奨学金の代理返還とは?制度の仕組みからメリット・デメリット、導入企業例まで解説
「奨学金の代理返還制度があると聞いたが、具体的にどのような仕組みなのか知りたい」
「若手人材の採用・定着のために導入を検討しているが、企業側のメリット・デメリットを把握しておきたい」
奨学金の代理返還制度は、企業が従業員の奨学金を日本学生支援機構(JASSO)に直接返還する仕組みで、2021年4月の制度改正以降、導入企業が急増しています。
所得税・住民税の非課税や社会保険料の算定対象外など、企業・従業員双方に税制上のメリットがあり、福利厚生の新たな選択肢として注目されています。
本記事では、奨学金の代理返還制度の仕組みから、企業・従業員それぞれのメリット・デメリット、実際の導入企業例、代理返還以外の支援方法まで詳しく解説します。
目次
1.奨学金の代理返還とは?

奨学金の代理返還とは、企業が従業員に代わって奨学金の返還残額の一部または全額を日本学生支援機構(JASSO)に直接返還する制度です。
正式名称は「奨学金返還支援(代理返還)制度」で、2021年4月から企業がJASSOに直接送金できる仕組みが整備されました。
日本学生支援機構の調査によると、大学生の約3人に1人が奨学金を利用しており、卒業時には平均200~300万円以上の返済を抱えたまま社会に出て行かざるを得ない現状です。こうした背景から、企業が従業員の奨学金返済を支援する動きが広がっており、令和6年10月末時点で全国2,587社が本制度を利用しています。
従来、企業が奨学金の返還を支援する場合は、給与に上乗せして従業員に支給する方法が一般的でした。しかし、この方法では支援金が給与として扱われるため、所得税・住民税の課税対象となり、企業・従業員双方に税負担が生じるという課題がありました。そこで、2021年4月の制度改正により、企業がJASSOへ返還額を直接送金できる仕組みが整備されました。これにより税負担の問題が解消され、制度を導入する企業が大きく増加しています。
代理返還の対象となるのは、JASSOの貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)です。
企業はJASSOが提供する「スカラKI」というシステムを通じて支援対象者の情報を登録し、払込取扱票または口座振替により返還金を送金します。
2. 奨学金の代理返還のメリット

奨学金の代理返還制度には、企業側・従業員側の双方にメリットがあります。
2-1 企業側のメリット
企業側のメリットには以下のようなものがあります。
- 所得税・住民税が非課税になる
- 給与として損金の額や必要経費に計上できる
- 賃上げ促進税制を活用できる
- 社会保険の算定の基礎に入れなくていい
- 採用アピールや定着率向上につながる
所得税・住民税が非課税になる
企業がJASSOに直接送金することで、従業員の通常の給与と返還額が区分され、その返還額にかかる所得税・住民税は非課税となります。従来の給与上乗せ方式では支援金が課税対象でしたが、代理返還制度を活用することで従業員の手取り額を減らさずに支援できるようになりました。
これにより福利厚生としての実質的な効果が高まります。
給与として損金の額や必要経費に計上できる
代理返還は従業員の奨学金返済に充てるための給付にあたり、給与として損金算入が可能です。
企業が負担した金額は経費として認められ、法人税の課税対象所得を軽減できます。たとえば年間12万円を支援した場合、法人税率30%とすると36,000円の法人税削減につながります。
賃上げ促進税制を活用できる
代理返還による支援額は「賃上げ促進税制」の対象となる給与等支給額に含まれます。そのため、一定の要件を満たすことで法人税の税額控除を受けることが可能です。
中小企業の場合、雇用者給与等支給額が前年比1.5%以上増加していれば、賃上げ額の15%を税額控除できます。さらに、2.5%以上増加している場合は、控除率が30%に引き上げられます。
社会保険の算定基礎に含めなくてよい
代理返還による返還金は、原則として標準報酬月額の算定基礎となる報酬に含まれません。社会保険料の対象外となるため、企業・従業員双方の保険料負担を軽減できます。
たとえば、月3万円を給与として支給した場合には約4,500円の社会保険料が発生しますが、代理返還制度を利用すればこの負担は生じません。
採用アピールや定着率向上につながる
奨学金返還支援制度は若手人材へのアピール力が高く、採用競争において差別化できます。導入企業はJASSOのウェブサイトに社名や支援内容を掲載でき、大学等からの紹介も受けられるため、奨学金返済を抱える求職者の目に留まりやすくなります。
また、従業員の経済的・心理的負担を軽減することで仕事への意欲向上が期待でき、早期離職の防止にもつながります。離職率が低下すれば、新規採用や育成にかかるコストも削減できるでしょう。
2-2 従業員側のメリット
従業員側にも、以下のようなメリットがあります。
- 経済的負担が軽減される
- キャリア形成に専念できる
経済的負担が軽減される
最初に挙げられる従業員のメリットは、奨学金返済に伴う経済的負担の軽減です。
奨学金の返済は若手社会人にとって大きな負担となり、生活の余裕を圧迫しがちです。企業からの支援により毎月の返済額が減ることで可処分所得が増え、生活の安定につながります。
さらに、代理返還制度では支援額に所得税が課されないため、給与上乗せ方式と比べて実質的な手取りの増加幅が大きくなります。
キャリア形成に専念できる
経済的な不安が和らぐことで、従業員は仕事や自己成長に集中できるようになります。
奨学金返済のために副業を増やしたり、無理に残業を重ねたりする必要がなくなり、本業でのパフォーマンス向上やスキルアップのための学習に時間を充てられます。
心理的な余裕が生まれることで、長期的なキャリア形成を見据えた働き方が可能になるでしょう。
3.奨学金の代理返還のデメリット
メリットがある一方で、代理返還制度にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。
3-1 企業側のデメリット
代理返還の支援額は企業が新たに負担するコストとなり、対象従業員が増えるほど人件費が膨らみます。支援額や支援期間の設計によっては想定以上の負担となる可能性もあるため、事前に十分なシミュレーションが必要です。
また、JASSOへの登録手続きや毎月の送金処理、対象従業員の管理など、人事・経理部門の業務負担も増加します。対象者が退職した場合の取り扱いなど、社内規程の整備も求められるでしょう。
さらに、奨学金を借りていない従業員との間で待遇差が生まれる点にも注意が必要です。支援対象者の選定基準によっては不公平感が生じる可能性があるため、制度導入の目的や趣旨を社内に丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。
3-2 従業員側のデメリット
支援を受けている期間中に退職した場合、退職時点で支援は打ち切られます。企業によっては、代理返還した奨学金相当額について、一定の条件下で従業員に返還を求める規定を設けている場合があります。そのため、支援を受けることで一定期間は転職しづらくなるというプレッシャーを感じる可能性があるでしょう。
企業が何らかの理由で返済を滞納した場合や手違いで返済が遅れた場合には、延滞の責任は従業員本人が負うことになります。毎月の返済状況を自分でも確認する習慣が欠かせません。
また、企業によって支援の対象者(新卒のみ、特定の職種のみなど)や支援額・期間に条件が設けられていることも多く、すべての奨学金返済者が恩恵を受けられるわけではない点を理解しておく必要があります。
4.奨学金の代理返還を採用している企業例

実際に奨学金の代理返還制度を導入している企業の事例を紹介します。
4-1 第一建設株式会社
建設業の第一建設株式会社では、2021年4月の制度開始に合わせて代理返還制度を導入しました。毎月最大2万円、支援上限額120万円、支援期間最大5年という条件で従業員の奨学金返還を支援しています。建設業は人材確保が難しい業界であり、福利厚生を充実させることで入社の動機づけにつなげるため、この制度を導入しました。社員へのヒアリングで毎月の返還額を把握し、支援額を設定したそうです。
4-2 東芝情報システム株式会社
IT企業の東芝情報システム株式会社でも代理返還制度を導入しています。ハードウェアに近い領域から、アプリケーションの領域まで、幅広いソフトウェアを手掛ける同社では、奨学金返済の一部を支援する形で制度を運用しています。
技術者の確保・定着が経営課題となるIT業界において、若手人材への支援策として奨学金代理返還は有効な施策のひとつとなっています。
4-3 株式会社シルバーライフ
高齢者向け配食サービスを運営する株式会社シルバーライフでは、日本学生支援機構の奨学金を給与とは別に全額返済支援する制度を導入しています。
制度を利用している社員からは「毎月の返済を気にせずに済み、心理的な余裕が生まれた」「返済期間が10年ほど短縮された」といった声が寄せられています。奨学金返済への不安が入社の決め手になったという社員も多く、採用面でも効果を発揮している事例といえるでしょう。
4-4 その他の奨学金返還支援制度採用の企業
上記で取り上げた以外でも、全国で2,587社(2024年10月現在)が制度を導入しています。
より詳しく導入企業を確認したい場合は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の該当ページで検索ができます。
5.代理返還以外の奨学金返済支援の方法
奨学金の代理返還制度は日本学生支援機構(JASSO)の貸与奨学金が対象ですが、それ以外にも奨学金を返済している従業員を支援する方法があります。
5-1 借入金の一部を支給する
大学・大学院在学中に奨学金制度を利用した若手従業員を対象に、奨学金制度による借入金のうち決まった額(例えば5%)を、入社から数年、手当として支給している企業もあります。
手当扱いなので、従業員の所得にはなりますが、返済分のうち数%をまとまった形で支給することにより、若手従業員の負担を軽減しています。
また、社内処理で完結するため、代理返還制度のような厳密な運用に比べて柔軟に対応できる点もメリットです。さらに、JASSOが提供する「スカラKI」への登録など、外部システムを利用するための手続きが不要となり、事務負担を軽減できます。加えて、手当として支給する方式であれば、JASSO以外の奨学金を返済している場合でも支援の対象とすることができます。
あおぞら銀行ではこの方法により、2018年より支援を行っています。
5-2 借入残高分を無利子で貸し付ける
従業員の奨学金借入残高を無利子で貸し付ける制度を導入している企業もあります。
「手当として支給するか」「無利子貸付とするか」で議論があったようですが、手当方式では社員間の公平性や税務上の扱いに課題があること、また一部支援では“奨学金返済負担の軽減”という社会問題の根本的な解決につながりにくいことから、最終的に無利子貸付制度が採用されています。
この方法は、手当支給と同様に、JASSO以外の奨学金を返済している従業員にも有効な支援手段となります。
金融大手の大和証券グループでは、この形の奨学金返還支援制度を導入しています。大手企業での導入事例として注目を集めており、福利厚生の充実を通じた人材確保・定着の取り組みとして位置づけられています。
同社の「奨学金返済サポート制度」は、従業員の奨学金借入残高を対象に、互助会から無利子で貸し付け、入社後5年間は返済を猶予する仕組みです。
6年目以降の返済についても、利子は発生せず、金利0%で返済できるため、従業員の負担を大幅に抑えられる制度設計となっています。
5-3 カフェテリアプランを活用して支援する
カフェテリアプランとは、企業が従業員に一定のポイントを付与し、その範囲内で各自が必要な福利厚生メニューを選択できる制度です。
「選択型福利厚生制度」とも呼ばれ、従来の画一的な福利厚生では対応しきれない多様なニーズに応えるために生まれた柔軟な仕組みです。幅広いメニューから必要とするものを選べるため、従業員一人ひとりの満足度向上が期待できます。
申請したポイント分は、内容に問題がなければ、通常は給与に加算する形で従業員へ還元されます。
このメニューのひとつとして「奨学金返済補助」を設けることで、地方自治体や民間団体の奨学金など、JASSO以外の奨学金を返済している従業員にも幅広く支援を行うことができます。
カフェテリアプランを通じた奨学金返済支援は、採用面でのアピールや従業員の経済的負担の軽減など、代理返還制度と同様のメリットを提供できます。
さらにこの制度では、奨学金を借りていない従業員や、入社時点で支援制度の対象外だった従業員も、同じポイント数の中で異なるメニューを選択するだけのため、不公平感が生じにくい点が大きな利点です。
なお、福利厚生制度全体の見直しを検討している場合には、代理返還制度とカフェテリアプランを組み合わせることで、より多くの従業員をカバーする包括的な支援体制を構築できるでしょう。
6.まとめ
奨学金の代理返還制度は、企業が従業員の奨学金をJASSOに直接返還する仕組みで、所得税・住民税の非課税や社会保険料の算定対象外となるなど、企業・従業員双方にメリットがあります。
企業側は損金算入や賃上げ促進税制の活用による税制上のメリットに加え、若手人材の採用アピールや定着率向上といった人事面での効果も期待できます。従業員側は経済的負担の軽減により、キャリア形成に集中しやすい環境が整います。
一方で、企業のコスト負担増加や従業員の途中退職時のリスクなど、デメリットや注意点も存在します。制度導入にあたっては支援額・期間の設計を慎重に行うと共に、社内への丁寧な説明と規程整備が欠かせません。
また、代理返還制度の対象とならない奨学金を返済している従業員には、カフェテリアプランを活用した支援という選択肢もあります。福利厚生制度全体を見直し、自社の状況に合った最適な支援体制を構築していくことが大切です。
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企業が従業員に一定のポイント(補助枠) を付与し、従業員は企業ごとに設計されたメニューの範囲内で自由に選び、 利用できる選択型の福利厚生制度です。選択型福利厚生「カフェテリアプラン」
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