上智大学経済学部経営学科 教授
森永 雄太
みなさんは、心理的安全性という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。Googleが生産性の高いチームの特徴として指摘したことをきっかけに、広く知られるようになった概念です。しかし心理的安全性はGoogleで発明されたコンセプトというわけではなく、50年以上前から提唱されてきた学術的な概念です。また心理的に「安全」と聞くと、チームメンバーから怒られないほんわかしたチームのことを思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし心理的安全性の高いチームとは、決してやさしいだけのチームではありません。これらを含めて心理的安全性は誤解されることが多いキーワードの1つです。
チームレベルの心理的安全性の重要性を提唱したことで知られるエイミー・エドモンドソンは、心理的安全性を、このチームで対人的リスクを取ることは安全であるという共有された信念のことと説明します(Edmondoson, 1999)。筆者は、この定義にある「対人的リスク」がイメージしづらいことによって、チームレベルの心理的安全性が理解しづらくなっているのだと考えています。エドモンドソンによれば対人的リスクとは、集団内で発言する際に私たちが感じる様々な不安と関連するものと説明しています。
私たちは「こんなことを言ったら嫌われるかな」とか「こんなことを聞いたら知識がないことがバレてしまうかも」などの不安から、集団内で発言することを躊躇することがあります。しかし同時に、そのような遠慮の結果として、チームが大きな失敗をしたり損失をこうむったりすることがあることも知っています。心理的安全性は、従業員同士が率直に指摘しあうことを可能にし、予防できる失敗を防ぐことを可能にしてくれます。
このように考えると、心理的安全性の高いチームとは、「批判されない」ことが共有されているチームではなく、むしろ「必要な指摘や批判をしてよい」ことが共有されているチームといってもよいでしょう。建設的な批判であればメンバーは自分を嫌ったりせずに受け止めてくれるという安全がそこにはあるのです。
昨今、職場の多様性を高めることの重要性が認識されるようになって来ました。しかし、いくら多様性の高い組織を意図的に作っても、心理的安全性が共有されない限り、多様な意見が職場に上がってこず、その強みを活かせないことにつながります。心理的安全性がいかなる意味で安全かを正しく理解した上で、チーム作りに活かしていきたいものです。
Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative science quarterly, 44(2), 350-383.
Edmondson, A. C. (2012). Teaming: How organizations learn, innovate, and compete in the knowledge economy. John Wiley & Sons.(野津智子訳『チームが機能するとはどういうことか』英治出版 2014年).
森永 雄太
上智大学経済学部経営学科 教授
略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。
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