「健康経営を取り入れるとどんなメリットがある?」
「中小企業も導入できる?」
このような疑問を抱える経営者や担当者もいることでしょう。健康経営とは、従業員の健康面に対する投資を戦略的に実践する取り組みであり、多くの企業で導入されています。
本記事では、健康経営のメリットとデメリットを、企業と従業員それぞれの視点から徹底解説。健康経営優良法人の基準や、中小企業が健康経営に取り組むべき理由も紹介します。健康経営の実践を検討している経営者や担当者の人は必見です。
目次
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法です。主に従業員の健康に対して投資を行い、活力や生産性向上、組織の活性化を目的とします。結果的に、業績向上や株価向上につながることが期待できます。[注1]
健康経営が推進されるようになった背景には「生産年齢人口の減少と高齢化」「国民医療費の増加」などが挙げられるでしょう。
生産年齢人口とは、OECD(経済協力開発機構)の定義によると15〜64歳までの人口で、社会保障を支える存在です。高齢化により、生産年齢人口が減少すると、従業員が不足し、加えて国民医療費が増加することになります。
以上の課題から、少ない従業員数でも高い生産性を発揮してもらうための健康経営が注目されています。
以下では、健康経営のメリット・デメリットを企業側の目線で解説します。健康経営を取り入れる際には注意点も存在するので、しっかりと確認しましょう。
企業にとって、健康経営を導入する主なメリットは以下の5つです。
企業側にとっては、従業員の労働生産性向上と医療費が削減できることが大きなメリットです。健康経営によって、従業員が常に良いコンディションで働くことが可能です。
健康な従業員が増えれば医者に罹る従業員も減るため、企業が負担する医療費を削減可能です。その結果、浮いた分の資金を別の用途に利用できます。他にも、健康経営に取り組むことで、企業のイメージ向上や求人への応募数の増加も見込めるでしょう。
企業にとって、健康経営を導入することによる主なデメリットは以下の3つです。
健康経営の効果は、数字のように目に見える形では把握しづらいです。販売成績や欠勤率、休業率が低下したとしても、それが健康経営によるものかどうかを特定することは難しいでしょう。
また、健康経営は中長期的な取り組みであるため、従業員の健康に関するデータの収集・管理が必要です。体調の芳しくない従業員に医師との面談をセッティングしたり、データの分析を専門家に依頼したりする場合には、人件費もかかります。
特定の社員にのみメリットがあるような制度にすると、社員の不満を招く可能性があります。たとえば、ダイエットができた社員にインセンティブを与えるような設計は、元から健康的だった社員にとってメリットがありません。できるだけ全員が利用できる制度にすることが重要です。
従業員アンケートの結果を基に従業員の「ウェルビーイング※」や「満足度」を数値により可視化して組織課題を把握・解決する組織診断サービスです。
従業員にとっても、健康経営を取り入れるメリットがあります。一方で、思わぬ負担がかかる可能性もあるので、注意が必要です。
以下では、健康経営のメリット・デメリットを従業員側の目線で解説します。
従業員にとっての、健康経営の主なメリットは以下の2つです。
従業員にとっては、常に良いコンディションで働けることが大きなメリットです。心身が健康であれば、仕事に対するモチベーションも向上し、生産性や成果を上げやすくなります。
また、企業として健康経営に取り組むことで、個々の健康に対する意識は向上するでしょう。忙しくて健康管理が疎かになっている人も、企業が健康増進をサポートしてくれることは嬉しいポイントです。
仕事に生き生きと取り組むことで生産性が向上し、それがさらなる自信ややる気につながるという好循環を生み出すことも期待できます。
従業員にとって、健康経営を実践する主なデメリットは以下の2つです。
健康経営を導入することで、ストレスチェックや健康診断をしっかり受診するでしょう。日常業務に加えて自己管理することが増えるので、手間に感じる人がいるかもしれません。
健康診断やメンタルチェックなどのデータの管理状況に、不安に感じる人もいるでしょう。人によっては、メンタルヘルスの内容など他人には知られたくない情報がある人もいるためです。
健康経営を導入するなら、データの取り扱いの方針を明確にし、従業員の同意を得ることが重要です。
「健康経営優良法人」とは、経済産業省が認定している制度です。地域や日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している企業を経済産業省が表彰しています。
常時使用する従業員数に応じて「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に区分され、それぞれ認定しています。
主な認定基準は、以下の5つです。
認定されるには、両部門とも上記の5大項目と、それぞれ設定されている中〜小項目を一定数クリアしなければなりません。認定を受けるには申請が必要で、毎年9〜10月に申請をし、翌年3月に認定企業が発表されます。詳細については健康経営のホームページで確認可能です。[注2]
[注2] ACTION! 健康経営 https://kenko-keiei.jp/
健康経営優良法人に認定されると「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として評価を受けられます。その結果、以下のメリットが期待できます。
健康経営優良法人に認定されている企業は、社員の健康に投資をしていることをアピールできます。認定企業であれば求職者や取引先、株主からの評価も高まるでしょう。優秀な人材の確保や将来的な株価上昇も期待できます。
健康経営を導入している企業は年々増加傾向にありますが、大企業の割合が多く、中小企業の導入率は低いです。
経済産業省の調査によると、中小企業の健康経営認知度は50%未満であり、実際に取り組んでいる企業は21%でした。一方で、今後取り組みたいという意向を持つ企業は53%です。
中小企業が健康経営優良法人に認定されると、企業にとって良いブランディングになるため、企業イメージの向上が狙えます。他にも金融機関からの低利融資を受けられる場合もあるでしょう。[注3] 中小企業の経営者は、健康経営の導入を検討してみるのがおすすめです。
[注3]経済産業省「健康経営の推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeiei_gaiyo.pdf
健康経営に取り組むか、まだ迷っている人もいるかもしれません。しかし、以下2つの理由から中小企業でも健康経営に取り組むべきと言えます。
それぞれ詳しく解説します。
中小企業における人材不足の深刻化が理由の一つです。人材不足が深刻化すると、従業員一人あたりの負担が増加し、長期的には労働生産性が低下します。負担が増えれば健康管理も難しくなり、従業員の欠勤率や休業率も増加するでしょう。
近年、大企業では就職希望者が求人数を上回っているのに対し、中小企業では就職希望者が求人数を下回る年が続いています。[注4] 新しい人材の確保が難しい状況では、既存の社員の離職率や休職率を下げる工夫が必要と言えます。
[注4]中小企業庁{「令和4年度(2022 年度)の中小企業の動向」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf
近年、求職者は就職先にワークライフバランスを求めるようになっています。
内閣府の調査によると、職業選択の際に重視するポイントを子育てや自由時間などと答える人が多い傾向がありました。また、同調査では約60%が仕事とプライベートではプライベートを優先すると回答しています。[注5]
人材を確保するには、求職者のニーズに答えていくことも必要です。
そのことで、リテンションが高まることにもなります。
[注5]内閣府「特集 就労等に関する若者の意識」
健康経営を推進している企業は、従業員の健康と生産性の両方を同時にマネジメントしています。
具体的に企業が導入している施策としては、以下があげられます。
企業名 |
取り組み内容 |
コニカミノルタ株式会社 |
企業と健保組合を一体運営して、健康増進の施策を迅速な意思決定をおこないながら積極的に推進 |
大日本住友製薬株式会社 |
三次喫煙リスク低減までを見据え、施策のひとつとして全国の事業所内全面禁煙を実現 |
日本電信電話株式会社 |
アプリでの歩数目標配信や、食生活に関する情報配信サービスを提供して行動変容を促す施策を実施 |
これらの施策はあくまでも一例です。自社にあった健康経営を検討し導入しましょう。