健康経営アドバイザーとは

「健康経営」を推進するにあたっては、それに必要な知識を備える必要があります。「健康経営アドバイザー」資格は、「健康経営」の専門家として、企業の内外で「健康経営」を推進していく力を持つ人を養成・認定する資格です。
2016年より経済産業省の委託を受けて、東京商工会議所が健康経営アドバイザーを育成・認定するための研修プログラムを開催し、すでに延べ4万人以上が受講しています。
目次
1.健康経営アドバイザーになるには
東京商工会議所は健康経営アドバイザーを以下のように定義しています。
健康経営アドバイザーは、健康経営の必要性を伝え、自社内の健康経営への取り組みに必要な情報を提供し、健康経営の実践へのきっかけを作る普及・推進者です。
引用元:東京商工会議所「健康経営アドバイザーとは」
この健康経営アドバイザーになるには、東京商工会議所が実施する「e-learning」研修を受ける必要があります。この研修では、日本が抱える構造的な課題など、健康経営に注目が集まる背景、健康経営への取り組みがもたらすメリット、具体的に実践する際のポイントなどの知識を分かりやすく学ぶことができます。
この研修を修了し、効果測定にて7割以上正答に達した人を認定し、認定された人は、名刺等に「健康経営アドバイザー」と記載することができるようになります。
2.健康経営アドバイザーの役目はどんなこと?
「健康経営」の概念や知識は、今後、社会に浸透させていく必要があります。そのために健康経営アドバイザーは、健康経営の知識が不足している企業(経営者)へ、まずは健康経営の重要性を伝えていきます。さらに、重要性を認識した企業が、実践へ踏み出せるようにサポートやきっかけ作りを行います。
なかでも特に、健康経営アドバイザーは中小企業に対して、健康経営の知識を伝えることが求められます。中小企業は大企業と比較して、コアメンバーで事業運営を行っており、人的リソースが欠けることは事業継続に致命的な影響となる可能性もあります。健康経営のメリットを経営者に認識してもらうための活動は、健康経営アドバイザーに今後一層求められます。
経済産業省では、健康経営アドバイザー制度を健康経営推進体制の構築施策の一つとして整備しています。以下の図の通り、企業が健康経営に取り組む上で、中心的な役割を担う人材を育成することを目的に、予防・健康づくりの取り組みの活性化に向けて健康経営アドバイザー制度を推進しています。
引用元:経済産業省「健康経営の推進について」 110頁
3.健康経営アドバイザーは何をしてくれるのか?
健康経営アドバイザーは、健康経営をスタートしようとしている企業や「健康経営」を実施しながら推進に課題がある企業対して的確なアドバイスが可能です。
では、健康経営アドバイザーが実際にどのようなことをしてくれるのか5つの項目を紹介します。
3-1 「健康経営」の基本概念の普及
経営的な視点で従業員の健康管理を考えることが「健康経営」にとって重要です。今までの健康管理は、労働安全衛生法上の最低限を確保すればよい、という考え方でしたが、そうした「守りの健康経営」から、経営的視点から従業員の生産性向上のための「攻めの健康経営」まで包括的な概念を明示できます。
3-2 「健康経営」の社会的背景
少子化による将来的な生産年齢人口の減少、従業員の高齢化、社会保障制度の維持問題など、社会構造的な課題についても知識習得しています。「健康経営」が注目されているのも、深刻化する社会問題に対し、効果的な対応策となり得るという背景があり、国や地方自治体も、積極的に「健康経営」を推進しようと政策や制度を整えはじめています。
3-3 「健康経営」を実施するメリット
「健康経営」には多種多様なメリットがあります。例えば、職場の活性化により生産性が向上することや、社会保障費の削減が想定されます。また「健康経営」を実施している企業へは、優秀な人材も集まりやすくなります。
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3-4 「健康経営」の公的施策の拡大に対応
東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」が選定されたり、東京商工会議所により「健康経営アドバイザー」資格が制定されたり、また経済団体・保険者・自治体などの民間団体による「日本健康会議」発足など、経済産業省が主導となり様々な公的施策が行われており、様々な環境整備についても知識を深めることができます。地方自治体でも「健康経営」の顕彰制度を拡大させており、今後は、健康経営関連の認定を受けたことでのメリットはますます大きなものになっていくでしょう。
3-5 「健康経営」の取り組みの事例に精通
健康経営アドバイザーは、健康経営を推進している会社の事例にも精通している必要があります。大企業の取り組み事例以外にも、中小企業の事例を数多く知ることにより、企業への具体的なイメージの説明が可能になるでしょう。
健康経営の第一歩からPDCAの循環まで「健康経営推進支援サービス」
健康経営を推進するうえで必要な「健康経営度調査」「健康投資管理会計ガイドライン」などを活用して、企業の健康経営の第一歩からPDCAを回していくお手伝いをするコンサルティングサービスです。
4.健康経営アドバイザーと産業医の違い
健康経営アドバイザーが実際にどのようなことをしているのか見てきましたが、産業医がしていることと区別がつけにくいように感じられた方もいるかもしれません。ここでは、健康経営アドバイザーと産業医の違いが明確にわかるよう、以下の表にまとめました。
|
健康経営アドバイザー |
産業医 |
設置の義務 法令の違い |
設置は任意 |
一定要件以上の企業は設置が義務 ・労働者数50人以上3,000人以下 → 1名以上の配置(選任) ・労働者数3,001人以上 → 2名以上の配置(選任) ※産業医を設置しない場合は法律で罰せられる |
業務範囲 |
経営的な視点で健康経営に携わっている。医学的なアドバイスではなく、健康経営に関しての施策実施や実施後のフォローまでを業務としている。 |
医師という専門的な立場からアドバイスや指導を行う。従業員の健康診断やストレスチェックをもとに、従業員個人に対して具体的なアドバイスを行い、さらに施策実施後の面談や定期的な職場巡視などにより健康経営の取組みに携わる。 |
資格 |
所定の研修を受けて認定されると取得できる資格 |
国家資格である医師免許を有していることが前提 |
5.健康経営アドバイザー研修の受講料金・概要
健康経営アドバイザーになるためには、まず東京商工会議所が開催する「健康経営アドバイザーを育成・認定するための研修プログラム」を受講することが必須です。申込みは特に年齢・職業・学歴などは問わず、どなたでも受講が可能です。
2023年時点の受講費用は、8,800円(税込)で、テキスト代、動画受講料、IBT受験料※を含みます。支払方法はクレジットカード、コンビニエンスストア、Pay-easy (ペイジー)からの支払いが可能です。支払完了後のキャンセルはできないため、ご注意ください。
※IBTとは、オンライン上で行う認定試験のことです。
入金後7日以内に、テキストが発送されます。「e-learning」研修のため、いつでもどこでも受講できる環境を整えた研修となっています。
6.健康経営アドバイザー研修の受講申し込みから認定の流れ
ここでは、東京商工会議所が開催する「健康経営アドバイザーを育成・認定するための研修プログラム(健康経営アドバイザー研修)」の申込みから受講、認定までの流れを具体的に説明します。
6-1 研修申し込み
健康経営アドバイザー研修は以下の東京商工会議所のウェブページから申込みを行います。
東京商工会議所 「健康経営アドバイザーとは 個人申込み」
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/adviser/
初めて個人で申込む場合は、個人情報登録を行いログインIDとパスワードの取得が必要となります。マイページ作成後、受講料を支払い入金が確認されてから7日以内にテキストが発送されます。また、5名以上の団体で申込むことも可能です。その場合申込みボタンが異なり、「団体申込み問合せ」のフォームより東京商工会議所に直接問合せをする流れとなります。
6-2 受講
支払完了後、マイページの「健康経営アドバイザー受講へ」をクリック後、受講(動画の視聴)が可能となります。Webが閲覧できるPC・タブレット・スマートフォンにて視聴ができます。ガラパゴスケータイは視聴不可です。またスマートフォン等のパケット通信料は個人負担となります。推奨環境については「お申込に関するご注意」をご確認の上、受講して下さい (Macは非推奨)。
リニュアルされた『健康経営アドバイザー・エキスパートアドバイザー共通テキスト』改訂版(2023-2024年度版)が送付されてきますので、そのテキストをもとにWEB研修を受講する流れとなります。「健康経営」が必要とされている背景や、実践していくにあたってのポイントを習得していきます。
WEBの閲覧は、マイページ内【健康経営アドバイザー申込】に表示される利用可能期間内に限り、何回でも視聴可能です。
6-3 効果測定~認定
WEB研修受講後、「効果測定(IBT)」の受験が可能となります。受験ができるのは、マイページの【健康経営アドバイザー申込】に表示される利用可能期間内のみとなりますが、期間内であれば追加費用が発生せず、何回でも再受験することが可能です。ただし、利用可能期間を過ぎてしまった場合、再度マイページからの申込みと支払いが必要となりますのでご注意ください。
効果測定では、健康経営アドバイザーの受講動画およびテキストの教材より問題が出題されます。10問中7問、7割以上の正答率が合格基準となっています。WEBでの申込のため、特定の時期のみに限定されず受講できるのがメリットです。
結果発表は、試験終了後のWEB画面上にて即時判定されます。合格の場合は、認定証(PDF)をマイページから出力することが可能です。不合格の場合でも利用可能期間内であれば、何度でも無料で効果測定(IBT)の再受験が可能です。
7.健康経営アドバイザー認定の難易度と認定期間・更新について
健康経営アドバイザー研修受講後の効果測定(認定試験)の難易度は、一般的に高くないようです。効果測定は、10問の4択問題を7問以上(正答率7割)正答する必要がありますが、不合格の場合でも、指定の日程内は何度でも無料で再受験が可能となっています。ただしテキストは277ページあり、健康経営に関する知識を体系的に取得することが求められています。
健康経営アドバイザー認定取得後の認定期間(有効期間)は、認定年月日より2年間です。健康経営は、随時新しい知識や考え方が更新されていくため、2年後に改めて研修を受講しなくてはなりません。受講費用は、更新時も初回と同額の8,800円 (税込) です。
8.さらに上級資格となる健康経営エキスパートアドバイザーとは?
「健康経営アドバイザー」の上位資格として「健康経営エキスパートアドバイザー」があります。健康経営課題を推進しようと試行する中小企業に対し、課題抽出や改善の提案、計画策定など、より実践的な支援を担う専門人材を養成するプログラムです。
8-1 健康経営エキスパートアドバイザーを取得・配置するメリット
健康経営エキスパートアドバイザーは上級編の資格となるため、健康経営アドバイザー認定と比較すると認定試験の難易度は格段に高くなります。ただし健康経営エキスパートアドバイザーに認定されると、その高度な知識を生かす機会が増え、さまざまなメリットが生まれます。
①健康課題の洗い出しが可能
健康経営エキスパートアドバイザーが最初に着手する業務として、企業が抱えるそれぞれの健康課題の洗い出しをすることから始まります。企業によって、業種・業態・従業員の属性などが異なり、企業ごとに取り組むべき課題も異なってくるため、健康課題について詳細をヒアリングし、具体的にどのような点に問題があるかを抽出することができます。
②具体的な改善案と実施計画の立案
健康経営エキスパートアドバイザーは、より具体的な改善策や実施の計画を提案することができます。さらに、施策実行後の見直しやフィードバックの反映をすることができるようになり、PDCAサイクルをしっかり回すことが可能となり、さらなる健康経営の取り組みにつなげられるようになります。
③健康管理における問題点の削減
健康経営エキスパートアドバイザーは、②のPDCAサイクルを回すことができるようになると、従業員の健康管理における問題点を削減でき、より良い健康経営の実践が可能となります。
8-2 エキスパートアドバイザー受講の資格
東京商工会議所は、健康経営に取り組む中小企業に対して、課題抽出・改善提案・計画策定等の実践支援を担う専門人材を養成する「健康経営エキスパートアドバイザー」研修を実施しています。エキスパートアドバイザーに認定されるためには、その研修を受講することが必須条件です。その研修を受講するためには、以下の2つの条件を満たし、知識確認テストの受験およびワークショップへの参加が義務付けられています。
- 健康経営アドバイザーの認定者(認定期間が有効の者に限る)
- 「所定の有資格者」または「所定の実務経験者」であること
①所定の有資格者とは
- 経営・労務に関する資格:中小企業診断士、社会保険労務士
- 医療・保健に関する資格:医師、保健師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師、臨床心理士、理学療法士、労働衛生コン サルタント、管理栄養士、健康運動指導士
②所定の実務経験者とは
申告フォーム内の「実務経験」欄に記入します。以下の実務に、概ね1年以上関わっていたことを条件としています。記載内容は事務局にて確認し、受験の可否を判断します。
- 「健康」「医療」「保健」に関する実務:医療保険者・医療機関・健診機関等での勤務経験など
- 「経営」に関する実務:経営者本人または、経営企画など企業経営に従事していた経験など
- 「人事労務」に関する実務:人事担当者、労務管理担当者として従事していた経験など
- 「健康経営」に関する実務:健康経営の普及や支援に携わっていた、企業などで実践に関わっていたなど
8-3 エキスパートアドバイザー認定プロセス
健康経営エキスパートアドバイザーに認定されるためには、次のステップを踏んでいく必要があります。
STEP 1:知識確認テスト申込
申込期間中にマイアカウント(健康経営アドバイザー研修を受講したwebページ)にログインして申込みをします。ログイン後、「健康経営EXアドバイザー知識確認テスト申込」から申請します。
STEP 2:「研修教材/知識確認テストのご案内」を送付
テキストと知識確認テスト予習問題集を送付しますので、知識確認テストに向けて、自己学習します。
※「テキスト無」を選択した場合でも問題集は送付されます。
STEP 3:知識確認テスト受験
自身で選択した試験会場にて、知識確認テストを受けます。
※合否はメールにて通知し、合格者には併せて「ワークショップ」の案内をします。
STEP 4:ワークショップ申込開始
「知識確認テスト」合否発表時の合格通知メールにて、ワークショップの申込方法を案内します。メール受信日以降にワークショップ申込みが可能となります。
STEP 5:ワークショップへの参加/効果測定
企業支援の実務について、ケーススタディ等を用いたワークショップにご参加します。事後提出となる「効果測定」に合格した方を「健康経営エキスパートアドバイザー」として認定いたします。
①研修内容
ヒアリングスキル(必要な情報の収集力)の習得と、ヒアリングシートを活用したロールプレイ
②健康経営の実践支援のための具体的な助言・提案力の習得
個人ワークおよびグループワークを通じて事例企業の改善提案を考え、健康経営診断報告書を作成
※ワークショップはビデオ会議ツール「Zoom」を使った研修です。PCのみの受講となり、スマートフォンでの受講は不可。
③効果測定
研修とは異なる事例企業の情報に基づき「健康経営診断報告書」を作成し、期限までに提出
80点以上の正答があった受講者を「健康経営エキスパートアドバイザー」として認定
8-4 受講料と認定期間、更新について
受講料と認定期間、さらに更新に関する概要は以下の通りです。
①受講料について
- 知識確認テスト(テキスト発送有) 7,700円(税込)
- 知識確認テスト(テキスト発送無) 5,500円(税込)
- ワークショップ 22,000円(税込)
②認定期間について
認定日より2年間となります。
③更新手続きについて
健康経営エキスパートアドバイザーを更新するには、以下2点の双方満たしていることが要件となります。
【要件1】
マイアカウント上の「健康経営EXアドバイザー研修動画視聴」を3講座以上修了(STEP1)すること
【要件2】
①を修了後「健康経営EXアドバイザー更新申請」(STEP2)を行い、有効期限日までにマイアカウ ント上の「健康経営EXアドバイザー更新テスト」を80点以上正答(STEP3)すること、更新の流れは以下の通りです。
引用元:東京商工会議所 「健康経営エキスパートアドバイザー研修とは」
9.まとめ

「健康経営アドバイザー」資格は、比較的受講しやすいため、「健康経営」を取り組み始めた企業のご担当者にもおすすめの資格となっています。基礎的な知識を習得した上で健康経営実務に携われば、「健康経営エキスパートアドバイザー」の資格取得にも挑戦できます。
今後、ますます重要性が増す「健康経営」の推進役が期待されている資格です。さらに上のエキスパートアドバイザーの資格も取得する気持ちで、是非積極的にチャレンジしてみてください。
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