最低限必要な福利厚生とは?おすすめの福利厚生や導入時のポイントも解説
「起業したばかりで、どんな福利厚生を用意すればいいのかわからない」
「最低限の福利厚生だけでも問題ないのか不安」
「コストを抑えながら効果的な福利厚生制度を作りたい」
こんな悩みを抱える経営者や人事担当者の方は多いのではないでしょうか。
福利厚生には法律で義務付けられた「最低限」のラインがあり、それを下回ることは違法行為となります。
一方で、法定福利厚生しか制度がなく、法定外の福利厚生をまったく用意しない企業は人材確保の面で大きなハンデを背負うことになるでしょう。
本記事では、企業が最低限備えているべき法定福利厚生の内容から、コストを抑えながら従業員満足度を高める実践的な法定外福利厚生制度まで、具体的な事例を交えて解説します。
目次
1.企業に最低限必要な福利厚生
福利厚生とは、給与や賞与以外に企業が従業員とその家族に提供する各種サービスや制度のことです。従業員の生活の安定と向上を図ることで、働きやすい環境を整備し、結果として企業の生産性向上や人材確保につなげる重要な経営戦略のひとつといえます。
福利厚生には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があり、それぞれ性質が大きく異なります。
法定福利厚生は、法律で企業に義務付けられた社会保険制度です。
健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の6種類が該当し、これらは企業規模や業種に関わらず、条件を満たせば必ず加入しなければなりません。
法人企業で従業員を1人でも雇用する場合、または常時5人以上の従業員がいる個人事業所は、健康保険と厚生年金への加入が義務付けられています。
労災保険については、正社員・アルバイトなど雇用形態に関わらず、労働者を1人でも雇用した時点で加入義務が発生します。
雇用保険も週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者を雇用する場合は必須です。
子ども・子育て拠出金は企業のみに支払い義務がありますが、児童手当の支給に必要な費用や、国や自治体が実施する子育て支援事業費などの一部として徴収されるもので、最終的には子育てをするすべての方に還元されるべき福利厚生費です。
これらの法定福利厚生は「最低限」というより、法律的に備えておかなくてはならない福利厚生といえるでしょう。
一方、法定外福利厚生は企業が独自に設ける制度で、通勤手当、住宅手当、食事補助、特別休暇などが含まれます。法的義務はありませんが、企業活動や採用活動をするうえで必要な福利厚生といえます。
現代の採用市場では、法定外福利厚生がまったくない企業は求職者から敬遠される傾向が強く、人材確保の観点から何らかの制度は用意すべきでしょう。
福利厚生制度の詳細については、福利厚生の基礎知識と最新トレンドもご参照ください。
2.福利厚生がまったくないとどうなる?

法定福利厚生すら整備されていない、あるいは法定外福利厚生がまったくない企業は、法的リスクと経営リスクの両方を抱えることになります。
2-1 法律違反で行政指導や罰則の対象に
法定福利厚生への加入を怠った場合、健康保険法第208条等に基づき6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
社会保険(健康保険・厚生年金)の未加入が発覚すると、年金事務所から加入指導や立入検査を受けることになります。悪質な場合は刑事罰の対象となるだけでなく、過去2年分の保険料をさかのぼって徴収されます。従業員負担分も含めて企業がいったん立て替え払いする必要があり、退職者の分は連絡が取れなければすべて企業負担となってしまいます。
雇用保険・労災保険についても同様に、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています。
さらに社会保険未加入の企業はハローワークで求人を出すこともできません。
法定福利厚生の不履行は企業活動そのものを困難にする致命的な問題となるのです。
2-2 企業イメージの悪化
福利厚生がない企業は「従業員を大切にしない会社」として社会的信用を失います。
法定福利厚生すら整備していない企業は、基本的な法令遵守意識に欠けると見なされ、取引先や金融機関からの信用も失墜します。
行政処分を受ければその事実が公表される可能性もあり、企業のブランドイメージは大きく傷つくでしょう。
法定外福利厚生についても、まったく用意がない企業は「ブラック企業」のレッテルを貼られやすくなります。SNSでの情報拡散も速い現代において、劣悪な労働環境だという評判は瞬時に広まってしまう場合も。もし炎上してしまった場合、傷ついた企業イメージの回復には長い時間がかかります。
2-3 従業員の不信感と離職率の増加
福利厚生がない企業では、従業員満足度が著しく低下し、離職率が高止まりします。
社員からすれば、自分や家族の生活を守る制度が何も用意されていない会社に将来を託すことはできません。「会社は従業員を単なる労働力としか見ていない」という不信感が募り、モチベーションの低下は避けられないでしょう。
実際、福利厚生が充実している企業と比較して、福利厚生がない企業の離職率は2倍以上高いというデータもあります。特に若い世代ほど福利厚生や職場環境を重視する傾向が強く、優秀な人材ほど早期に見切りをつけて転職してしまいます。
3.福利厚生が必要ないケースとは?
例外的に福利厚生の必要性が低い、あるいは限定的でよいケースも存在します。ただし、これらは極めて特殊な状況であることを理解しておく必要があります。
従業員を直接雇用していない場合は、法定福利厚生の加入義務は生じません。
たとえば、すべての業務を業務委託やフリーランスに外注しており、社内に労働者としての従業員がいない場合です。フリーランスは個人事業主として自ら国民健康保険・国民年金に加入するため、企業側の負担はありません。
また、役員のみで従業員ゼロの会社も同様です。ただし、法人代表者は役員報酬がある場合、厚生年金・健康保険への加入義務があるため、完全に社会保険が不要というケースは限定的です。
個人事業で従業員が5人未満の農林水産業・サービス業等は、厚生年金・健康保険への加入が「任意」とされています。ただし、労災保険・雇用保険は従業員1人から義務発生するため、小規模でも労働者を雇う限り完全に福利厚生不要とはなりません。
週20時間未満の短時間労働者のみを雇用する場合も、雇用保険や社会保険の適用対象から外れることがあります。しかし、この手法は人材確保や従業員のモチベーション維持、また将来的な人材の定着などの観点から、長期的にはマイナスとなりかねません。
4.福利厚生を充実させる4つのメリット

法定福利厚生は最低限として、法定外福利厚生を充実させることで企業は大きなメリットを得ることができます。
- 企業イメージの向上
- 採用活動のアピールポイント
- 従業員満足度・生産性の向上
- 節税効果とコスト削減
- スキルアップ支援
4-1 企業イメージの向上
福利厚生が充実している企業は「従業員を大切にする会社」として社会的評価が高まります。
健康経営優良法人やくるみん認定など、公的な認定制度を取得することで対外的な信頼性も向上します。福利厚生の導入目的として「企業イメージ向上」を挙げる企業は約半数にのぼります。
取引先や投資家からも「従業員への投資を惜しまない成長志向の企業」と評価され、ビジネスチャンスの拡大にもつながりやすくなるでしょう。
4-2 採用活動のアピールポイント
多くの求職者は転職活動時に福利厚生を重視する傾向にあります。
特に新卒採用では、初任給の金額以上に福利厚生の充実度が志望度を左右することも珍しくありません。住宅手当や食事補助など、実質的に手取りを増やす効果のある福利厚生は、給与水準で劣る中小企業でも大手企業と互角に戦える武器となります。
実際、福利厚生導入の目的として「採用力の向上」を挙げる企業は56.7%にのぼり、人材獲得競争において福利厚生が重要な差別化要因となっていることがわかります。
4-3 従業員満足度・生産性の向上
福利厚生の充実により、従業員のエンゲージメントが向上し、離職率の低下と生産性向上を実現できます。
企業の総務担当者への調査では、福利厚生導入の目的として「離職率の低下」が70.1%と最も多く挙げられています。実際、福利厚生を充実させた企業では離職率が28%から4%まで改善したという事例も報告されています。
従業員は「会社から大切にされている」と感じることで、仕事へのモチベーションが向上。結果として生産性が上がり、業績向上にもつながる好循環が生まれます。
4-4 節税効果とコスト削減
福利厚生費は損金算入が可能なため、法人税の節税効果があります。
全従業員に公平に提供される福利厚生は経費として認められやすく、利益圧縮による税負担軽減が期待できます。
また、通勤手当は月15万円まで非課税となるため、給与として支給するより社会保険料の負担を抑えることも可能です。
長期的には離職率低下による採用コスト削減、生産性向上による収益増加など、初期投資を上回るリターンが期待できるでしょう。
5.おすすめの福利厚生7選
限られた予算で最大の効果を得るために、従業員満足度が高く導入しやすい福利厚生制度を7つご紹介します。
- 通勤手当
- 家賃補助・住宅手当
- 育児・介護支援
- 食事補助
- 特別休暇
- スキルアップ支援
- 慶弔見舞金
5-1 通勤手当
通勤手当は最も一般的で、従業員にとって必要不可欠な福利厚生です。
公共交通機関の定期代全額支給や、マイカー通勤者へのガソリン代補助など、実費負担を軽減する制度です。月15万円までは非課税となるため、企業・従業員双方にメリットがあります。
ユニークな例として、カヤック社の「鎌倉職住近接手当」があります。オフィス近くに住む社員に家賃補助を出すことで、通勤ストレスを減らし、同時に通勤手当を削減する一石二鳥の制度です。
参考:カヤック
5-2 家賃補助・住宅手当
若手社員や地方からの転職者に特に人気が高い制度です。
家賃の一定割合(20~50%)や定額(2~5万円)を補助する形が一般的です。社宅制度にすれば、家賃の一部を会社負担にしても従業員給与とみなされず、社会保険料を抑えられるメリットもあります。
フリー社では借上社宅制度により家賃の50%を会社負担とし、社員の手取り増加と社会保険料軽減を同時に実現しています。
参考:freee
5-3 育児・介護支援
ワークライフバランスの実現に欠かせない、今最も注目される福利厚生です。
法定の育児・介護休業を超えた独自制度により、従業員の定着率向上が期待できます。バンダイナムコオンラインでは第3子以降に300万円の出産祝金を支給、メルカリは認可外保育園の保育料差額を全額負担するなど、手厚い支援を行っています。
ZOZO社の「家族時短制度」は、ペットの世話も対象とするユニークな取り組みで、多様な家族のあり方に対応しています。
5-4 食事補助
従業員満足度ランキングで常に上位に入る人気の福利厚生です。
社員食堂の設置が難しい中小企業でも、弁当代補助や食事券の配布、オフィスおかん・オフィスグリコなどの設置型サービスで対応可能です。また、従業員がかかった費用の半分以上を負担しており、かつ会社負担額が月額3,500円(税抜)までであれば、非課税扱いとなる税制メリットもあります。
健康管理の観点からも効果的で、食事補助の充実により離職率を大幅に改善した企業もあります。テレワーク時代に対応し、在宅勤務者にも使える食事券サービスを導入する企業も増えています。
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5-5 特別休暇
比較的低コストで導入でき、従業員満足度が高い制度です。
誕生日休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇など、有給休暇とは別枠で設定します。クルーズ社の「アニバーサリー休暇」は、推しキャラの誕生日でも取得可能という遊び心のある制度で話題となりました。
リクルート社は有給休暇を4日以上連続取得すると5万円支給する「アニバーサリー手当」で、有給消化促進と従業員のリフレッシュを両立させています。
参考:リクルート
5-6 スキルアップ支援
従業員の成長を支援することで、エンゲージメント向上と人材育成を同時に実現できます。
資格取得費用の補助、外部研修の受講料負担、書籍購入補助などが代表的です。業務に直接関連する分野に限定することで、費用対効果を高めることができます。
最近では、独自の教育プログラムを構築する企業も増えています。中小企業でも、月1万円の書籍購入補助や資格取得祝金など、できる範囲から始められます。
5-7 慶弔見舞金
従業員の人生の節目に寄り添う、企業の温かさを示す制度です。
結婚祝金3~5万円、出産祝金1~3万円が一般的な相場です。災害見舞金や永年勤続表彰なども含まれます。頻度は高くありませんが、いざというときに会社が支えてくれるという安心感を与える重要な制度といえるでしょう。
大和ハウス工業では「親孝行支援制度」として、社員の実家への帰省費用を年4回まで補助するなど、ユニークな取り組みも見られます。
参考:大和ハウス工業
なお、最新のトレンドを取り入れた福利厚生については2024年注目の福利厚生トレンドでも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
6.福利厚生を導入する際の4つのポイント

効果的な福利厚生制度を構築するためには、戦略的なアプローチが不可欠です。
- 導入目的を明確にする
- 費用対効果を確認する
- 従業員のニーズを把握する
- 定期的に制度を見直す
6-1 導入目的を明確にする
「何のために福利厚生を充実させるのか」という目的を明確にすることが成功の第一歩です。
人材採用力の強化、離職率の改善、従業員の健康増進など、目的によって重点を置くべき制度は変わります。若手採用強化なら住宅手当やスキルアップ支援、女性活躍推進なら育児支援の充実といった具合に、目的に応じた制度選択が重要です。
目的が明確であれば、効果測定の指標も設定しやすく、PDCAサイクルを回すことができます。
6-2 費用対効果を確認する
限られた予算で最大の効果を得るため、費用対効果の検証は欠かせません。
導入前に概算コストを試算し、自社で運営するか外部サービスを活用するかも含めて検討します。たとえば社員食堂の自前運営は高コストですが、食事券サービスなら初期投資を抑えられます。
税制優遇を活用した福利厚生費としての損金算入により、実質的なコスト負担を軽減することも重要です。
離職率改善による採用コスト削減効果も含めて、総合的に判断しましょう。
6-3 従業員のニーズを把握する
使われない制度は無駄なコストです。事前のニーズ調査は必須といえるでしょう。
アンケートやヒアリングを通じて、従業員が本当に求めている福利厚生を把握します。実際、福利厚生の満足度調査を実施している企業は多く、社員の声を反映した制度は利用率・満足度ともに高くなる傾向があります。
世代や職種、家族構成によってニーズは異なるため、できるだけ多様な選択肢を用意することが理想的です。
6-4 定期的に制度を見直す
一度導入したら終わりではなく、環境変化に応じた見直しが不可欠です。
毎年見直す企業や、2~3年に1度見直す企業がある一方、見直しをしていない企業も存在します。社会情勢の変化や従業員からの要望を踏まえ、柔軟に制度改定を行いましょう。
利用率の低い制度は廃止し、新たなニーズに対応する制度を導入するなど、常に最適化を図ることが重要です。特にコロナ禍以降はテレワーク対応の福利厚生が求められるなど、時代の変化への対応が欠かせません。
7.まとめ
企業にとって法定福利厚生は法的義務であり、これを怠ることは違法行為となります。
健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険などの法定福利厚生は、企業規模に関わらず条件を満たせば必ず加入しなければなりません。違反すれば罰則の対象となるだけでなく、企業の信用失墜にもつながります。
一方で、法定外福利厚生は義務ではありませんが、現代の採用市場では必須といえるでしょう。通勤手当、住宅手当、食事補助など、従業員のニーズに応じた制度を整備することで、採用力の向上と離職率の改善を実現できます。
福利厚生の充実は単なるコストではなく、人材への投資です。従業員満足度の向上は生産性向上につながり、最終的には企業の収益性改善をもたらします。自社の経営戦略と従業員ニーズを踏まえ、費用対効果の高い制度から段階的に導入していくことが成功への近道といえるでしょう。
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