:POSに割引コードを設定するなど)ことから、多くの会社や店舗が採用する方法です。
自社の商品が無形物、例えば移動手段や保険などの場合が良い例です(モノ売りではなくコト売りと呼ばれます)。ただしここで注意したいのが、“あくまで自由に購入できる”制度にすることです。例えばここにノルマや最低購入金額、時期などの限定を設けてしまうと、それは福利厚生とは呼べなくなってしまいます。利用者が必要なものを必要なときに購入できる仕組みを構築することが求められています。
9-2 飲食支援
たいていの働き方では、昼食を会社でとるというパターンが多いでしょう。また、社内メンバーでの会食や慰労会などもあり、意外にも会社内での飲食の機会は多いものです。昼食を非常に安く食べられるように社食や宅配弁当などのサービスを利用できる体制を整えるのも、昔から利用されている方法です。会食や慰労会などでは、不公平感が出ないように、全員参加時にのみ負担額を減らすなどの制度を導入するのも効果的です。ただし、この場合、利用しても良い範囲が経費処理上法律で細かく定められているため注意が必要です。
出典元:国税庁HP 第8章 連結法人の交際費等の課税の特例 第68条の66《交際費等の損金不算入》関係 「第1款 交際費等の範囲」
9-3 自己投資
利用したい人が自由に利用でき、かつそれが会社にとっても社員にとっても成長の機会につながれば、福利厚生制度として一つのゴールとも言えます。これを直接的に導入できるため、非常に注目されているのが自己投資に関する福利厚生制度です。業務上必要、または持っていると次のステップに進みやすい資格などの取得を推し進めるため、書籍の購入や資格試験受験料などを負担する制度が良い例です。従業員の判断に委ねきるのではなく、上司や経営陣も、どのように制度を使えるのかの範囲やレベルをきちんと理解しておくことで、制度の正しい運用が行えるようになります。あわせて読みたい
10.福利厚生を効果的に導入する方法
福利厚生のメリット・デメリット、具体的な内容などが理解できたところで、実際に自社で福利厚生を導入することになった場合、効果的に導入するにはどうしたらよいのでしょうか。福利厚生の導入には大きく分けると2つの方法があります。
①自社で企画・運営・管理まで全ての運用を行う方法
②福利厚生専門の外部業者にアウトソーシングする方法
さらには、基本はアウトソーシングを利用し、アウトソーシングでは補えないサービスの活用や、自社の独自性をアピールしたい場合など、一部分だけを自社運営するハイブリッドな方法を運用するパターンもあります。
10-1 自社で導入・運用する方法
自社で全ての福利厚生を導入する場合は、ある程度、サービスの種類や内容を絞る必要があります。アウトソーシングする場合は全国の宿泊施設やスポーツ、健康、育児、介護、自己開発のサービスが揃っています。一方で、これらをすべて自社で網羅しようとすると、福利厚生の担当者が各施設やサービス提供者とそれぞれ提携交渉しなければならないため、現実的には非常に難しいと言えます。
また、アウトソーシングせずに自社で福利厚生を運営する場合は、先ず従業員のニーズを把握するためにアンケートなどをとり、どのようなサービスが必要か把握し、予算とともに優先順位をつけていくことが必要です。
そして、導入後も具体的な運用の流れや取り決めに則り、各提携先の担当者や従業員との間に入って対応をしていかなければなりません。さらに福利厚生の担当者がせっかく提携したサービスが従業員に全く活用されなければ、従業員のニーズがありそうな新しいサービスを探し変更していく必要もでてきます。
このように、多くの福利厚生サービスを導入することは、福利厚生担当者にとって多くの負担となり、運営費用も想像以上に膨らむ可能性があります。したがって、自社で福利厚生を導入する場合は、最も従業員に喜ばれる・利用率の高いメニューに絞ることが良いでしょう。
10-2 福利厚生のアウトソーシング会社を利用する方法
福利厚生専門のアウトソーシング会社は基本的にパッケージサービスを主軸とし、その他にもカフェテリアプランや健康増進を目的としたサービス、社内のコミュニケーション活性化ツールやウェルビーイングの計測など様々なサービスを提供しています。
主体となるパッケージサービスとは、旅行やレジャー、健康、スポーツ、育児、介護、自己開発、グルメ、その他日常生活に役立つメニューなどを幅広く網羅し、一般価格よりもお得に利用できるサービスで、従業員すべてのニーズに対応することを目的としています。ただし、一つ一つのサービスメニューの特典や割引額など、お得感が低いものもあるため、従業員全員が満足するとは限りません。
そのような場合、株式会社イーウェルが提供しているパッケージサービス「WELBOX」では、従業員ニーズの高いサービスメニューに補助金を設定して、従業員がよりお得に利用できるよう、カスタマイズすることが可能です。
たとえば、育児中の従業員に向けには、ベビーシッターや保育メニューの補助を厚くしたり、運動不足の従業員に向けにはフィットネスクラブの利用に補助を付けたり、旅行が好きな従業員に向けては宿泊施設に補助を付けたりします。旅行は行かないが映画が好きな人には鑑賞料金に補助を付けるなど、柔軟な対応が可能となっています。 介護・育児・自己啓発・健康増進・旅行やエンターテイメントなど、多彩なメニューがパッケージとなっている福利厚生サービスです。充実した福利厚生を目指すなら「WELBOX」
従業員のライフスタイル・ライフステージに応じて、メニューを選択しご利用いただくことが可能です。
11.福利厚生のアウトソーシング会社を利用するのにかかる費用はどれくらい?
前述のとおり、代表的なプランとしてパッケージサービスとカフェテリアプランの2つがあります。大まかな費用は以下の通りです。

引用元:アイミツ「福利厚生代行の平均費用と料金相場」
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12.簡単に導入できる福利厚生サービス
ここまで、福利厚生制度を充実させるメリットとデメリットをそれぞれ紹介してきました。ただし、中小企業が一から福利厚生制度を準備するのは、労力と費用の面から、多くは現実的ではありません。そこで、福利厚生制度をパッケージとして提供しているサービスを導入するのも効果的です。福利厚生制度のアウトソーシングについては、ウェルナレ内の別記事でも紹介しております。あわせて読みたい
12-1 イーウェル 「WELBOX」
WELBOXは、株式会社イーウェルの提供する、全国各地の施設やサービスを自由に利用できるパッケージ型福利厚生サービスです。宿泊施設は業界トップクラスの充実度で、東急不動産系列の会員制リゾートホテルなどを利用できることが強みです。導入前のサポートから、導入後の会報誌などでの周知など、前述した“利用されない”問題を解決するための仕組みが整っています。大手企業に広く利用されていますが、利用できるサービスが非常に幅広いことから、中小企業にも利用されているサービスの一つです。受付や利用までのサポートなどは専用のサポートセンターが担当するため、Webだけでなく、電話などでも安心して利用予約などの手続きを行うことができます。
※株式会社イーウェル 福利厚生サービス「WELBOX」を参照
12-2 ベネフィット・ワン 「ベネフィット・ステーション」
ベネフィット・ステーションは、株式会社ベネフィット・ワンが提供する、従業員とその家族が人生のあらゆる局面で活用できる福利厚生サービスです。140万件以上の優待特典があり、幅広い福利厚生を利用できます。また、基本的な内容を網羅したプランと、教育や研修の支援といった自己投資に用いることのできるメニューがプラスされたプランと、2つにプランが分かれているのも特徴です。
※株式会社ベネフィット・ワン 福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を参照
12-3 リロクラブ 「福利厚生倶楽部」
福利厚生俱楽部は、株式会社リロクラブの提供する、パッケージ型福利厚生サービスです。導入企業は中小規模が多く、大企業に引けを取らない福利構成サービスの充実さが強みです。全国50エリアでのサービス情報を、会員専用サイトで発信しているため、エリアごとの特性を生かし、地域密着型のサービスを実現し、地域間格差に左右されない高いサービス利用率を得られています。また、多言語対応していることも特徴です。
※株式会社リロクラブ 福利厚生サービス「福利厚生俱楽部」を参照
13.まとめ
今回は、福利厚生は大きく2つに分かれること(法定福利・法定外福利)、さらに福利厚生を充実させるメリットやそれに伴う問題点を中心に解説しました。また、すぐにでも導入できるような福利厚生のヒントや、アウトソーシングサービスの利用と代表例も紹介しました。明日にでも準備やリサーチに取り掛かり、次年度に向けて導入に向けて動き始めることで、企業規模の大小にかかわらず、会社にとって非常にプラスになること間違いなしの福利厚生。皆さんもこれを機に、現行制度の見直しと充実化を検討してみてください。
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