健康経営戦略マップは本当に必要?作り方や進め方について
健康経営に本格的に取り組もうと思っても、改善点や新たに導入すべき施策を考えるのは大変ですよね。そんなときは、健康経営戦略マップを作成し、経営課題から逆算して施策を考えるのがおすすめです。
本記事では、戦略マップの概要から作成方法、実際の活用事例まで紹介します。この記事を読めば、戦略マップの作り方が明確になり、自社に適した施策を導き出す一歩となるでしょう。
1.健康経営戦略マップの概要
健康経営戦略マップとは、企業の経営課題と健康経営の施策を一連の流れで図式化したものです。健康経営戦略マップは、経済産業省が策定する「健康投資管理会計ガイドライン」のひとつに含まれます。
まず、健康投資管理会計や健康投資管理会計ガイドラインについて説明してから、戦略マップについて詳しくお伝えします。
1-1 健康投資管理会計とは
健康投資管理会計とは、健康投資を効果的に進めるために、施策にかかる経費と得られた結果を客観的に測定・伝達する仕組みです。健康投資とは健康経営を進めるための施策に要する費用のことをいいます。施策にかかる費用と得られた結果の数値を照らし合わせ、投資対効果を客観的に判断します。例えば、従業員の健康増進を目的に、健康に関するセミナーを実施するとしましょう。
セミナー前後で「健全な食生活を送れている」とアンケートで回答する割合が、どのように変わったかを算出します。測定終了後、セミナーに要した費用と結果を見れば、合理的な施策なのかが判断できるでしょう。
それぞれの施策にかかる費用とその効果が明らかになれば、効果的な施策を残し、効果の薄い施策を省くことができます。その結果、効率的な健康経営の推進へと繋げられるようになるでしょう。
参考:経済産業省「健康投資管理会計_実践ハンドブック」
1-2 健康投資管理会計ガイドラインとは
健康投資会計ガイドラインとは、企業が健康経営の取り組みをさらに促進できるように策定された資料です。管理会計の手法を用いて、経費と効果が見える化されれば、合理的な判断で健康経営を進めやすくなります。このガイドラインでは、以下の4つのシートを順番通りに作成することを推奨しています。
- 戦略マップ
- 健康投資シート
- 健康投資効果シート
- 健康資源シート
これらを作成すれば、経営課題の改善や施策の効果検証、健康経営の現状を具体的に把握できるようになるでしょう。
参考:経済産業省『「健康投資管理会計ガイドライン」について』
1-3 健康経営戦略マップは「健康投資管理会計ガイドライン」の1つ
先述したように、戦略マップはガイドラインで作成を推奨されているシートのうちのひとつです。戦略マップを作成すると、経営課題を解決するプロセスを図式化でき、従業員や外部人材の共感を得やすくなるでしょう。
例えば、生産性の改善が経営課題だとします。生産性の向上には、心身の不調による欠勤や休職を防止するのが効果的です。そのための施策として、ストレスチェックや人間ドッグなどといった心身のケアが必要だと考えられます。
このように、経営課題から施策までが一連の流れで説明できるため、健康経営の施策への理解を得やすくなるでしょう。
2.健康経営戦略マップの作り方
健康経営戦略マップは、まず、はじめに経営課題から記入します。そうすることで、課題から逆算して健康経営の施策が見えてきます。大まかな流れは以下の通りです。
- 健康経営で解決したい経営課題を設定する
- 健康関連の最終的な目標指標を設定する
- 従業員等の意識変容・行動変容に関する指標を設定する
- 健康投資施策の取組状況に関する指標を設定する
- 健康投資を設定する
経済産業省が公開している健康投資管理会計作成準備作業用フォーマットを使って、実際に作成してみてください。
2-1 健康経営で解決したい経営課題を設定する
最初に、健康経営で解決したい経営課題を設定します。ここで設定する課題が戦略マップの肝となるので、他の従業員や経営陣も納得できる課題を設定することが大切です。「生産性の向上」「従業員満足度アップ」など、直接的に健康に関わることでなくても、問題ありません。
もし考えるのが難しければ、これまで実施してきた健康経営の施策を思い返してみてください。それらの施策が社内で認められたということは、社内で重要だと認識される経営課題が背景にある可能性があります。
何も無い状態から経営課題を設定するのは難しいかもしれませんが、これまでの取り組みにヒントはあるはずです。可能であれば、他の従業員や経営陣と話し合い、さまざまな視点から経営課題を探してみるといいでしょう。
2-2 健康関連の最終的な目標指標を設定する
最終的な目標指標とは、経営課題に直結する健康関連の指標です。経営課題が定まった後に設定します。例えば、経営課題が生産性の向上であれば、以下が考えられます。
- 業務効率の低下の防止
- 精神的・身体的な不調の予防
- 仕事にやりがいを感じられている従業員率の増加
欠勤率や休職率は低いものの、従業員のパフォーマンスがよくない場合は「労働環境の改善」を目標指標に設定できるでしょう。同じ経営課題であっても、企業の状況によって定めるべき目標指標は異なります。経営課題を解決するために有効な指標は何なのか、よく考察することが大切です。
2-3 従業員等の意識変容・行動変容に関する指標を設定する
次に、従業員等の意識や行動に関する指標を設定します。ここでは、先ほど定めた目標指標を達成するために重要な要素を抽出します。例えば「精神的・身体的な不調の予防」が目標指標だとすると、その背景でどんな問題があるのかを考えましょう。ストレスの解消や運動習慣を身につけること、睡眠改善など、考えられるものをすべて洗い出します。
健康と日常生活はかかわっているため、業務上の問題点だけでなく、日常生活で従業員が抱える問題も挙げるのが大切です。
2-4 健康投資施策の取組状況に関する指標を設定する
従業員等の意識や行動に関する指標が定まったら、取り組みに関する指標を設定します。健康に関するセミナーの実施や残業時間削減など、具体的な取り組みを考えます。
睡眠改善を「従業員等の意識変容・行動変容に関する指標」で設定したとしましょう。その場合、ここでは睡眠に関する知識を身につけることや、仮眠スペースの設置などが考えられます。ただし、睡眠の質が低下する原因はさまざまです。より本質的な解決に繋がるように、問題を細分化して考えると多くのアイデアが得られます。
2-5 健康投資を設定する
最後に、実際に行う具体的な施策を設定します。先ほどの定めた指標が「睡眠に関する知識を身につけること」なら、具体的な施策は「睡眠に関するセミナーの実施」です。
具体的な施策を設定できれば実施するだけですが、施策によっては大きな費用を要することもあります。もし、予算的に実施が難しい場合、図の右側へと遡って、別の視点から経営課題を解決できないか考えてみるのもいいでしょう。
3.健康経営戦略マップを活用するコツ
健康経営戦略マップを活用するコツは以下の3つです。
- 経営陣に結果を共有する
- 各項目の相関関係を見極める
- 定期的に評価・調整を行う
それぞれ具体的に説明します。
3-1 経営陣に結果を共有する
健康経営戦略マップが完成したら、決裁権を持つ経営陣に結果を共有しましょう。具体的な施策を設定できたとしても、経営陣の協力が無ければ全社での実施は難しいからです。戦略マップがあれば、経営課題に紐づいた施策を視覚的に訴えられるので、経営陣の理解も得やすくなるでしょう。
例えば、「生産性向上を達成するためには、業務効率低下による損失を抑えるべきです。睡眠改善によって業務効率低下を予防できると予想しており、睡眠に関するセミナーの実施が必要だと考えられます。」と、戦略マップを右から左へと流れるように説明できます。
もし不備があったとしても、どの部分に違和感を覚えたかを指し示しやすいため、迅速な修正も可能です。
3-2 各項目の相関関係を見極める
戦略マップは、各項目の相関関係を見極めることで有効活用できます。例えば「健全な食生活の比率」と「欠勤・休職率の低減」を繋げた場合、これらにどれほどの相関があるかを確かめましょう。四半期に一度など、一定期間を空けて測定し、両者の数字が連動して動いていれば相関関係があるといえます。
「健全な食生活の比率」が向上する一方で、「欠勤・休職率の低減」が変わらなければ、相関がない可能性が高いです。はじめから完璧な戦略マップは作れなくて構いません。結果が出てからそれぞれの指標間に相関関係があるかを確認すればいいでしょう。
3-3 定期的に評価・調整を行う
戦略マップは改善を繰り返すことで、それぞれの企業に適したものになります。そのため、戦略マップを見直す時期をあらかじめ決めておくのがおすすめです。
評価・調整をする際は、戦略マップ単体ではなく、健康投資効果シートや健康資源シートの内容も参考になります。施策ごとの投資対効果や指標間の相関関係を確認すれば、修正すべき点が見えてきます。よりよい戦略マップを作成するためには、内容を定期的に見直し、徐々に磨き上げる意識を持つことが大切です。
4.健康経営のケーススタディと実践事例
『ウェルナレ』を運営する株式会社イーウェルでは、企業理念として「健康社会の実現」を掲げ、心豊かで活力ある暮らしをサポートすることにより、健康で豊かな企業社会と地域社会の実現を目指し、その実現のために健康宣言を策定し、健康経営プロジェクトとして健康経営を推進しています。
以下の通り、健康投資管理会計のフォーマットに沿って、単年度の取り組みを戦略マップとして策定しています。ここでは従業員が健康でいきいきと働き、パフォーマンスの向上が期待できる流れを掲げています。
また、イーウェルの健康経営プロジェクトによる過去3年間の取り組みをもとに、以下の通り目標に対する指標の変化を把握し、改善に結びつけています。
健康経営を推進するうえで必要な「健康経営度調査」「健康投資管理会計ガイドライン」などを活用して、企業の健康経営の第一歩からPDCAを回していくお手伝いをするコンサルティングサービスです。
さらに、2022年度は運動や食生活などの「生活習慣」については、以下の通り、前年度より改善が見られました。健康経営の第一歩からPDCAの循環まで「健康経営推進支援サービス」
5.健康経営の将来的な展望
健康経営の考え方は広く普及してきており、さらなる発展が期待されます。ここでは、健康経営の将来的な展望について解説します。
5-1 健康経営の長期的な影響
健康経営を推進させるメリットは、経営課題の解決だけにとどまりません。働きやすい環境づくりに成功すれば、優秀な従業員に勤続してもらいやすくなり、企業の長期的な成長にも繋がります。
また、従業員の健康に配慮できる会社として社会的信頼が向上し、企業のブランディングにもなるでしょう。長期にわたって健康経営がもたらす影響を考慮すれば、企業の存続にとって大切な要素であることが分かります。
5-2 継続的な改善とイノベーション
アクサ生命の「日本の未来経済ポジティブ推計」によれば、健康経営の実践で期待できる影響は以下の通りです。
- 食生活や運動習慣の改善で、従業員2,125万人の健康リスクを改善
- 職場環境の改善などで、毎年約35万人の離職を予防
- 生産性や効率が高まり、約54万社が業績向上
これらは、健康経営に取り組む企業990社のデータを約350万社ある全国の中小企業に当てはめた場合の結果です。健康経営に取り組む企業では、従業員の健康リスク改善や生産性向上が見られています。これにより、全国の中小企業が健康経営に取り組むことで日本全体に大きな影響をおよぼすと期待できるのが分かります。
6.2024年の健康経営の動向
2024年現在、健康経営優良法人の顕彰制度やデジタルデータの活用が広がってきたので、これらについて詳しくお伝えします。
6-1 健康経営に関する顕彰制度の広がり
経済産業省は、健康経営に真摯に取り組む企業を見える化するために、顕彰制度を設けています。大規模法人と中小規模法人とに部門分けし、それぞれに「健康経営優良法人」認定を行っています。また、ホワイト500(大規模法人部門)やブライト500(中小規模法人部門)はそれぞれの部門の上位500社です。
大規模法人と中小規模法人に部門分けする理由は、それぞれに異なる役割を持たせるためです。大規模法人には健康経営を全国に普及させる役割、また、中小規模法人には地域で健康経営を根付かせる役割を期待しています。
また、自治体においても健康経営の顕彰制度が導入されており、県によるPRや入札時の加点要素とする事例も見られています。
6-2 デジタルデータの活用
スマートフォンなど、手軽に身につけられる端末で得られるデジタルデータを活用した健康管理法も普及してきています。これにより、日常生活を送る従業員の健康データを入手しやすくなりました。
今後はAIやVRなども活用し、より詳細な健康データを入手できる可能性が出てきています。ただし、プライバシー保護の観点で、データの取り扱いには気をつけなければならないでしょう。
7.まとめ
本記事では、健康経営戦略マップの概要や作り方、健康経営の実践事例などをお伝えしました。戦略マップを作成すれば、自社の経営課題と健康経営の繋がりが明確になり、経営陣や外部人材へ取り組みについて伝えやすくなるでしょう。
健康経営にお悩みなら、株式会社イーウェルの「健康経営推進支援サービス」をご検討ください。丁寧なヒアリングで現状を把握し、健康経営の施策実行を支援します。「健康経営優良法人の認定を目指している」「健康経営が浸透せず困っている」という企業様はぜひご活用ください。
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