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採用を科学する・・・産業医の視点

株式会社さくら事務所
 代表 山越 志保

 産業医をしていると、企業の人事担当者のみならず、役員、果ては社長までからも、こんな質問を受けることがある。

『先生、採用前にメンタルヘルス不調者になりそうな社員を振り分けるようなツールかテストなんかありませんかね?』

 

近年、精神障害のよる労災申請・認定件数の増加に伴い、企業にとって、メンタルヘルス不調者による休職者を出すことは、生産性低下、経済的な損失だけでなく、場合によっては企業イメージを大きく損ねることもある。

企業にとって、採用前に、誰がメンタルヘルス不調になるか否かを予想するツールは、夢のようなものであり、ドラえもんの秘密道具のようなものなのだろうか。

ただし、業種問わず、採用後にメンタルヘルス不調になるか否かを予想するような完璧なツールは残念ながら、存在しない。

そもそも、メンタルヘルス不調とは、職場環境、業務の量と質、人間関係のみならず、個人の資質、プライベートでの出来事など複合的に重なり合って、陥る不調である。この不調を、数値で予測できるものだろうか?

 

では、ここで、伝統的に行われている企業採用について目を向けてみよう。

巷には、就活・面接のハウツウ本があふれ、未だ、リクルートスーツが売られている。就活の時点で、多くの求職者は限られた魅力的な企業情報と、一部の限られた企業担当者とのやり取りだけを手掛かりに、自分なりの勝手な企業イメージ・期待を作り上げていく。求職者と企業の期待のミスマッチが入社後、新入社員の中で、リアリティ・ショックという形で顕在化する。『リアリティ・ショック』とは人が新しい組織・状況に直面した際にその人が事前に抱いていた期待と、彼(女)自身が実際に目にした現実とのズレによって引き起こされる『衝撃』を指す。

 ほとんどの新入社員は、採用前の期待と、入社後にはじめて現実とのすり合わせを行い、驚き、そしてリアリティ・ショックが生じる。このリアリティ・ショックは新人の離職につながることが実証されている。

 現場で産業医活動をしていても、リアリティ・ショックは離職とまではいかなくとも、モチベーション低下、メンタルヘルス不調の発症にも大きく関わっているケースが少なからずあるように見受けれらる。

 

そこで、採用前後の求職者・新入社員へのかかわり方で、メンタルヘルス不調者による休職者・離職者を出しづらくする方法があるのではないかと思い、ここにその5か条を挙げてみる。題して、新入社員をリアリティ・ショックから救う5か条!!

 

【新入社員をリアリティ・ショックから救う5か条】

①採用前に、企業のリアルな情報を盛り込む。

入社後に様々なリアル(現実)に幻滅することがないように事前に適度なネガティブ情報を与えておく。これをワクチン効果という。

例えば『当社は新入社員から給与水準が高いが、その代わりハードワークである』とか。


②採用前に実際に業務の一部をやらせて、その成果を見る。

 入社前の求職者の抽象的なイメージや期待だけで、実際の業務は進まないから、仕事の能力・向き不向きを評価するために、インターシップ制度からの採用、ワークサンプルを取り入れている企業もある。


③企業採用担当者、管理監督者が新入社員の期待のミスマッチ、リアリティ・ショックという事象を知っておく。

 新入社員にはこのような事象がある事を事前に上司が知っておくことで、日々の部下への配慮、メンタルヘルス不調の気づきにつながるのではないかと考える。


④ 入社後、リアリティ・ショック後のフォロー、モチベーション維持向上を目的とする研修や制度づくりの整備を行っていく。


⑤メンタルヘルス不調に陥るとき、回復するとき、鍵となる能力のひとつに、コミュニケーション能力がある。実はこの能力は後天的に獲得できる可能性のある能力のひとつ。この能力の向上のため、入社後もコミュニケーション研修を継続していく。

 

今後も、いかなる業界でもメンタルヘルス不調を起こしそうな社員を100%はじくような採用方法はないし、絶対的な最善の採用方法もないだろう。

ただし、採用前後で、企業ができる工夫はまだまだあるのではないかと思っている。

<参考文献>

『こうすれば、必ずいい人材がとれる! 採用学』 
 横浜国立大学准教授  服部泰宏著

『採用を変える 組織が変わる』 
 面接コンサルトタント 高岡幸生著

この記事の講師

山越 志保 


<略歴>

福島県立医科大学卒業。虎の門病院で内科研修終了。その後、都内の病院で内科医・呼吸器内科医として勤務しながら、産業医・労働衛生コンサルタントを取得して、現在に至る。

『会社と社員をともに守る企業の労働安全衛生体制づくりを』をモットーに日々の業務に励んでいる。

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