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福利厚生EXPO2026で感じた熱狂とは

福利厚生EXPO2026で感じた熱狂とは

山梨大学 名誉教授
西久保 浩二

 6月中旬に毎年恒例の「福利厚生EXPO2026」が開催された。筆者も基調講演のお役目で参加させていただいた。550社が出展するという大規模な展示会となった。同時開催のバックオフィス関連展と合わせ3日間で約26,700人と多くの関係者が来場したようだ。毎年参加しているが、熱狂が毎年どんどん高まっている印象である。2018年の第一回を覚えているが、百社に満たないこじんまりとしたものだった。
 展示された新サービスで目立っていたテーマとしては「食事支援」「AI活用」「健康支援」あたりだったと感じている(個人の感想です)。この三大テーマが熱狂の先導役のようだ。

 

 でも今回に限っては「食事支援」の勢いが最も際立っていた。
 「食事支援」が大きなテーマとなった背景は言うまでも無く税制改革と物価高である。
 今回はこの時機を得たテーマについて考えてみよう。

 

 福利厚生による食事補助(給食支援)の非課税上限額が月額3,500円から7,500円へと大幅に引き上げられた。年間で90000円となる。20264月施行のこの改革は大きなインパクトとなった。1984年以来の42年という長年にわたり放置されていた非課税枠が現在の経済環境、物価水準に追いついた格好である。
 ちなみに、消費者物価指数(CPI)の変化でみると、1984年を起点として食料(飲食料品)100とした場合、2026年には約  150と約 1.5倍となっている。今回の改正が2.1倍なるので、進行する物価高を先取りした改正ともいえよう。シブチンの財務省がよく認めたものだと、当初はその上げ幅に驚いた。賃上げと比較して所得・住民税、社会保険料の上昇を招かない、純然たる物価高支援となるこの改正は時機を得たものであり、大いに歓迎されている。

 

 この大改正の影響もあってか、新しい、面白い食事支援サービスが数多く展示され、アピール合戦で盛り上がっていた。やはりスマホアプリなどを使ったサービスが拡がっている。市中の飲食店、宅配食サービス業との連携のなかで、割安なランチが地域の制約なく自由に取れるサービスが多かったようだ。また米どころ産地では名産のお米を社員食堂や宅入職として提供するサービスも複数あった。これは米作農家支援、地域おこしにも貢献するものである。もちろん、健康経営への注力の文脈下での健康食の提供も目立っていた。

 昔は社員食堂の設置された本社従業員だけの恩恵として、不公平感を醸したものだが、今やそのような心配は大きく後退した。喜ばしい進化である。

 

 食事への支援は福利厚生の生成期(江戸、明治)より存在するもので、労働者たちが最も歓迎する施策のひとつであろう。辛い勤務時間のなかでのお昼のランチタイムは大いなる“癒し時間”である。今日、何を食べようか、誰と食べようか、と正午前から、なかには前日からあれこれ悩み、楽しむ社員は少なくない。筆者もその代表者な一人であった。正午ずっと前に密かに抜け出し、地下鉄に乗って鰻、天ぷらの名店などを悪友たちとよく訪ねたものである。


 そして、ランチを食さない社員はいない、わけで全社員に恩恵が行き渡る。


 中国内の企業視察をしたときに担当者が「昼食がまずい、貧しいと転職される」と発言していた事を想い出す。何やら尊厳を傷つけられたと受け取るようである。食事支援は世界、万国共通の福利厚生の強く、明確なニーズであり、テーマなのであろう。

 1982年開場の富岡製糸場の当時勤務していた工女、和田英が記した「富岡日記」のなかでも、それまで雑穀などを常食していた地方から出てきた工女たちに白米のご飯が贅沢に毎日振舞われた。「一日と十五日と二十八日か赤のめしにさけのしほ引き、それか実ニ楽しみて有桝た。(原文どおり)」と記されている。
工業制手工業(industrial handicraft industry)の出現によって、家庭という生活空間から引き離された労働者たちにとって、そして良好な労働力を得たいと願う経営者にとって、「給食」は必要不可欠な福利厚生となった。全国から集められた工女たちは没落した武家出身の者が多かったとされる。実家への送金支援も求められる厳しい状況にあって、新技術である「製糸」を学び、やがて地域での指導者たるべく、日々努力を重ねていた。技能レベルによる極めて傾斜性の強い賃金制度(月給、等外工女75銭、一等工女175)の下でのプレッシャーもあっただろう。彼女たちにとって、当時の他の日本の事業所ではあり得なかった充実した給食支援が大いなる“癒し”であり、努力を支える土壌となっていたのではなかろうか。

 

 「腹が減っては戦ができぬ」、この言葉の明確な初出の年代は不明だが、「戦(いくさ)」という言葉からは明治以前、江戸期からだろう推測されている。今もこの言葉は真実を伝えているのであろう。

 

 戯言ばかりで恐縮なので、最後にひとつエビデンスをお示ししておきたい。

 下図は、「社員食堂等の給食施設、食事補助クーポン支給等」の利用経験の有無を1658人の正規従業員に尋ね、その有無毎に「エンゲイジメント」「定着性」「勤勉性」そして「貢献意欲」という従業員態度のスコア比較(基準化後)を示したもので、差異についての統計的検証も行った。

 結果は図に示された通り、食事支援の恩恵を経験した者たちはエンゲイジメントが高く、定着的であり、勤勉に働こうとし、会社への後継意欲も高い(いずれも統計的な有意差有り)

 やはり、「食」は“(胃袋に)刺さる”のである。最強の福利厚生施策かもしれないね。

食事支援の効果

 


西久保浩二氏顔写真

この記事の講師

西久保 浩二山梨大学 名誉教授

一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会(総務省)」座長
国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会(財務省)」委員
PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当)等を歴任


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