スポーツジム・フィットネスクラブを福利厚生に導入するメリットと経費計上のポイント

「スポーツジムを福利厚生として導入したいけど、税務上の扱いはどうなるの?」
「どういう条件なら経費として認められるのかわからない」
近年、従業員の健康増進と企業の持続的成長を結びつける「健康経営」への関心が高まっています。その中で、スポーツジム・フィットネスクラブを福利厚生として導入する企業が増加しており、その背景には従業員のウェルビーイング実現と企業価値向上への期待があります。
経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度も、企業の積極的な健康支援の取り組みを後押ししており、福利厚生を通じた健康支援は社会的な評価にもつながる重要な施策となっています。
本記事では、スポーツジム・フィットネスクラブを福利厚生として導入する際のメリットや経費計上の条件、効果的な制度設計について、人事担当者向けに詳しく解説します。

目次
1.従業員の健康をサポートする必要がある
現代の働き方において、従業員の健康管理は企業が取り組むべき重要な課題となっています。長時間労働、デスクワーク中心の業務、ストレスの蓄積などにより、多くの従業員が運動不足や生活習慣病のリスクを抱えています。
厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関して強いストレスを感じている労働者の割合は82.7%に達しており、メンタルヘルス不調による休職者数も年々増加傾向にあります。
また、定期的な運動習慣を持つ成人の割合は、男性で33.4%、女性で25.1%と決して高くない状況です。
こうした背景から、企業が能動的に従業員の健康をサポートする必要性が高まっています。従業員の心身の健康は、個人のパフォーマンス向上を通じて組織全体の生産性を高め、企業イメージや企業価値の向上にも貢献する重要な経営資源として位置づけられています。
その一方、フィットネス市場では「chocoZAP」に代表される低価格で24時間利用可能な「コンビニジム」が急速に拡大し、従来ジム利用のハードルとなっていたコストや時間の制約が大幅に軽減されています。2023年度のフィットネス市場規模は約6,500億円に達し、2024年度には過去最高となる7,100億円前後に達する見込みとなっており、企業の福利厚生としての導入を後押しする環境が整っています。
※参考:「フィットネスクラブ・スポーツジム」業界動向調査 (2024年度)(株式会社 帝国データバンク)
2.スポーツジム・フィットネスクラブを福利厚生にするメリット
福利厚生としてスポーツジム・フィットネスクラブの利用を支援することは、従業員と企業の双方にメリットがあります。
たとえば以下のような点です。
- 従業員満足度が向上する
- 従業員の健康状態が良くなる
- 生産性が向上する
- 節税効果がある
- コミュニケーションが活発になる
2-1 従業員満足度が向上する
企業が従業員の健康や幸福に関心を持ち、具体的な支援策を講じていることは、従業員にとってポジティブなメッセージとして受け取られます。「会社が自分たちのことを大切に思ってくれている」という感覚は、企業への感謝の気持ちや信頼感を育み、結果として従業員満足度の向上に大きく貢献します。
充実した福利厚生は、従業員が「企業から大切にされている」と感じる機会を増やし、企業への愛着や貢献意欲を高める効果があります。特に健康意識の高い求職者や、ワークライフバランスを重視する若い世代にとって、健康関連の福利厚生の充実は魅力的に映り、優秀な人材の獲得競争において他社との差別化を図る上で有効な手段となります。
2-2 従業員の健康状態が良くなる
定期的な運動習慣は、心身のコンディションを良好に保つ上でも基本的な要素です。スポーツジムの利用を通じて、従業員は筋力向上、心肺機能の強化、柔軟性の向上などを図ることができ、これが長期的な健康維持につながります。
厚生労働省の「健康日本21」によると、日常的に運動を行っている人は、そうでない人に比べて心臓病、肥満、がん、高血圧、糖尿病といった生活習慣病の罹患率が低いことが示されています。また、運動は精神的な健康にも好影響を与え、ストレスの効果的な解消や精神的な安定に繋がります。
2-3 生産性が向上する
従業員の心身の健康状態が向上することは、企業の生産性向上に直結します。健康な従業員は、集中力や意欲が高く、業務効率も向上する傾向にあります。また、定期的な運動は免疫力を高め、風邪などの体調不良による欠勤を減らす効果も期待できます。
特に重要なのは、出社はしていても体調不良やメンタルの不調により十分なパフォーマンスを発揮できない状態、いわゆる「プレゼンティーイズム」の改善です。運動習慣により体力が向上することで、疲労を感じにくくなり、日々の業務や私生活における活力も増し、実質的な労働生産性の向上が見込めます。
2-4 節税効果がある
企業がジムの利用料金を負担する場合、一定の条件を満たせば、その費用を「福利厚生費」として損金計上することが可能です。これにより、法人税の課税対象となる所得が減少し、結果として納税額を抑えることができます。
ただし、この節税効果を受けるためには、全従業員が平等に利用できる機会の提供や、法人名義での契約、利用規約の整備など、厳格な条件を満たす必要があります。適切に設計され、公平に運営される制度であることが前提となるため、制度設計時から条件を十分に考慮することが重要です。
条件については次の章で詳しく解説します。
2-5 コミュニケーションが活発になる
スポーツジムという共通の場や、運動という共通の話題は、普段の業務では接点の少ない他部署の従業員や異なる役職のメンバーとの自然なコミュニケーションを生み出すきっかけとなります。
トレーニング方法について情報交換をしたり、一緒に汗を流したりする中で、部門を超えた連帯感が生まれ、職場全体の雰囲気改善やチームワークの向上にもつながる可能性があります。
フィットネスは身体を鍛える行為にとどまらず、共通の趣味を持つ仲間とのつながりを育む場としての側面も重視されており、孤独感を和らげ、社会的なつながりを維持する手段としても機能します。
3.スポーツジム・フィットネスクラブは経費計上可能?
福利厚生として提供するジムの利用料を、税法上の福利厚生費として損金算入するためには、厳格な条件を満たす必要があります。これらの条件は、税務調査の際に厳しくチェックされるポイントでもあるため、制度設計段階から十分に留意し、適切な運用を徹底することが求められます。
経費計上のための主要なポイントは以下の通りです。
- 法人名義で契約する
- 利用規約を作成する
- 全従業員が平等に利用できる環境にする
- 利用記録を保管する
項目 | 認められる条件 | 認められない条件 |
契約形態 | 法人名義での契約 | 個人契約の費用補助 |
利用対象者 | 全従業員が平等に利用可能 | 特定の役員・従業員のみ |
利用規約 | 明文化された規約の存在 | 口約束や曖昧な取り決め |
記録管理 | 利用状況の適切な記録・保管 | 利用実態の把握なし |
金額の妥当性 | 社会通念上妥当な範囲 | 過度に高額な費用負担 |
3-1 経費で落とすためのポイント1:法人名義で契約する
企業がジム運営会社や福利厚生サービス提供事業者と、法人として正式に契約を締結していることが大前提です。従業員が個人で契約し、企業がその費用を後から補助する形では、原則として福利厚生費とは認められず、給与として課税される可能性があります。
法人名義での契約により、企業が主体的に福利厚生制度を提供していることが明確になり、税法上の要件を満たすことができます。契約書には、利用対象者、利用条件、料金体系などを明記し、福利厚生制度としての性格を明確にしておくことが重要です。
3-2 経費で落とすためのポイント2:利用規約を作成する
福利厚生制度の一環としてジム利用支援を行うことを、就業規則に明確に記載する必要があります。さらに、具体的な利用対象者、利用可能な施設、利用方法、会社負担の範囲、利用時の注意事項などを定めた詳細な社内利用規約を作成し、全従業員に対して説明会や社内イントラネットなどを通じて十分に周知徹底することが求められます。
利用規約には以下の内容を盛り込むことが推奨されます。
- 制度の目的と対象者
- 利用可能な施設・サービス 企業負担の範囲と上限額
- 申請・利用手続きの方法
- 利用時の注意事項・禁止事項
- 制度の変更・廃止に関する規定
- 制度の目的と対象者
3-3 経費で落とすためのポイント3:全従業員が平等に利用できる環境にする
この制度は、役員や特定の部署の従業員だけを対象とするものではなく、正社員、契約社員、パートタイム従業員など、原則としてすべての従業員が、役職や雇用形態に関わらず公平に利用できる機会が提供されていなければなりません。
一部の従業員しか利用できない、あるいは利用しにくい状況では、福利厚生費としての性質が否定され、特定の個人への給与とみなされるリスクがあります。地理的制約により利用が困難な従業員に対しては、代替的な健康支援策を検討するなど、実質的な公平性を担保する配慮が必要です。
※参考:所得税法
3-4 経費で落とすためのポイント4:利用記録を保管する
実際に制度が運用され、従業員に利用されていることを客観的に証明するために、誰がいつ、どの施設を利用したかといった記録を適切に保管しておく必要があります。これらの記録は、税務調査の際の証拠資料となるだけでなく、制度の利用状況分析や効果測定、今後の改善検討のための貴重なデータともなります。
利用記録には以下の情報を含めることが重要です。
- 利用者の氏名・所属部署
- 利用日時・頻度
- 利用施設名
- 利用内容(ジム、プール、スタジオレッスンなど)
- 企業負担額
また、企業が負担するジムの利用料金や会費が、市場価格や同業他社の事例と比較して、社会通念上妥当と認められる範囲内であることも重要な要件です。
4.スポーツジム・フィットネスクラブを選ぶ際のポイント
福利厚生としてジム制度を導入し、その効果を最大限に引き出すためには、従業員のニーズを的確に捉え、自社に最適なサービスを選択することが不可欠です。
選定時の主要なポイントは以下の通りです。
- 従業員の健康状態・運動頻度を把握する
- 自社に合ったジムを探す
- 複数のジムを比較する
- 利用を促進するサービスがあるか確認する
- 福利厚生サービスの利用を検討する
4-1 従業員の健康状態・運動頻度を把握する
福利厚生ジム導入の成否を分ける最初の、そして重要なステップは、自社の従業員が何を求めているのか、どのような健康上の課題を抱えているのかを正確に把握することです。
具体的な方法としては、まず健康診断結果やストレスチェックの結果を分析し、生活習慣病のリスクが高い層、運動不足が顕著な層、あるいはストレスレベルが高い従業員の割合などを客観的に把握します。これに加えて、全従業員を対象としたアンケート調査を実施し、運動への興味の度合い、希望するジムの種類、好ましい立地、利用したい時間帯、現在の運動習慣などを具体的にヒアリングします。
この初期段階でのニーズ把握の徹底度が、後の利用率や満足度に大きく影響するため、アンケートなどの定量的な調査とインタビューなどの定性的な調査を組み合わせることで、より深く、多角的な洞察を得ることが重要です。
4-2 自社に合ったジムを探す
ジムの種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
総合型ジム | トレーニング機器、プール、スタジオレッスン、サウナなど多様な施設・プログラムを提供 | 幅広い運動ニーズに対応可能 | 料金が比較的高め |
24時間ジム | 時間を気にせず利用可能で、多くは無人運営でマシン特化型 | ライフスタイルに合わせた利用が可能 | 初心者へのサポートが限定的 |
パーソナルジム | トレーナーによるマンツーマン指導で個々の目標達成に特化 | 高い効果が期待できる | 料金が最も高額 |
専門ジム | ヨガ、ピラティス、格闘技など特定分野に特化 | 明確な目的を持つ従業員には効果的 | ニッチなニーズへの対応 |
4-3 複数のジムを比較する
候補となるジムやサービスを複数選定し、以下の観点から詳細に比較検討します。
比較項目 | 確認ポイント | 重要度 |
立地・アクセス | オフィスからの距離、通勤経路上の立地、全国展開の有無 | 高 |
料金プラン | 月額固定型、従量課金型、チケット制、福利厚生サービス利用型 | 高 |
安全管理 | 緊急時対応、AED設置、スタッフ常駐の有無 | 高 |
サポート体制 | 初心者向けガイダンス、個別相談対応、企業向けレポート | 中 |
施設・設備 | トレーニング機器の充実度、清潔さ、営業時間 | 中 |
4-4 利用を促進するサービスがあるか確認する
制度導入後の利用率向上のため、以下のようなサービスや仕組みがあるかを確認します。
- 初回利用時のオリエンテーション
- 定期的な健康セミナーの開催
- 利用状況のレポーティング機能
- オンラインでの予約・管理システム
- モチベーション維持のためのイベント企画
また、申請手続きの簡略化や、スマートフォンから手軽に手続きできるシステムの有無も、利用促進の重要な要素となります。
項目 | メリット | デメリット |
選択肢の多様性 | ジム以外の多様な福利厚生メニューを提供 | 多数の選択肢の中でジム利用が埋もれる可能性 |
管理業務 | 個別契約に比べて管理業務を軽減 | 個別のニーズに応じたカスタマイズが困難 |
利用範囲 | 全国各地の施設を利用可能 | サービス利用料が発生 |
コスト | スケールメリットによる料金優遇 | 利用率が低い場合の費用対効果 |
自社の規模、従業員の分布、管理体制を総合的に考慮して最適な選択を行うことが重要です。あわせて読みたい
5.スポーツジム・フィットネスクラブの種類と料金プラン
福利厚生として導入可能なスポーツジム・フィットネスクラブの種類と料金体系について以下のようなイメージです。
施設形態 | 特徴 | 料金目安 | 適用企業 |
外部ジム法人契約 | 特定ジムとの直接契約 | 月額5,000円~15,000円/人 | 中小企業~大企業 |
福利厚生サービス | 多様な選択肢を提供 | 月額500円~2,000円/人 | 全規模対応 |
社内ジム設置 | 自社専用施設 | 初期投資500万円~ | 大企業 |
オンラインフィットネス | 場所を選ばず利用可能 | 月額1,000円~3,000円/人 | 全規模対応 |
5-1 施設の形態
ジムやフィットネスと言っても、多様な形態の施設が存在し、それぞれ異なる特徴とメリットを持っています。
主な施設形態は以下の通りです。
- 外部ジムとの法人契約
- 福利厚生サービス利用
- 社内ジム設置
- オンラインフィットネス
外部ジムとの法人契約は、企業が特定のフィットネスクラブと直接契約し、従業員が割安価格で利用できる形態です。全国展開ジムとの契約により、支社・営業所の従業員も利用可能です。
福利厚生サービス利用は、福利厚生代行事業者のパッケージプランを通じてジム利用特典を提供する形態で、従業員は多様な福利厚生メニューから選択できます。
社内ジム設置は、オフィス内や事業所敷地内に自社専用ジム施設を設ける形態で、通勤不要で始業前・終業後・休憩時間に気軽に利用できるメリットがあります。
5-2 料金プラン
外部のジムと法人契約を結ぶ際の料金プランには、主に4つのタイプがあります。
料金プラン | メリット | デメリット | 適用場面 |
月額固定型 | 予算計画が立てやすい | 利用者が少ない場合は割高 | 利用率が高い企業 |
従量課金型 | 利用に応じた支払い | 予算管理が複雑 | 利用率が不明な企業 |
チケット制 | 利用回数をコントロール可能 | 初期投資が必要 | 段階的導入を検討する企業 |
福利厚生サービス型 | 多様な選択肢を提供 | ジム利用が埋もれる可能性 | 総合的な福利厚生を重視する企業 |
料金プランにおいては、企業の従業員数、想定される利用頻度、予算管理の方針を総合的に考慮する必要があります。月額固定型は利用率が高い企業に適しており、従量課金型は利用状況が不明な導入初期に有効です。チケット制は段階的な導入を検討する企業に、福利厚生サービス型は総合的な福利厚生を重視する企業に適しています。
6.まとめ
スポーツジム・フィットネスクラブを福利厚生として導入することは、従業員の健康増進と企業の持続的成長を同時に実現する有効な選択肢です。従業員満足度の向上、健康状態の改善、生産性の向上、節税効果、コミュニケーションの活性化など、多面的なメリットが期待できます。
ただし、経費計上を行う場合は、法人名義での契約、利用規約の作成、全従業員への平等な機会提供、利用記録の保管といった厳格な条件を満たす必要があります。制度導入にあたっては、従業員のニーズと健康課題を的確に把握し、自社に最適なジムの種類と料金プランを選択することが成功の鍵となります。
福利厚生パッケージサービスやカフェテリアプランの活用は、ジム利用を含む健康支援策を効率的に提供する有効な手段です。イーウェルの「WELBOX」や「カフェテリアプラン」などを導入することで、従業員の多様なニーズに応えながら、企業の事務負担も軽減できます。
従業員の健康は企業の持続的成長の基盤です。ジム利用支援制度の導入や設計についてご不明な点がございましたら、イーウェルまでお気軽にご相談ください。
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