健康経営の市場規模と成長の理由|見えてきた課題と「うまくいかない」理由とは

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「健康経営に取り組むことで、実際、企業にどんなメリットがあるのかよく分からない」と悩んでいませんか?

健康経営に取り組むことで、企業が抱えるさまざまな課題解決が可能になります。具体的には、従業員の健康維持や向上によって、業績の向上が期待できるのです。

また、少子高齢化が進んでいることや、人材不足が深刻化していることもあり、健康経営に関連した市場は年々拡大しています。

この記事では、健康経営関連の市場規模と、具体的な戦略について解説します。


目次

  1. 健康経営関連市場の現状と成長の背景
    1. 1-1 市場規模
    2. 1-2 健康経営の実施率
    3. 1-3 健康経営を実施する目的
  2. 健康経営を推進する国の政策と企業の取り組み
    1. 2-1 健康経営優良法人認定とその影響
    2. 2-2 企業における健康経営戦略
  3. 市場成長に伴う課題と展望 
    1. 3-1 健康経営の質の確保
    2. 3-2 将来予測と企業における戦略的な位置づけ
    3. 3-3 取り組む必要のある企業が段々と明確化
  4. 健康経営に取り組む4つのステップ 
    1. 4-1 取り組み前
    2. 4-2 取り組み開始
    3. 4-3 PDCA循環
    4. 4-4 評価の社外開示
  5. 健康経営がうまくいかない理由と課題解決策 
    1. 5-1 トップが無関心
    2. 5-2 担当者が業務過多
    3. 5-3 具体性がなく方針だけ
    4. 5-4 実現不可能な目標設定
    5. 5-5 成功させるために知っておくべきこと
  6. まとめ

 

1. 健康経営関連市場の現状と成長の背景


健康経営とは 今、社会的にどのような位置づけがなされているのでしょうか。

健康経営は、日本再興戦略や未来への投資戦略と位置づけられ、国民の健康寿命を延伸することを目的とした取り組みでした。

その後、経済産業省が「優良な健康経営に取り組み法人を見える化する」ことを目的に、社会的に評価を受けることができる環境を整備すべく、2014年度に〈健康経営銘柄〉の選定を始めました。

その翌々年、2016年度には、日本健康会議*が現在の〈健康経営優良法人認定制度〉を創設し現在に至ります。

いずれも経済産業省のお墨付きを得られる、きちんと審査され健康経営認定を得ている、ということを対外的にPRできることから、多くの企業がこぞって認定取得を目指すようになり、企業側だけでなく、ステークホルダーや求職者にとってもひとつの基準となりつつある、というのが健康経営の現在地となります。

 

「日本健康会議」とは

日本健康会議とは、健康経営優良法人制度を創設した組織です。経済団体・医療機関・保険者などの民間団体と地方自治体が連携し、職場や地域社会における具体的な施策の実現を目指します。健康教育推進と健康関連学問の推進も、日本健康会議の目的です。

日本健康会議は、健康づくり活動実施を支援するネットワークを構築しています。地域全体の健康づくりへの貢献を、目的にしている団体と言えるでしょう。

 

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1-1 市場規模

健康経営に関連する市場規模は年々、拡大傾向にあります。健康経営に関連する市場は、2029年までに約1,065億円に達すると予想されています。これは2020年と比較すると、2.2倍の規模です。

また、経済産業省の資料によると、ヘルスケア産業市場規模は2021年には約25兆円、2025年には約77兆円になると推計されています。

 

健康経営市場が拡大している理由には、行政の「データヘルス計画」の推奨や企業の人手不足などが挙げられます。

「データヘルス計画」とは、医療情報や健診結果の情報などのデータを活用して、PDCAサイクルを回し、効率的・効果的な保健事業を実施するための計画のことです。近年、ヘルスケア関連のIT技術が発展したことで、健康増進が効率よく進められるようになりました。行政は、「データヘルス計画」で、国民の健康寿命の延伸を目指しています。

さらに、少子高齢化が進むにつれて、労働力人口の減少が深刻化することも問題となっています。従業員が健康を損なわず長く働ける環境にするために、健康経営を推進する企業が増えているのです。

参考:健康経営の推進について(令和6年)|経済産業省


1-2 健康経営の実施率

「日本の人事部」の調査『人事白書調査レポート2020 新しい人事課題』によると、健康経営を実践している企業の状況が以下のようになりました。健康経営の認知度や重要性が高まる中、実際には取り組んでいる企業がまだまだ多くはないことがわかります。



また企業規模別では、実践している企業が大規模企業ほど高く、小規模の企業と大規模企業との間に大きな差が生じていることが判明しました。

 

参考:日本の人事部 「人事白書2020

 

コロナ禍を経て、この数年で健康経営に対する注目度はさらに高まっています。最新の2023年度では健康経営の回答数は、大規模法人部門で前年度比351件増、中小規模法人部門で2,915件増となっているなど、単純に増加しているだけでなく、増加のペースも増え続けています。

参考:経済産業省 「健康経営の推進について」 2024年 3


1-3 健康経営を実施する目的

なお、健康経営を実践している企業に期待する効果を確認したところ、「従業員満足度の向上」がトップで81.7%となりました。従業員規模別で見ても、どの規模でも7080%の企業が期待している効果となり、非常に高い数字となっています。

その他、生産性やイメージ、業績の向上といったIR活動としても活用され始めており、今や健康経営に取り組んでいること=プラス評価”“健康経営に取り組めていないこと=マイナス評価になり得るほど浸透していることがわかります。



参考:日本の人事部『人事白書調査レポート2020 新しい人事課題』



また、従業員定着や採用、人手不足対策など、雇用にかかわる要素のひとつとしても非常に重要です。

新卒/中途問わず、求職者も就職活動において、健康経営の取り組みの有無を企業選びの基準としていることがわかっています。

健康経営に取り組むことで、今いる社員も、これから来る社員にもプラスになるのであれば、今からでも取り組む価値がおおいにあるでしょう。


引用元:ACTION! 健康経営 「就活生・転職者に関する調査」 2023年 9月実施


1-4 取り組むようになった背景



多くの企業が健康経営に取り組むようになった背景は、以下の2つです。

 

 

労働人口の減少

現在の日本では、少子高齢化が急速に進んでいます。それに伴う労働人口の減少が、労働現場でも問題となっているのです。

人口減少により人手不足が生じると、一人当たりの仕事量が増えます。結果として、長時間労働や労働環境の悪化を招き、健康疾患の発症リスクが高まるでしょう。このような背景から、従業員の健康を守ることの重要度が増しています。

 

会社の持続可能性を維持するために重要視されるのが「人材の雇用」です。多くの人は、働きやすいホワイトなイメージのある企業で働きたい、というニーズを持っています。そのため、健康経営に取り組むことは、「人材の雇用」に大きく寄与します。また、社員が定着しなければこのような隠れた損失を被ることになります。

入社3か月で退職された場合、会社は1人あたり187.5万円の損失を被ると言われています。 ここからも、人材の雇用と定着がいかに大事であるかが実感できます。

 

社会保険料の増加

高齢者の増加や精神疾患者の増加により、医療を利用する人が増えたため、社会保険料も年々増加しています。保険料の増加は企業の社会保険料負担を増加させるため、企業にとって頭の痛い問題です。

最近では、健康上の問題を早期に発見し治療できるよう、定期検診の受診にインセンティブを提供する企業も増えています。現代ならではの医療費適正化への対処法としても、健康経営は注目されています。

 

もし健康経営に取り組まなければ働く人たちの医療費が増大し、国民にとって社会保障費の負担がさらに大きくなることが想定できます。

そして医療費の増加に拍車をかけているのが、日本の超高齢会社会への突入です。人口ピラミッドはピラミッド型から2050年には棺桶型になると言われています。つまり働いている一人ひとりが多くの高齢者を支えることになります。

 

この図は、社会保障給付費の推計を表しています。「医療費」も2018年度の39.2兆円から2040年度には最大68.5兆円と1.7倍に増加されることが予想されます。



健康経営に取り組むことで、一人ひとりの医療費を削減しなければ、今後保険給付が縮小されるとさえ言われています。国全体だけでなく、会社単体としても、予防医療にかける費用は、病気になってしまったときに会社が負担しなければいけない費用の100分の1以下であると言われています。国にとっても会社にとっても健康経営を実施することはとても大切なことであると言えるでしょう。

 

出典:経済財政詰問会議資料




 

2. 健康経営を推進する国の政策と企業の取り組み

健康経営を推進する国の政策には、主に以下があります。

引用元:健康経営の推進について(令和6年)|経済産業省


ストレスチェックとは、自分のストレスがどのような状態にあるのか調べる検査のことです。2015年12月より、従業員が50人以上いる企業に対して国によって義務化されました。従業員がストレスチェックを受けることで、うつなどのメンタル不調を予防できると考えられています。

また、健康経営に関する認定制度も、国が推進するもののひとつです。現在多くの企業が申請しており、その数は年々増加しています。

申請件数の増加を後押ししている制度に、インセンティブの措置があります。健康経営に積極的に取り組んでいる企業には、金利や融資の優遇措置が受けられるなどのメリットがあります。

 

次の章では、健康経営優良法人認定について詳しく解説します。

 

2-1 「健康経営優良法人」認定とその影響



「健康経営優良法人」認定制度とは、特に優秀な健康経営を行っている企業などを顕彰して見える化する制度です。

 

2014年度より上場企業を対象とした「健康経営銘柄」が初選定、2016年度には「健康経営優良法人」の認定が開始されました。「健康経営優良法人」は、会社の規模によって大規模法人部門と中小規模法人部門に分けて認定しています。

また、大規模法人部門の中から上位500社には「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500社には「ブライト500」という称号が与えられています。

次に、「健康経営優良法人」に認定されるメリットと基準について見ていきましょう。


認定企業のメリット

「健康経営優良法人」として認定されるとロゴマークの使用や自治体や金融機関から補助金などのインセンティブを受けることが可能になります。また、働きやすく福利厚生が充実している企業というイメージの向上により、以下を獲得できるメリットがあります。

参考:健康経営の推進について(令和3年)|経済産業省

 

認定を受けるための基準

「健康経営優良法人」の認定を受けるにはいくつかの基準をクリアする必要があります。大規模法人部門と中小規模法人部門では、評価の内容が若干異なります。認定要件は以下の通りです。

引用元:健康経営銘柄2024選定基準及び健康経営優良法人2024(大規模法人部門)認定要件


 

引用元:健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)認定要件


大規模法人部門と中小規模法人部門のどちらも「感染症予防に関する取り組み」について問われます。インフルエンザや麻しん・風しん、新型コロナウイルス感染症などの対策について確認されるため、予防策を実施している企業はしっかり回答できるようにしましょう。

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2-2 企業における健康経営戦略

健康経営に取り組むには、自社の問題点を発見し、有効な施策を実施しなければなりません。しかしながら、自社のみでこれを賄うには多くのリソースが必要です。

そこでおすすめなのが、外部の健康経営コンサルティングサービスを受けることです。外部のサービスを活用すると、社内のリソースを割くことなく従業員の健康管理が可能になります。ここからは、主な外部サービスを紹介します。


従業員の健康支援プログラム

健康経営をサポートする企業は、さまざまな健康支援プログラムを展開しています。具体的には以下のサービスが該当します。 

 

職場環境の改善策

健康経営をサポートする企業は、さまざまな健康支援プログラムを展開しています。具体的には以下のサービスが該当します。 

引用元:健康経営 オフィス レポート|経済産業省


2-3 取り組んで得られる効果のエビデンス

改めて、会社が健康経営に取り組むことにより、得られる具体的な効果を説明します。 まず、健康の促進を社員が継続することにより、仕事への集中力が増し、高いパフォーマンスを維持することができます。持続可能性の項目でもご説明した通り、離職率の低下にも繋がり、隠れた3つの損失を被ることも無くなります。会社のイメージUPに繋がり、求人への応募者の増加つまり優秀な人材が入りやすくなることも先ほどご説明したとおりです。 最終的に会社の収益がUPすることから健康維持への投資に繋がり、再び社員が健康の促進を続けることになります。これが理想的な健康経営のサイクルです。 下表は、健康経営に熱心な企業への表彰を受けた優良企業と、S&P500という指数に含まれるアメリカの代表的な一般企業群に対して、1999年に同時に1万ドルを投資した場合、13年後の2012年にどうなるかということを仮想計算したものです。 オレンジ色の線が健康経営優良企業で、最終的には17000ドル以上になっています。それに対して青線の一般企業平均のほうは、9900ドル程度になってしまっています。同時期にここまで大きな差が開いたことは、注目に値すると言えるでしょう。

表2.優良健康経営表彰企業とS&P500社平均の長期的なパフォーマンス比較



出典:Fabius, Raymond, R. Dixon Thayer, Doris L. Konicki, Charles M. Yarborough, Kent W. Peterson, Fikry Isaac, Ronald R. Loeppke, Barry S. Eisenberg and Marianne Dreger(2013) “The Link between Workforce Health and Safety and the Health of the Bottom Line,” Journal of Occupational and Environmental Medicine, 55(9):993-1000.)




3. 市場成長に伴う課題と展望

健康経営を導入する企業は増えており、この流れは今後も続くと予想されます。ここでは健康経営に関する課題と今後の展望について見ていきましょう。

3-1 健康経営の質の確保

ここまでお伝えしてきた通り、人々の意識の高まりや国の後押しもあって、健康経営に取り組む企業が増えてきました。しかしながら健康経営への投資を迷う企業が多いのが現状です。仮に取り組んでも、効果を感じるまでに時間がかかり、継続できないケースも見られます。

 

健康経営に取り組む際は、何の施策にいくら費用がかかるのかを整理し、質の高いものに注力するといいでしょう。


3-2 将来予測と企業における戦略的な位置づけ

健康経営に取り組むと、企業のイメージアップや業績改善につながります。さらに、社会的にもよい影響をもたらすことが推測されています。具体的には以下の通りです。 

健康経営への取り組みによって、企業の課題が改善されるだけではなく、従業員の家族の健康や生活の質も高まり、日本が抱える社会的な問題を解決に導くことにつながると考えられます。

3-3 健康経営に取り組む必要のある企業の注意点

健康経営に取り組む必要性がある企業は一体どんな特徴があるのか。注意点を3つご紹介いたします。

 

注意点①:従業員の労働時間が長い

長時間労働や休日出勤が常態化している会社は要注意です。早朝から出社し、休憩時間もとらずに夜遅くまで働いているのが「当たり前」となっているのであれば、人事部門はすぐにでも「健康経営」を検討する必要があります。

今、必死で働いている従業員も、いずれは身体的・精神的負担により、休職や退職に向かいます。現場では、彼らの穴を補うために、また採用し、また退職し…という負のサイクルから一刻も早く抜け出すべきです。

 

注意点:従業員が高年齢化している

多くの人は、年齢を重ねるたびに病気への罹患リスクが高まっていきます。とくに生活習慣病といわれる「高血圧・高脂血症・糖尿病」などは40代を境として発病するケースが多いとされています。

業務推進の管理職などのコアメンバーや、営業のエースと呼べる人材が、ある日突然倒れてしまう…というリスクは常にあります。従業員の平均年齢が高い会社であれば、彼らの健康へのケアは必須と言えます。 

 

注意点ストレスチェック結果が悪い企業

労働者が50人以上の事業場であれば、メンタルヘルス不調を測る観点から「ストレスチェック」の実施が義務付けられています。

その結果、メンタルヘルス不調者が多い、ということであれば、その事業所は要注意です。従業員が精神的に問題を抱えており、生産性の低下や大きなミスへの要因につながることが想定されます。

「健康経営」を促進することは、メンタルヘルス不調の防止につながるのです。

 

4. 健康経営に取り組む4つのステップ

健康経営をスタートするにあたり、取り組み内容を具体的に一つひとつ検討していかなければなりません。本章では基本的なステップを解説していますので、これから本格的に導入しようと考えているご担当者は、ぜひ参考にされてください。 


4-1 取り組み前

健康経営を推進していくうえで、まずは経営層などのTOPを巻き込んで取り組みをしていかなければなりません。ただ、大企業になればなるほど、TOPと健康経営推進担当者との認識の乖離が生じやすく、最初の課題となるのが経営層の意思決定の方向性でしょう。健康経営推進担当者が費用対効果や取り組むメリットなどをしっかりと経営層に伝え、会社全体の意思統一を行うことが重要となります。

導入前の第一歩として健康経営推進担当者がすべきことは、『健康経営優良法人 認定要件』をしっかり読み込むことで、その認定要件の各項目内容に関して、自社ではどのような取り組みをすべきかがわかってきます。単に施策を行えばよいだけでなく、維持継続できる組織体制や評価・改善も必要です。あらかじめ経営陣と推進担当者が一丸となってよく考え、準備をしていきましょう。


4-2 取り組み開始

取り組み開始段階では、自社が具体的にどのような施策を実行していくかということですが、単に他社がウォーキングイベントやラジオ体操をしているから、自分たちも同じことをすればいいだろうと考えるのは早計です。

まずは自社の健康診断結果のデータや、残業時間や有給取得率のデータ、病欠者や休職者の割合など、健康や働き方に関する各データをしっかり分析し、他社のデータや全国の平均値と比較をするなどして、自社が劣っている項目や改善しなければならない課題を抽出します。その課題などに対して何をすれば解消されるのか、という具体策が取り組み内容となり、トップが主導し全社で実施開始となっていきます。

注意すべき点は「スモールスタート」です。いきなりあれもこれもと多くの課題解決の施策やハードルの高いことを一気に始めても、多くの従業員はついていけませんし、すぐに離脱してしまいます。まずはだれでも簡単にできることから段階的に進めていくことが重要です。たとえば、健康アプリを導入したばかりの企業なら、ログインした人に健康ポイント付与、などということから始めてもいいでしょう。


4-3 PDCA循環

前項で開始した取り組みに対して、参加者が増え順調に推進できるようになったところで、本当に効果を出しているのかを検証するために、アンケートの実施や実績データをとり分析をしていかなければなりません。施策を実施し、「頑張って続けてやっていますよ」と表明さえすれば終わりというわけではないのです。

健康経営の取り組みは、スモールスタートが基本となり、段階的に推進していくものであるため、比較的長期間にわたって様子を見ていかなければなりません。よって、定期的な評価と改善が必要となります。1ヶ月ごと、四半期ごと、半年ごと、などというように定期的に評価を行うタイミングを決めて、最終ゴールの目標値から逆算して、状況に応じてテコ入れや改善を行っていかなければならないのです。

このPDCAを繰り返すことにより、企業自体も健康的で生産性に寄与する会社へと成長していくこととなります。また、健康経営の実施状況や途中経過を社内に共有することで、啓蒙および参画意識の向上にもつながり、従業員のモチベーションアップやエンゲージメン工場につなげることも可能となります。


4-4 評価の社外開示

最終的に自社の健康経営の評価を受けるには、「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」の認定、さらに、大規模法人部門の場合は「ホワイト500」や中小規模法人部門の場合は「ブライト500」に認定されることが有効です。

ただし、健康経営優良法人の認定を目指すことは、たしかに良い取り組みではありますが、認定されることを「目的」としてしまっては意味がありません。健康経営優良法人に認定されることは、経済産業省が定める健康経営に対して優良な取り組みを行っている企業の基準になるものです。

認定取得を目的とするのではなく、自社の健康経営度が向上するためのマイルストーンとして位置づけ、従業員がさらに健康でイキイキと働けるようになるためにはどうしたらいいか、ということを日々考え実行していくことが重要です。

 

5. 健康経営がうまくいかない理由と課題解決策



従業員満足度向上への期待値が高く、認知度・重要性が高まっているわりに、まだ取り組んでいる企業が多くはない理由は、どこにあるのでしょうか。メリット・デメリットはもちろんありますが、それを論じる前の段階でつまずいてしまっているということはないでしょうか。取り組みでつまずく原因としては、以下のようなことが考えられます。


5-1 トップが無関心

例えば、会社でこんなことはないでしょうか。 

健康経営の推進には、経営の責任者であるトップ(社長や経営陣)の決断が不可欠です。またトップから取り組みを宣言し、会社としての本気度を示すことも成功のステップであると言われています。取り組み宣言したのにもかかわらず、実際には経営陣が無関心でまったく実践しない、というのでは、従業員に真逆の内容が伝わってしまうことにもなりかねません。

「先ず隗より始めよ」と言われる通り、会社の決断は、トップが身をもって知らしめることが重要です。


5-2 担当者が業務過多

健康経営の実行を担うのは、人事系の業務を行っている部署であることが多いようです。

健康診断の手続き等を行ったり、社員の身心不調による休業などを管理したりする部署ですので、業務がなじみやすいと考えられますが、人事部は外から見る以上に業務が集中する部署でもあります。

給与計算や各種保険の手続き、入退社処理など、ミスも延期も許されない業務が多いうえ、人手不足といわれる昨今では採用が大変な場合もあるでしょう。会社の健康経営を推進するために、一部の部署が逆に健康を損ねかねない業務量を背負うことは本末転倒です。また、担当者の業務量を考えて割り振らないと、目先の業務が優先になり、すぐに結果の出ないものは劣後させてしまうことも。

健康経営は会社全体に関わる経営課題ですが、それを一部署としての役割にしているようであれば、そこから見直し、効率的に施策を進められる組織を編成しましょう。前章の内容とも関係しますが、推進に成功している企業では、社長自らが率いる特別チームを編成した例もあります。

また、社内に専任の担当者がいることで、健康経営に対する社員の理解が得られやすくなり、社内の担当者が健康経営を推進することにより、前向きに取り組む社員も増えるかもしれません。

 

その際に、ただ担当者をつけるだけでは、担当者の負担が大きくなってしまうこともあるため、担当者の負荷を少なくするサポート方法の検討も重要となります。

例えば健康経営のプロを派遣したり、担当する従業員が健康経営の勉強会やセミナーに参加できるようにすることなども重要になります。

健康経営の担当者の負担を最小限にするためには、専門家による指導が重要となるので、会社に産業医が設置されている場合は産業医との連携や活用をされることをお薦めします。


5-3 具体性がなく方針だけ

「会社方針として決まったので、今日から健康経営を推進してください」といきなり指示されて、何をどう進めたらいいか、すぐにイメージできる従業員はそうそういません。推進を漠然と指示しても、具体性がなければ従業員も何をしていいか分からず、また進んでいるかどうかも不明確になります。

従業員の健康について真剣に向き合うのであれば、健康診断結果やストレスチェックで所見ありとされる従業員につき健康相談や受診勧奨を行う、広く健康について考えるセミナーを開催するなど、具体的にアプローチする方法はいろいろです。号令だけでは効果も形式的なものになることを考慮し、具体的な取り組みを提示するようにすべきでしょう。

他社の事例を参考にしたり、世の中のトレンドを採用したりする方法もありますが、高い効果を出すためには、社内の課題に合わせた設定をすることが大切となります。

より高い効果を得るためには、社内で取り組むべき課題を明確化し、そこを改善するために有効的な取り組みを検討するようにしましょう。

例えば、長時間労働者が多い、高ストレス者が急に増えた、社員の定着率が悪い、過重労働者が多いなど、社内の状況に合わせて取り組む課題を見つけていくことが重要となります。まずは課題に合わせた設定に対して、ひとつひとつ取り組んでいくことで効果を実感しやすくなります。健康経営を実践する際は、自社の課題を可視化し、テーマを定めることが大事なポイントとなります。


5-4 実現不可能な目標設定

健康経営実施に前のめりになるあまり、「全社一律で今日から残業禁止」「喫煙所を全撤去」「全員参加で始業前にラジオ体操」など、いきなり強制的な内容を実施すれば、いくら従業員の健康を考えてのこととはいえ大きな反発を生みます。

また、従業員にも業務状況や個人的事情があり、参加できないこともあります。いきなり大きすぎる目標を掲げ、その後従業員への浸透に苦労するのではなく、無理のない実施方法を検討する方が現実的と言えます。

労働安全衛生法により労働者50人以上の事業場で設置を義務づけられている衛生委員会で話し合い、実行可能な施策を選択する、労使による話し合いの場で決定する、などの手法もあります。

急発進急ブレーキではなく、安全かつ確実な取り組みを目指すようにしましょう。

健康経営のように長期的な取り組みが必須な場合、まずは健康経営で取り組む課題を可視化し、そのうえで目標やスケジュールを明確にしておく必要があります。目標は数値化することにより誰もが効果を感じやすく、スケジュールを設定しておくことで従業員が取り組みやすい環境へと導けます。月間目標や中間目標などが明確にされ、さらにスケジュール管理されていれば、施策に取り掛かりやすくなります。


5-5 成功させるために知っておくべきこと

健康経営は、“何をもって成功とするか”、“どこで終了とするか”を定めるのが難しい大きな課題のひとつです。最も大切なのはその取り組みと過程であり、取り組みにより社員の心も身体も健康になることが理想的ですが、とは言うものの具体的なゴールをまずは定めないと、実施計画も立てづらいのが本音かと思います。

まずは〈健康経営優良法人〉認定を取得することが、健康経営に取り組むにあたり当面の間のゴールとなるでしょう。

ただし、その過程で社員に無理をさせてしまっては本末転倒です。ここまでの内容のおさらいも兼ねて、以下の点に充分留意しましょう。 

健康経営は一度認定を得たとしても、翌年の認定要件がまったく同じ内容であるとは限りません。時流に合わせ、認定要件も更新されていきます。

従業員や世間のニーズに合わせて社内制度や取り組みを改めていくことは、持続可能な経営を行っていくうえでも絶対に必要であることから、認定取得よりも継続の方がより難易度が高くなります。

ゴール設定を行うことはもちろん、その後も続けられるように、社内に仲間を増やし、一丸となって取り組みを続けていくことが大切です。

 

また、自社内で健康経営認定取得まで完遂させるのには非常に手間や時間といった高いハードルが発生します。この点について、外部のコンサルティングを導入する企業も非常に増えています。くわしく知りたい方は以下の記事もあわせてお読みください。


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6. まとめ

健康経営に関連した市場は年々拡大しています。少子高齢化が進んでいることや、人材不足が深刻化していることもあり、この傾向はしばらく続くことが予想されます。

健康経営の取り組みは、短期的に見ればコストがかかり、人手も足りないなど,なかなか企業として実行しづらい側面もあります。また、社内風土に健康経営の考えが根付くまでには時間がかかるものです。

最初は各施策の認知度・参加率が悪く、時間がかかったとしても、あきらめずに情報発信を継続していくことが重要となります。

長期的な目線で従業員が健康でいることによる生産性の向上や、企業イメージの向上などのメリットを鑑み、全社で長期的に取り組んでいく必要があります。

経営トップが健康経営の必要性を理解し、会社の方針として健康経営を積極的に取り組んでいくことが,健康経営を成功させる鍵になると考えられています。


本記事を読み、自社にも健康経営を導入したいと考える方は多いでしょう。しかし、健康経営を社内に浸透させるには、多くの経験と知見が必要です。

では、健康経営推進支援サービスを提供しています。「健康経営優良法人の認定を目指しているが何をすればいいのか分からない」「健康経営の取り組みを継続しているが、より強固なものにしたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

著者情報

株式会社イーウェル ウェルナレ事務局

「人も、企業も、ウェルビーイングへ。」をテーマとして、企業の健康経営や福利厚生の支援を行う株式会社イーウェルが運営する、BtoB(人事総務向け)オウンドメディア「ウェルナレ」の編集部。
2021年7月にメディアリリース後、毎年60回以上、有名企業様とのコラボセミナーや官公庁の専門分野に特化した方を招いてのカンファレンス、大学教授による福利厚生勉強会の開催や専門家記事の掲載などを実施し、多くの方に好評いただいております。
人事部署や経営者が、会社のウェルビーイングを向上されるためのヒントを探して、日々活動しています。

運営会社:株式会社イーウェル

 

    

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