1. TOP
  2. 働き方改革
  3. 働き方改革で義務化された年5日の有給休暇義務とは?
2024/03/01 (公開:2022/09/08)

働き方改革で義務化された年5日の有給休暇義務とは?


働き方改革で義務化された年5日の有給休暇義務とは?

政府による働き方改革関連法の成立に伴い、2019年4月より労働基準法が改正され、企業(使用者)に対し、その雇用する労働者に「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられました。

 

改正法が施行されて数年が経過しましたが、有給取得への理解や有休取得率は上がっているでしょうか。社員の中には、改正について耳にはしているが、まだ勤めている会社で周知されていない、あるいは「たぶん対応されたのではないかと思っているが実は良く分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。

 

本記事では今さら聞けない「年5日の年次有給休暇の確実な取得」について内容を整理したうえで、実際に各企業で取り組むべきこと、取り組んでいない場合の問題等に触れていきます。


内容を正しく把握したうえで、自社の取り組みを今一度見直す一助としていただければ幸いです。

 

目次

  1. 働き方改革の8つのポイント
    1. 1-1 フレックスタイム制の拡充
    2. 1-2 時間外労働の上限規制
    3. 1-3 年5日の年次有給休暇の確実な取得
    4. 1-4 高度プロフェッショナル制度の創設
    5. 1-5 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ
    6. 1-6 労働条件の明示の方法
    7. 1-7 過半数代表者の選任
    8. 1-8 その他関係法令の改正
  2. 有給休暇取得の義務化とは?
    1. 2-1 有給休暇取得義務化の概要
    2. 2-2 有給休暇取得の義務化となった背景
    3. 2-3 有給休暇取得義務化の対象
  3. 有給休暇義務化の具体的な内容
    1. 3-1 大原則:年次有給休暇取得義務化
    2. 3-2 年次有給休暇管理簿の作成保存
    3. 3-3 就業規則への規定
    4. 3-4 有給休暇取得義務化の例外
  4. 有給休暇の取得義務化に違反した場合の罰則内容 
    1. 4-1 罰則内容① 有給休暇を取得させない
    2. 4-2 罰則内容② 就業規則に記載しない
    3. 4-3 罰則内容③ 労働者の請求に対応しない
    4. 4-4 罰則が適用された例はあるのか?
  5. 有給休暇取得が進まない原因
    1. 5-1 原因① 取得する際にためらいがある
    2. 5-2 原因② 会社の環境や風土がマイナス影響を与える
    3. 5-3 原因③ ワークライフバランスが取れない働き方が常態化している
  6. 罰則を受けないために企業が行うべき対策
    1. 6-1 個別指定方式の導入
    2. 6-2 計画的付与制度の活用
    3. 6-3 年次有給休暇取得計画表の作成
    4. 6-4 やってはいけないこと
  7. まとめ
       

1.働き方改革の8つのポイント

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法令のことを、冒頭で話した「働き方改革関連法」と称し、改正後の労働基準法が順次施行されました。その改正内容の一つに「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の義務化も含まれています。

 

そもそも「働き方改革」とは、働く人々の置かれた個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。そのために働き方改革関連法では、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」を含めた8つのポイントを掲げています。

 

「働き方改革」の全体像となる8つの改正ポイントは次の通りです。

 

 ① フレックスタイム制の拡充

 ② 時間外労働の上限規制

 ③ 年5日の年次有給休暇の確実な取得

 ④ 高度プロフェッショナル制度の創設

 ⑤ 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ

 ⑥ 労働条件の明示の方法

 ⑦ 過半数代表者の選任

 ⑧ その他関係法令の改正

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

1-1 フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制は、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることによって、仕事と生活との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。これまでは、1か月以内の清算期間における実労働時間が、あらかじめ定めた総労働時間を超過した場合には、超過した時間について割増賃金を支払う必要がありました。

 

その一方で、実労働時間が総労働時間に満たない場合は、欠勤扱いとなり賃金が減額されたり、仕事を早く終わらせることができる場合でも、欠勤扱いにならないよう、総労働時間に達するまでは労働しなければならない状況でもありました。

 

今回の改正によって、清算期間の上限が1か月から3か月に延長となり、その総労働時間の範囲内で、労働者の都合に応じた労働時間の調整が可能となりました。

1-2 時間外労働の上限規制

長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。長時間労働を是正することによって、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり労働参加率の向上に結びつくと考えられています。

 

こうした背景を踏まえ、今回の法改正によって、法律上36協定で定めることのできる時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。今回の法改正によって、労使が協定しても超えることのできない時間外労

働の上限が法律に規定されました。

合わせて読みたい

1-3 年5日の年次有給休暇の確実な取得

年次有給休暇は、働く方の心身のリフレッシュを図ることを目的として、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされています。しかし、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から、取得率が低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっています。

 

このため労働基準法が改正され、2019年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。詳細については本記事の次章以降をご覧ください。 

1-4 高度プロフェッショナル制度の創設

「高度プロフェッショナル制度」とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提に、年間104日以上の休日確保措置や、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度となっています。 

対象労働者は以下の通りです。

① 使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること

② 使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくとも1,075万円以上であること

③ 対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、対象業務以外の業務にも常態として従事している者は対象労働者とはならないこと

1-5 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ

月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率について、現在は中小事業主に対して割増賃金率を5割以上とする規定の適用が猶予されていました。しかし、2023年4月1日以降は中小事業主に対しても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%以上とする規定を適用することとなりました。

1-6 労働条件の明示の方法

改正のポイントは以下2点です。

 ①明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはなりません。

 ②労働条件明示の方法について、労働者が希望した場合には、

  • ファクシミリの送信
  • 電子メール等


の送信(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)により明示することが可能となりました。 

1-7 過半数代表者の選任

改正のポイントは以下2点です。

①過半数代表者の選任に当たって、使用者の意向に基づいて選出された者でないことに留意しなければなりません。

※会社による指名や、社員親睦会の代表が自動的に選出されること等は不適切な選出となります。

②使用者は過半数代表者が協定締結に関する事務を円滑に遂行することができるよう、必要な配慮を行わなければなりません。

※事務機器(イントラネットや社内メールも含む)や事務スペースの提供等を指します。

1-8 その他関係法令の改正

以上の他にも改正された法律があるので、主な2つを解説します。

①労働時間等設定改善法

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の総称です。事業主等に「労働時間等の設定」 の改善に向けた自主的な努力を促すことで、労働者の能力を有効に発揮することや、健康で充実した生活を実現することを目指した法律です。

   ※「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間その他の労働時間等に関する事項を定めることをいいます。

   労働時間等設定改善法の主なポイントは以下の通りです。

  •   勤務間インターバル制度の導入
  •   取引上の必要な配慮
  •   労働時間等設定改善企業委員会

 

②労働安全衛生法

 以下2点が強化されました。

 

  •  産業医・産業保健機能の強化

長時間労働やメンタルヘルス不調などによって、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないよう、産業医の活動環境の整備、健康相談の体制整備や健康情報の適正な取扱いを確実に実施すること。

 

  • 長時間労働者に対する面接指導等の強化

長時間労働やメンタルヘルス不調などによって、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導が確実に実施されるようにし、労働者の健康管理を強化すること。

出典元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 『働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)』


        

2.有給休暇取得の義務化とは?

指さし

「有給休暇取得の義務化」と言う場合、現状では2019年4月の労働基準法改正により、全ての企業(使用者)に対して義務化された、「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日について、使用者が時季を指定して取得させること」を指します。

   

2-1 有給休暇取得義務化の概要

この義務化の概要を年次有給休暇の基本から見ていきましょう。

まず、使用者は、労働者が雇入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。対象労働者には管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

 

この年次有給休暇の取得については、労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な月日を指定した場合には、その日に年次有給休暇を与える必要があります(「時季変更権」による場合を除く)。

 

年次有給休暇の請求権の時効は2年です。前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に与える必要があります。


なお、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取扱い(例えば有給休暇で休んだ分を、勤務しなかったものとして翌年の有給休暇付与や賞与の計算期間から除外するなど)をしないようにしなければなりません。

 

上記の順守すべき事項に加え、2019年4月からは、最低年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務となりました。(労働基準法第39条7)

 

これにより使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、そのうち5日については、取得時季を指定するなどして年次有給休暇を取得させなければならないことになりました。(詳細な内容は第2章以降で説明します。)

   

2-2 有給休暇取得の義務化となった背景

有給休暇の取得が企業(使用者)に義務付けられた背景には、働き方改革による「働きやすい社会の実現」があります。

そもそも年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的として設定されていますが、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から、日本では取得率が伸び悩む傾向が続いていました。

政府は有給休暇の取得率を70%とすることを目標として掲げていますが、厚生労働省が実施した調査において、令和2年1月1日現在の有給休暇取得率は全体として56.3%であり、長年同じような取得率で推移してきた経緯があります。

 

令和2年1月1日現在(年間については平成31年・令和元年または平成30会計年度1年間)の有給休暇取得率

企業規模

労働者1人平均付与日数

労働者1人平均取得日数

労働者1人平均取得率

令和2年調査計

18.0 日 

10.1 日 

56.3 % 

1,000人以上

18.9 日 

11.9 日 

63.1 % 

300人~999人

17.9 日 

9.5 日 

53.1 % 

100~299人

17.6 日 

9.2 日 

52.3 % 

30~99人

17.0 日 

8.7 日 

51.1 % 

 

出典元:令和2年就労条件総合調査の概況(厚生労働省)


このように有給休暇取得率がなかなか進捗しないことを受け、年5日の年次有給休暇の確実な取得が義務付けられました。

結果として、改正法が施行された、翌年度(令和3年1月1日現在)の数字を見ると、以下の図のように改善が見られました。※赤字は改善された部分です。

 

令和3年1月1日現在(年間については令和2年または平成31・令和元会計年度1年間)の有給休暇取得率

企業規模

労働者1人平均付与日数

労働者1人平均取得日数

労働者1人平均取得率

令和3年調査計

17.9 日 

10.1 日 

56.6 % ↑ 

1,000人以上

18.7 日 

11.3 日 

60.8 % ↓ 

300人~999人

17.7 日 

9.9 日 

56.3 % ↑ 

100~299人

17.6 日 

9.7 日 

55.2 % ↑ 

30~99人

17.3 日 

8.8 日 

51.2 % ↑ 

 

出典元:令和3年就労条件総合調査の概況(厚生労働省)


有給休暇取得率は 56.6%となり、昭和59年以降過去最高となりました。

企業規模が1,000人以上の大企業では取得率が低下しましたが、それ以外の規模の企業では軒並み改善となっており、義務化の実効性の高さがうかがえます。

   

2-3 有給休暇取得義務化の対象

今回の改正による義務化の対象範囲は「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者」ですが、どこまでの労働者が含まれるでしょうか。


①入社後6ヶ月が経過している正社員、またはフルタイムの契約社員

 雇入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した労働者には、原則として10日の年次有給休暇が与えられるため、この義務化の対象となります。管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

 

②入社後6ヶ月が経過している週30時間以上勤務のパートタイマー

フルタイム勤務でなくとも所定の労働時間が週30時間以上であるパートタイマーには、入社後6ヶ月が経過したタイミングで10日の有給休暇が付与されます。義務化の対象です。

 

③入社後3年半以上経過している週4日出勤のパートタイマー

所定の労働時間が週30時間未満で、かつ週4日勤務のパートタイマーの場合、原則として入社後3年半が経過し、直近1年間の出勤率が8割を超えていれば10日の有給休暇が付与されます。10日付与になったタイミングで義務化の対象となります。

 

④入社後5年半以上経過している週3日出勤のパートタイマー

所定の労働時間が週30時間未満で、かつ週3日勤務のパートタイマーの場合では、原則として入社後5年半が経過し、直近1年間の出勤率が8割を超えていれば10日の有給休暇が付与されます。10日付与になったタイミングで義務化の対象となります。

 

なお、週の労働日数が2日以下のパートタイマーの場合は、勤務年数に関わらず年10日の有給休暇付与がされることはありませんので、対象外となります。

 
             

3.有給休暇取得義務化の具体的な内容

考える女性

本章では、有給休暇取得義務化に際する具体的な原則内容について解説します。また、有給休暇取得は義務となりますが、例外もあります。ここでは、さらに例外についても詳細を解説します。 

          

3-1 大原則:年次有給休暇取得義務化

使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。

引用元:厚生労働省 - 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

 
使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

 

なお、既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また指定することもできません。つまり、以下のようにまとめることができます。

 

①「使用者による時季指定」、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」のいずれかの 方法で、労働者に1人当たり年5日以上の年次有給休暇を取得させることが必要です。


②ただし、上記いずれかの方法で取得させた年次有給休暇の合計が労働者1人当たり5日に達した時点で「有給休暇取得の義務」は果たされており、それ以上使用者からの時季指定をする必要はなくなります。         

        

3-2 年次有給休暇管理簿の作成保存

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

        

3-3 就業規則への規定

使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)となっており、必ず記載しなければなりません。

       

3-4 有給休暇取得義務化の例外

さらにご注意いただきたいのは、会社の年次有給休暇の付与規定により、義務の発生時期が異なる場合がある点です。

法定の付与日数が10日以上の方ですと、たとえ法定の基準日より前倒して付与する場合であっても、付与日数の合計が10日に達した時点で義務が発生します。

原則、例外をよく確認して、対応漏れのないように注意して対応することが必要です。

 

出典元:厚生労働省 「 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」


例外については以下の例を参考にしてください。
ここにあげた例は代表例ですので、原則を踏まえつつ対応を進めてください。

 

①法定の基準日(雇入れの日から6か月後)より前に10日以上の年次有給休暇を付与する場合

 

労働者に対して法定の基準日より前倒して10日以上の年次有給休暇を付与した場合には、使用者は、付与の日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。

 

通常の場合は入社から半年後に有給休暇を付与します。例えば4/1入社の労働者には、半年後の10/1~翌年9/30の間に5日の有給休暇を取得させる必要がありますが、入社日に前倒しで10日以上の年次有給休暇を付与した場合、付与日(入社日)から1年以内(4/1~3/31)に5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。

 

引用元:厚生労働省 「 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

 

入社した年と翌年で年次有給休暇の付与日が異なるため、5日の指定義務がかかる1年間の期間に重複が生じる場合 (全社的に起算日を合わせるために入社2年目以降の社員への付与日を統一する場合など)

 

期間に重複が生じた場合には、重複が生じるそれぞれの期間を通じた期間(前の期間の始期~後の期間の終期の期間)の長さに応じた日数(比例按分した日数)を、その期間で取得させることも認められます。

 

例えば4/1入社から半年後(2019/10/1)に10日以上の年次有給休暇を付与し、翌年度以降は全社的に起算日を統一するため、2020/4/1に翌年度分の年次有給休暇を付与する場合などです。

 

この例の場合、2019/10/1と2020/4/1を基準日としてそれぞれ1年以内に5日の年次有給休暇を取得させる必要がありますが、管理を容易にするため2019/10/1(1年目の基準日)から2021/3/31(2年目の基準日から1年後)までの期間(18か月)に、7.5日(18÷12×5日)以上の年次有給休暇を取得させることもできます。

引用元:厚生労働省 「 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」


③ 
10日のうち一部を法定の基準日より前倒しで付与した場合

 

10日のうち一部を法定の基準日より前倒しで付与した場合には、付与日数の合計が10日に達した日から1年以内に、5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。


なお、付与日数の合計が10日に達した日以前に、一部前倒しで付与した年次有給休暇を労働者が自ら請求し取得していた場合には、その取得した日数分を5日から控除する必要があります。

 

例えば入社(2019/4/1)と同時に5日の年次有給休暇を付与し、2019/7/1に更に5日の年次有給休暇を付与した場合です。付与された年次有給休暇が合計で10日に達した2019/7/1が基準日となり、その日から1年以内に年次有給休暇を5日取得させることが義務となります。

 

この場合で、入社時に一部前倒しで付与された年次有給休暇を、労働者が基準日以前(2019/4/1~2019/6/30)に取得していた、例えば5月と6月に1日ずつ有給休暇を取得した場合は、その分を控除し、「5日-2日=3日」が取得義務の日数となります。

 

引用元:厚生労働省 「 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
              

4.有給休暇の取得義務化に違反した場合の罰則内容

では、企業が、もしこの義務化に対応できず、年次有給休暇を5日取得できない従業員が出てしまった場合はどうなるでしょうか。

今回の改正については、労働者を雇用する全ての使用者に対する義務となり、実行できない場合の罰則が設けられています。



          

4-1 罰則内容① 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合

労働基準法 第39条第7項に違反し、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合は、労働基準法 第120条に基づき、30万円以下の罰金が科されます。

なお、罰則における違反は、対象となる労働者1人あたり1罪として取り扱われますので、有給休暇を5日取得できなかった労働者が5人いれば最大で150万円、10人だと300万円の罰金を科される可能性があります。 

           

4-2 罰則内容② 就業規則に無記載の場合

使用者による時季指定を行う場合で、就業規則にその点が記載されていない場合(労働基準法 第89条違反)は、労働基準法 第120条に基づき、30万円以下の罰金が科されます。

   

4-3 罰則内容③ 労働者の請求に対し有給休暇を与えなかった場合

労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合(労働基準法 第39条違反、但し第7項を除く)は、労働基準法 第119条に基づき、6か月以下の懲役または 30万円以下の罰金が科されます。

こちらの違反も、対象となる労働者1人あたり1罪として取り扱われます。

   

4-4 ちなみに罰則適用された例はあるのか?

これらの違反について、労働基準監督署の監督指導においては「原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただく」 とされています。(改正労基法に関するQ&A(平成31年4月厚生労働省労働基準局)3-19)

 

「違反イコール即罰則」とはならないようですが、これは法律の規定に「意味がない」ということでは決してありません。悪質な場合や改善がなされない場合には実際に罰則が科される場合もあることに十分注意しましょう。

 

また、罰則の適用は、あくまでも使用者(企業)に課されます。
たとえば使用者が時季指定をしている場合で、労働者が従わずに自分の判断で出勤し労働したとしても、5日休ませることができなかった使用者は責任を免れることができません。

 

義務化違反に対して初の送検事例も報道されています。

2021年7月8日に、愛知・津島労働基準監督署が、労働者6人に対して年次有給休暇取得の時季指定を怠ったとして、事業者を名古屋区検へ書類送検したのが初の適用事例となっています。

 

出典元:労働新聞社記事
       

5.有給休暇取得が進まない原因

年次有給休暇は、労働者に与えられた権利であり、以前から労働基準法に定められていました。法定の制度なのに、なぜ罰則まで設けなければならないほど、取得が進まないのでしょうか。

これには、日本企業特有の原因があると考えられます。

          

5-1 原因① 取得する際にためらいがある

全体の過半数の労働者が有給休暇の取得にためらいを持っていることが分かっています。

厚生労働省のデータでは、労働者の45.5%が年次有給休暇の取得に「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と回答しており、その理由として約60%の労働者が「周囲に迷惑がかかると感じるから」という回答を挙げました。

引用元:厚生労働省 年次有給休暇取得促進特設サイト「令和3年度「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査」


 日本の企業数は、大企業 約11,000社、中規模企業 約557,000社、小規模事業者 約3,252,000社で、小規模な事業者が圧倒的多数です。(「平成26年経済センサス-基礎調査」より)

 

中小企業が全体の99.7%を占め、また従業員が5名以下の小規模企業は日本の全企業数の9割弱、雇用の1/4を占めています。

 

このような企業では、1人が休むと他の従業員に負担がかかり、「周囲に迷惑がかかる」と感じて有給休暇が取りづらい場合も多いでしょう。小規模企業ほど労働者1人あたりの有給休暇平均取得率が低いことは、これを裏付けています。

        

  

5-2 原因② 職場環境や組織風土がマイナス影響を与える

「職場に休める空気がない」や「上司・同僚が有給休暇を取らない」などの理由を、有給休暇を取得しない(できない)理由に挙げる従業員も多くいます。

 

2017年7月18日~19日ビッグローブ株式会社で実施された、「有給休暇に関する意識調査」では、有給休暇を取得しづらい理由として「職場に休める空気がない」という回答が33.6%もあり、また「上司・同僚が有給休暇を取らないから」(22.3%)など、職場の環境・風土により休みづらい場合があることが分かります。

引用元: 『有給休暇を取得しづらい理由は「職場の空気」が1位に』

 

また、同調査では、自分が勤務する会社は「有給休暇を取りやすくするための工夫をしているか」について質問したところ、「工夫がない」と回答した人が74.4%となり、企業から有給休暇取得について発信、奨励するビッグローブ株式会社プレスルームことを望まれているのにできていないことが読み取れます。

引用元:ビッグローブ株式会社プレスルーム 『有給休暇を取得しづらい理由は「職場の空気」が1位に』

        

  

5-3 原因③ ワーク・ライフ・バランスが取れない働き方が常態化している

ワークライフバランス

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が本来意味しているのは、「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」のことです。(政府広報オンライン定義)

 

しかし現実では、特に正社員で長時間労働をしている割合が多く、一時社会情勢により低下した時期(リーマンショック前後)はあれど、2005年~2016年まで減少傾向があまり見られません。


引用元:内閣府「第1節 働き方改革が求められる労働市場の課題_4長時間労働の現状」


常に長時間労働をしていないと業務が回らない環境で仕事をしていれば、有給休暇を取得する余裕もなかなか生まれないことは、容易に想像がつきます。

このような仕事環境が長年継続していることも、有給休暇取得が進まない背景にはあるようです。

充実した福利厚生を目指すなら「WELBOX」

介護・育児・自己啓発・健康増進・旅行やエンターテイメントなど、多彩なメニューがパッケージとなっている福利厚生サービスです。
従業員のライフスタイル・ライフステージに応じて、メニューを選択しご利用いただくことが可能です。

        

6.罰則を受けないために企業が行うべき対策

そもそも「罰則を受けないために」対策を行うのは本来の意義から外れます。

 

有給休暇取得は労働者がリフレッシュし、長く働いていくための権利です。義務化は労働者がその有給休暇を気兼ねなく取得し、ワーク・ライフ・バランスを実現し、ひいては働いている企業にも活気をもたらすことを目的として制定されています。

 

本来の意義を見失うことなく、それぞれの企業で取り組みを進めることが必要です。とはいえ、その過程で、うっかりミスで期間を見誤るなどの違反のないように対策を行うことは、企業にとっても重要です。正しく有給休暇を取得させるためにしっかり対策を講じましょう。

         

6-1 個別指定方式の導入

個別指定方式とは、企業側で従業員の有給休暇取得状況をチェックし、5日未満の従業員に対して、個別に年5日の年次有給休暇を日付指定して取得させる方法です。

この方法を採用する際は、労働者の意見を聴取しなければなりません。
また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

●メリット:満足度の向上や柔軟な働き方の実現ができる
●デメリット:個別の休暇取得状況の把握や違憲確認など、管理手間が多くかかる 

       

  

6-2 計画的付与制度の活用

 

計画的付与制度とは、企業が労働者の代表と労使協定を結ぶことで、労働者の有給休暇取得日をあらかじめ指定できる制度です。
計画年休制度を導入することでその法人は有給休暇取得義務の対象から除外されます。

 

●メリット:個別に労働者の有休取得状況を管理する手間がなくなり、かつ確実な有給休暇取得が見込める
●デメリット:労使協定を結ぶ必要があるのでその手間が発生し、また労働者の個別の要望は反映できない 


           

6-3 年次有給休暇取得計画表の作成

年次有給休暇取得計画表とは、有給休暇の取得予定と実際に取得した実績が比べられる表のことです。
これを作成し、有給休暇の取得予定を明確にすることにより、取得時季の調整も簡素化されます。

 

計画表作成の際は、従業員が年間を通して計画的に有給休暇を取得でき、有給休暇の確実な取得履行がなされるように、まずは基準日にその年の計画表を作成することが大事です。


年次有給休暇取得計画表は、厚生労働省などでもサンプルを公開していますので、参考にして、自社で運用しやすいフォーマットを取り入れるといいでしょう。
勤怠管理などのシステムを採用されている場合は、自動で作成できる場合もあります。

 

※出典元:厚生労働省「 簡単にできる年次有給休暇取得システムの提案 有給休暇ハンドブック②」


●メリット:従業員が計画的かつ自主的に有給休暇を取得でき、また休暇年度・四半期・月別などの区切りで
       各人の取得予定を明らかにすることにより、職場内での業務調整がしやすくなる

●デメリット:作成・管理に管理部門、管理職の手間がかかる

           

6-4 やってはいけないこと

実態を伴わない抜け道のような対応策は、脱法行為として捉えられるリスクが非常に高い行為です。例えば、以下のようなことです。

 

  • 週休2日の会社で、月に1~2日を労働日に変え、その分を有給休暇として休ませる
  • 夏休みや年末年始など特別休暇の一部を労働日に変更し、その分を有給休暇として取得させる

 

有給休暇を5日取得させる義務を果たすために、もともとあった休みや特別休暇を労働日に変えるのは、労働者にとって休日が減少するという不利益変更にあたります。就業規則を変更しなければいけないうえ、無理に同意を得て変更を記載しても本来の意義から外れるため、労働基準監督署から指導を受ける可能性があります。

 

罰則を受けないための対策で、逆に悪質と判断される可能性すらありますので、本来の意義を確認し、そこから外れないような有給休暇取得策を進めることが大切です。

イーウェルで提供している福利厚生、健康経営などのサービスをご紹介!

        

7.まとめ

有給休暇取得をさせることは企業にとって義務であり、もはや常識であるともいえます。
年5日取得の管理を怠った場合は罰則が科せられ、その結果として、企業の社会的評価が下がる危険性があります。

企業としてすでに取り組まれている場合も抜け漏れのないよう継続管理が必要です。
万が一まだ取り組まれていない場合は、組織風土を変えたりし、取得に向けた対策を講じるようにしてください。

 

法令に則り、有給休暇を従業員に取得させ、リフレッシュさせることが、結果的に業務に対するモチベーションアップにもつながることでしょう。

 

株式会社イーウェル 運営会社ロゴ

著者情報

株式会社イーウェル ウェルナレ事務局

「人も、企業も、ウェルビーイングへ。」をテーマとして、企業の健康経営や福利厚生の支援を行う株式会社イーウェルが運営する、BtoB(人事総務向け)オウンドメディア「ウェルナレ」の編集部。
2021年7月にメディアリリース後、毎年60回以上、有名企業様とのコラボセミナーや官公庁の専門分野に特化した方を招いてのカンファレンス、大学教授による福利厚生勉強会の開催や専門家記事の掲載などを実施し、多くの方に好評いただいております。
人事部署や経営者が、会社のウェルビーイングを向上されるためのヒントを探して、日々活動しています。

 

    


Related keywords

Related article

Recommend

ダウンロード資料
♠最新人気ランキング♠

メルマガ登録

最新情報や
お役立ち資料を自動受信