「法定福利費というものがあることを知ったのだけど、一体なんだろう?」
「福利厚生費と名前が似ているけど、何がどう違うのだろう?」
経理や人事をしている方の中には、このような疑問を持ったことがあるかもしれません。
本記事では、法定福利費について詳しく解説するとともに、福利厚生費との違いや仕訳方法などについても触れていきます。
目次
法定福利費とは、法律の定めにもとづいて企業が支払わなければならない、福利厚生のための費用のことです。例えば以下のような法律で定められています。
経理の際の勘定科目は、そのまま「法定福利費」です。どのような事業者でも負担しなければならないものであるため、帳簿には必ず含まれています。
健康保険は、労働者やその扶養家族に病気やケガが発生した際に適用される保険です。労使折半によって支払われます。
厚生年金保険は、労働者が高齢になった場合(原則65歳以上)や、障害、死亡時などに適用される保険です。労使折半によって支払われます。
厚生年金保険の加入対象となる労働者は、以下のように定められています。
雇用保険は、労働者が失業したり雇用継続が困難になったりした際に、求職者給付(失業保険とも)や、再就職手当を支給する保険のことです。
雇用保険の加入対象者は、1週間に20時間以上働き、かつ31日以上継続して雇用される見込みのある従業員です。
雇用保険料は、事業者と従業員がそれぞれ支払います。負担の割合は、業種に応じて以下のように変化します。
労災保険は、業務上の出来事が原因で負傷などをした場合に給付を行う保険のことです。労災保険料は事業者側が100%負担します。
労災保険の詳細は事業の種別によって非常に細かく分かれており、会社側も従業員側も、自分たちがどの保険料率に当てはまるのかを把握しておくことが大切です。
介護保険は、年齢を重ねることによって発生する介護に対して適用される保険のことです。
介護保険の対象者は、65歳以上の「第1号被保険者」、40~64歳の「第2号被保険者」に分けられます。
第2号被保険者の保険料は、労使折半です。
子ども・子育て拠出金は、かつて「児童手当拠出金」と呼ばれていたものです。国や地方自治体が実施する子育て支援サービスのために、事業者から徴収するお金のことを指します。
労災保険と同様に、事業者が100%納付を負担します。
子ども・子育て拠出金は、従業員が加入したり、保険料を負担したりといった必要がない点が特徴です。
法定福利費は、事業者が正確に負担分を計算できるよう、費用ごとに計算式がしっかりと設けられています。ここでは代表的な法定福利費について、具体的な計算式を解説します。
健康保険料の算出方法は、健康保険を提供する保険者が「協会けんぽ」であるか「健康保険組合」であるかによって変わります。
協会けんぽの場合、健康保険料の計算式は以下のようになります。
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率÷2
なお、協会けんぽの標準報酬月額や健康保険料率は、都道府県によって異なり、毎年見直しが行われます。
厚生年金保険料も健康保険料と同じく、事業者と従業員が折半するよう定められています。
厚生年金保険料率は2024年現在では18.3%で固定されています。計算式は以下のとおりです。
厚生年金保険料=標準報酬月額×保険料率(18.3%)
雇用保険料は、賃金の総額に雇用保険料率を掛けた数字です。
雇用保険料率は会社の事業種類によって異なり、2024年現在では以下のようになっています。
業種 |
雇用保険料率 |
労働者負担 |
事業者負担 |
一般 |
1.55% |
0.6% |
0.95% |
農林水産・清酒製造 |
1.75% |
0.7% |
1.05% |
建設 |
1.85% |
0.7% |
1.15% |
法定外福利厚生とは、法律で義務付けられている「法定福利費」に対して、企業が自主的に提供する福利厚生制度のことを指します。これらの制度は、従業員の健康維持やモチベーション向上、職場環境の改善を目的としており、法律上の義務もなく、企業独自の判断で導入されます。
そのため、法定外福利厚生は、企業の魅力を高め、優秀な人材を確保するための重要な施策となります。また、従業員のワークライフバランスを支える役割を果たし、従業員満足度を高める効果があります。特に最近では、リモートワークの普及に伴い、テレワーク支援や在宅勤務手当の導入など、時代に合わせた柔軟な法定外福利厚生が求められています。
企業によって提供される内容や規模は異なりますが、従業員のニーズや業界の動向を踏まえた制度設計が重要です。福利厚生を充実させることで、企業としての競争力を高めると同時に、従業員の生産性やエンゲージメント向上にも寄与することが期待されます。
法定外福利厚生にかかる費用は、企業の規模や業種によって異なりますが、経団連の「第64回 福利厚生費調査結果報告」によると、1人あたりの法定外福利費の平均額は月額24,125円とされています。この金額は、企業が従業員の健康維持やワークライフバランス向上のために提供する各種福利厚生制度にかかる費用を反映しています。
法定外福利厚生の費用は、従業員のニーズや企業の経営方針に基づいて柔軟に調整できる点が特徴です。たとえば、企業が特に重視するのが従業員の健康であれば、健康増進のためのプログラムやスポーツジム利用の補助などに重点を置くことができます。一方で、ワークライフバランスを支援する取り組みが求められている場合には、育児支援や介護休業支援、さらにはテレワークに適した環境整備が重要となります。
こうした取り組みは、一見すると企業にとってコストとなるものの、長期的には従業員の離職率の低下や健康維持による生産性向上といった効果が期待されます。適切な福利厚生の設計と運用は、従業員のロイヤリティを高め、結果的には企業全体の成長に寄与する重要な要素となります。
借方 |
貸方 |
給料 180,000 |
普通預金 165,000 |
預り金 15,000 |
借方 |
貸方 |
法定福利費 15,000 |
普通預金 30,000 |
預り金 15,000 |
|
借方 |
貸方 |
給料 180,000 |
普通預金 165,000 |
法定福利費 15,000 |
借方 |
貸方 |
法定福利費 30,000 |
普通預金 30,000 |
福利厚生サービスを導入する際、まずは導入目的を明確にしましょう。その上で、従業員のニーズに合ったサービスを選定することが重要です。ライフステージや個別の要望に応じて、柔軟な制度設計が求められます。福利厚生の拡充は従業員満足度向上につながりますが、過剰な投資は企業に負担となるため、コスト管理にも考慮が必要で、費用対効果を見極めながら導入することが大切です。導入後は定期的な利用状況の確認やアンケート実施など、従業員の意見も反映した見直しを行いましょう。利用率が低いサービスは再評価し、必要に応じて見直しを行うことも重要です。
こうした継続的な改善を通じて、従業員満足度や業績向上に寄与する効果的な福利厚生制度が実現できます。