健康経営の基本「健康診断」 料金や対象者、受診率を高めるポイントも解説
「会社として健康診断の実施を検討するべき?」
「健康診断を実施するとしたら、具体的に何をすればいいの?」
労働者の健康を守るために、定期的な健康診断は欠かすことができません。そのため、会社は労働者の勤務時間や雇用形態に配慮しながら、健康診断を進める必要があります。
本記事では、健康診断とはどういったものなのかに加えて、種類や費用、受診率の実態に関して詳しく解説します。また、健康診断実施後の注意点もお伝えするため、労働者の健康管理に発生しがちな問題解決にもご活用ください。
労働者が健康だと、会社の高い生産性を維持できるメリットがあるため、安定して働ける可能性が高くなります。まずは、健康診断実施のために必要な情報を見てみましょう。
目次
1.健康診断の実施・労働者の受診は会社の義務
なぜ、会社は労働者が健康診断を受けられる環境を用意しなくてはならないのでしょうか。健康診断は、労働者の健康を確保するために、会社側が実施しなくてはならないものだからです。
また、健康診断の実施は労働安全衛生法で義務付けられています。厚生労働省では、健康診断について以下のように定めています。
事業者は、労働安全衛生法第66条に基づき、労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません。また、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
引用元:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
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2.健康診断の種類
健康診断には、定期的に行うことが決められた「一般健康診断」と有害業務に従事する労働者に対する「特殊健康診断」があります。ここからは、「一般健康診断」と「特殊健康診断」の概要や対象者を紹介します。
2-1 一般健康診断
一般健康診断には、労働者を雇い入れる際に行う「雇用時健康診断」と、年1回行わなければならない「定期健康診断」があります。なお、深夜業などの特定業務従事者は、年2回の健康診断が必要です。
一般健康診断の項目は下記の通りです。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長※、体重、腹囲※、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査※及び喀痰検査※(雇入れ時の健康診断の場合、喀痰検査は不要)
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
- 肝機能検査(GOT/GPT/γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)※
- 血糖検査※
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査※
※印がついた健康診断項目については、国の基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略することができます。
引用元:労働安全衛生規則第43条、44条、45条|e-Gov
労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
2-2 特殊健康診断
特殊健康診断は、有害な業務に常時従事する労働者に対して行います。原則として、雇入れ時や、配置替えの際および6ヶ月以内ごとに1回実施します。特殊健康診断に指定されている業務は以下の通りです。
- 潜水作業など気圧が高い場所で行う業務
- 原子力施設など放射線を扱う業務
- 特定化学物質を扱う業務
- 石綿(アスベスト)を扱う業務
- 鉛・四アルキル鉛を扱う業務
- 屋内作業場等における有機溶剤を扱う業務
上記以外にも、じん肺健診や歯科医師による健診があります。じん肺健診とは、砂ぼこりや金属の粒などを吸い込むことで、体に異常をきたしていないかを確認する健診です。じん肺健診は、作業環境測定の管理区分に応じて、1~3年以内ごとに1回の実施が必要です。
じん肺健診は「常時粉じん作業に従事する労働者および従事したことのある管理2または管理3の労働者」が該当します。「管理2」や「管理3」というのは、じん肺の進行を表す指標です。数字が大きいほど進行していることを意味します。
歯科医師による健診は、塩酸や硝酸など、歯またはその支持組織に有害な物のガスを発散する場所で業務に従事する労働者が対象です。
参考:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
3.健康診断の実施をしなかった場合の罰則について
健康診断を実施しないと、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金が科されます。さらに、労働者は会社が実施する健康診断を受けなければいけません。
ただし、労働者が会社の指定した医師や医療機関以外の健康診断を受けて、結果を提出しても問題ありません。労働安全衛生法によって労働者は、医師選択の自由が与えられているからです。
なお、労働者がかかりつけの医師による健康診断を希望した場合には、特別な理由がない限り、会社は申し出に応じなければなりません。
参考:労働安全衛生法第66条5項、第120条|e-Gov
4.健康診断受診の対象者と費用は?
健康診断の受診が義務付けられているのは「常時使用する労働者」です。正社員は、通常フルタイムで働くため、健康診断受診の対象者に該当します。
また、契約期間が1年以上で、1週間の労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の、4分の3以上の者も健康診断受診の対象となります。この規定に該当すれば、パートタイムやアルバイトも対象になることに注意しましょう。
なお、会社で行う健康診断の費用は、労働安全衛生法に基づいて会社負担が基本です。しかし、会社が実施する健康診断を受けずに、各自で受診する場合には、本人負担となるケースもあります。健康診断の費用については、就業規則に記載しておくとトラブルになりにくいでしょう。
健康診断の費用は各受診機関で異なりますが、労働者1人あたり7,000〜13,000円ほどと考えておくといいでしょう。また、労働者の人数や健康診断の形態によっても、費用は変動します。また、健康診断時に追加検査を希望した際には、差額を労働者が支払うことになります。
健康診断は、種類や検査項目にかかわらず健康保険が適用にならない自由診療です。健康診断後のトラブルを防ぐためにも、必ず費用を確認しましょう。
参考:よくある質問>労働安全衛生関連>Q16|厚生労働省 労働局
4-1 役員・労働者の家族・配偶者も対象?
会社が健康診断を行う対象は、労働者のみです。そのため、会社の健康診断は、労働者の家族や配偶者は対象となりません。会社は労働者の家族に対して責任を持つ必要はないため、家族や配偶者を健康診断の対象としなくても、罰則に該当しません。
また、役員については、業務の内容によって異なります。役員が事業に従事する可能性があれば、健康診断を受診する必要があります。
5.定期健康診断の実施率・受診率の実態
会社側の健康診断の実施と、労働者の受診は義務であるため、実施率および受診率は100%となるはずです。しかし、多くの理由から100%を達成できない実態があります。ここからは、定期健康診断の実施率と受診率の実態について、解説します。
参考:平成24年 労働者健康状況調査の概況|厚生労働省
5-1 事業主側
健康診断に取り組んだ会社の割合を「実施率」と呼びます。会社の規模が大きくなればなるほど、健康診断の実施率は高い傾向にあります。平成24年(2012年)の調査では、従業員が500人以上の会社では実施率100%ですが、従業員が10~29人の会社は実施率89.4%という数字が出ています。
会社側が健康診断に取り組まない理由としては「健康診断を実施する費用がない」「実施する時間がない」「健康診断の必要性を感じない」などの理由が考えられます。
しかし、いかなる理由があっても、会社は労働者に対して健康診断を実施しなければなりません。なぜなら、健康診断は労働者の健康を守り、会社の成長に欠かせない仕事のパフォーマンスをサポートするからです。
5-2 労働者側
健康診断を受けた労働者の割合を「受診率」と呼びます。実施率同様、会社の規模が大きくなればなるほど、健康診断の受診率は高い傾向にあります。平成24年(2012年)の調査では、従業員が5000人以上の会社であれば受診率は87.8%、従業員が10~29人の会社は実施率77.0%という数字が出ています。
せっかく会社が健康診断を実施しても、面倒くさがって受診しない労働者も多い傾向です。
「仕事が忙しく時間が取れない」「病気を知るのが怖い」などの理由で医療機関への受診を拒む労働者もいます。
健康管理を会社が推奨しても、労働者が参加しないのであれば、制度の意味がありません。労働者の足を健康診断に向かせるために、会社で対策を行いましょう。
6.健康診断受診率を高めるための対策とは
健康診断を受けないままでいると、健康を損なうリスクが高くなります。労働者の就労自体が困難になりかねないため、必ず受診を促しましょう。しかし、健康診断の受診率を向上させるためには、どのような対策があるのでしょうか。ここでは主な対策を4つ紹介します。
①健康診断を受診しやすい環境を整える
多忙のため健康診断を行わない労働者には、医療機関を受診させる十分な時間の確保が大切です。労働者の仕事量を把握して、繁忙期を避けて健康診断を実施したり、残業時間の見直しをしたりすることが必要でしょう。これにより「忙しくて健康診断を受けられない」という労働者を減らす効果が見込めます。
②健康診断の受信の義務を周知する
労働者の中には「健康診断を受けるのは任意」と思っている人も少なくありません。労働者に「健康診断を受けることは義務である」と説明することが大切です。
③病気を知るのが怖い
病気を知るのが怖い労働者には、早期発見および早期治療の大切さを説明します。健康診断を行わずに病気に罹患した場合、心身の負担が激増するためです。
病気を早めに発見すると、医療費や治療期間の短縮にもつながります。しっかりと健康診断を受診して、病気に早期から対処するほうが大きなメリットを得られるでしょう。
6-1 健康診断実施後の会社側の注意点
健康診断は実施して終わりではありません。健康診断実施後は、労働者の健康診断結果の保管と報告業務に注意を払いましょう。
①健康診断結果の保管義務
会社には、労働者の健康診断結果を保管する「保管義務」があります。一般健康診断の結果は、5年間の保存が必要です。また、健康診断の結果にはセンシティブな内容が含まれるため、個人情報の管理を徹底し、情報が漏えいしないようにしましょう。
②健康診断結果の報告義務
常時50人以上の労働者を雇用する会社は、健康診断結果を管轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。50人の定義は、アルバイトやパートも含めるため、常に従業員数を確認するようにしましょう。なお、管轄の労働基準監督署は、厚生労働省の「」から確認できます。
参考:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
7.まとめ
この記事では、会社が実施すべき健康診断の重要性について詳しく解説しました。
健康診断は、病気の早期発見および早期治療に大いに役立ちます。病気を早めに発見すると、回復までの期間が短くなるメリットがあります。労働者が病気になると、休職や新たな人材確保などの問題も発生するため、定期的に健康診断を実施するようにしましょう。
また、労働者が健康診断を受けやすい環境作りも大切です。休みを取りやすかったり、業務を分担できるような体制を整えたりと、健診機関に出向く時間を確保できる配慮が必要といえます。
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