「退職金制度は福利厚生の一部なの?それとも別の位置づけ?」
「どの退職金制度が自社に合っているか判断するポイントを知りたい」
退職金制度は多くの企業が導入する一般的な制度ですが、その位置づけや種類、メリット・デメリットについて十分に理解している人事担当者は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、企業の人事担当者・経営者向けに、退職金制度の基本的な位置づけから各制度の特徴、導入による効果やリスクまで、わかりやすく解説します。これから制度導入を検討している方はもちろん、既存の制度を見直したい方にも役立つ内容となっています。
退職金制度は、一般的に福利厚生の一部として認識されがちですが、実は法定外福利厚生でありながらも、通常の福利厚生とは性質が異なる制度です。
法律上の義務付けはなく、「退職金なし」としても問題ない制度である一方で、就業規則などで制度を定めた場合には、労働基準法上の「賃金」とみなされ、支払いを免れたり減額したりすることは許されません。厚生労働省によれば、退職金も賃金に該当するため、労働基準法第24条に基づき、通貨で直接労働者に全額を支払う必要があります。
退職金は、長年働いた功績に報いる「勤続報奨」や、退職後の生活を支える「保障」の性格があり、従業員の福利厚生制度の中でも大きな比重を占める代表的な項目となっています。
※参考:よくあるご質問(賃金・退職金・賞与関係)|大阪労働局
退職金制度には主に4つの種類があり、企業規模や方針によって適した制度が異なります。
どの制度を選ぶかは企業の経営状況や人材戦略に大きく影響するため、それぞれの特徴をよく理解しておくことが重要です。
退職一時金制度は、従業員が退職する際に一時金(退職金)を一括で支給する制度です。自社内で退職金原資を積み立て、退職時にまとめて支払う仕組みが典型例となります。
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によれば、退職金制度を持つ企業の約7割がこの一時金制度のみを採用しており、特に小規模企業では77%以上がこの形態を選んでいます。
メリット
デメリット
確定給付企業年金(DB)は、企業があらかじめ将来支給する年金額を約束し、必要な掛金を拠出して積み立て・運用する制度です。退職後、従業員に年金形式または一時金で給付します。
企業年金連合会によれば、この制度は「確定給付企業年金法」に基づいた制度で、企業が将来の給付を約束し、運用リスクを負担します。厚生労働省の調査では、従業員1,000人以上の大企業では約47%が一時金と年金を併用しています。
※参考:確定給付企業年金(DB)|企業年金連合会
メリット
デメリット
企業型確定拠出年金(DC)は、企業が拠出した掛金を各従業員の個人年金口座に積み立て、従業員自身が運用を行う制度です。将来の給付額は運用成果によって変動し、企業は掛金拠出までが責任範囲となります。
厚生労働省によれば、2001年の制度開始以降普及が進み、近年は中小企業でも導入が増加しています。
※参考:企業型年金の規約数等の推移|厚生労働省
メリット
デメリット
中小企業退職金共済制度(中退共)は、中小企業向けに国が運営する共済型の退職金制度です。企業は従業員ごとに毎月掛金を拠出し、国の機関である「勤労者退職金共済機構」がその掛金を管理・運用します。
厚生労働省によれば、令和5年度末時点で約37.9万社、358万人の従業員が加入している日本最大級の退職金共済制度です。
※参考:中小企業退職金共済制度(中退共制度)|厚生労働省
メリット
デメリット
退職金制度を設けることは、企業にとって次のようなメリットが期待できます。
退職金制度があることで「この会社で長く働きたい」という動機付けとなり、優秀な人材の流出防止につながります。特に勤続年数に応じて退職金が増える仕組みであれば、社員は長く勤めるほど得をするため定着率が上がります。
厚生労働省によれば、人材の定着に効果的な施策として退職金制度が挙げられており、技術継承や生産性向上にもつながると指摘されています。
※参考:人材確保に「効く」事例集|厚生労働省
退職金制度の有無は求職者にとって待遇面の大きな判断材料となり得ます。他社より福利厚生が充実していれば採用時に有利になる可能性があります。
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」では企業の74.9%が退職金制度を導入していますが、業界によって普及率に差があります。たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業では9割を超える企業が導入している一方、宿泊業・飲食サービス業では導入率が5割に満たないなど、業界によって大きな差があります。
一方で、退職金制度には企業側の負担やリスクもあります。
退職金制度を導入すると、将来の退職者に支払うべき退職給付債務が発生します。退職金は賃金の後払い的性格上、一度制度を作れば将来にわたり支出負担が継続し続けるからです。
中小企業庁の「中小企業白書」でも、退職金制度の導入・維持に関わる財務負担が中小企業にとって課題になっていることが指摘されています。特に複数のベテラン社員が同時期に退職する場合には、一時に多額の支出が生じて資金繰りを圧迫するリスクもあります。
退職金制度は一度導入すると簡単に取りやめることが難しい制度です。退職金は従業員の重要な待遇の一部であり、制度廃止や給付水準の引き下げは労使トラブルにつながりやすいためです。
就業規則の変更として退職金制度を減額や廃止することは、法的に不利益変更とみなされる可能性が高く、従業員の同意なしに実施するのは困難です。一度導入した制度を後から変更することの難しさを考慮すると、将来の経営環境変化にも対応できるよう、慎重な制度設計が必要です。
退職金制度は法律上必須ではありませんが、多くの企業が導入し従業員の安心と会社の発展に役立てている仕組みです。中小企業においても、自社の規模や財務状況、人材戦略に合った制度を選ぶことで、従業員の定着や採用力強化につなげることができるでしょう。
一方で将来まで見通した負担も考慮し、無理のない制度設計・運用を心掛けることが大切です。退職金制度の導入を検討する際は、厚生労働省や中小企業庁、勤労者退職金共済機構などの信頼できる情報源や専門家の助言も参考にしながら、自社に最適な形を見極めてください。
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