「従業員のパフォーマンスが上がらない」
「従業員の離職率を下げたい」
このような課題改善に期待できるのが「健康経営」による食事改善への取り組みです。企業側が従業員の食事改善に取り組むことで、人材確保や医療費コストの削減に役立ちます。健康経営は高齢化社会が進んでいる日本において、年々重要度が増している取り組みといえるでしょう。
本記事では、従業員の健康を支える健康経営の食事改善について詳しく説明していきます。また、健康経営を取り入れるまでの流れも詳しく解説します。この記事を最後まで読み、健康経営の知識を深めていきましょう。
目次
食に関する価値観などが変化し、ライフステージやライフスタイルによって、食品・食事の選択、食べ方など、食生活のあり方も多様化してきています。食事に時間をかけられない人は、栄養バランスの乱れや栄養不足を引き起こす可能性があり、ファストフードや加工食品の利用が多い人は、栄養が偏りやすく、健康リスクが高まる傾向にあります。
その他にも野菜不足や塩分過多など、慢性的な不調の原因となる食生活の課題も見逃せません。こうした問題が蓄積すると、肥満や生活習慣病、さらにはメンタルヘルスへの悪影響も懸念され、企業にとっても社員の健康維持が経営課題として重要視されています。企業は「健康経営」の視点から、社員の食生活を改善するための取り組みが求められています。
仕事が忙しく残業時間が長くなると、帰宅時間も遅くなるといった理由から、手軽なコンビニやインスタント食品、外食に頼りがちになってしまいます。
現代の忙しい生活は、栄養バランスを整えた食事を妨げる大きな要因のひとつです。ファストフードや加工食品の利用が増えることで、必要なビタミンやミネラルが不足しやすく、逆に脂肪や糖質が過剰になりがちです。
栄養バランスが乱れると、体調不良や集中力の低下が生じるだけでなく、長期的には生活習慣病のリスクが高まります。
朝食を抜くことには、健康にさまざまな影響があります。まず、朝食を摂らないとエネルギーが不足し、午前中の集中力や記憶力が低下しやすくなります。それにより、ミスが増えたり業務効率が落ちたりする可能性が高まります。また、空腹時間が長引くと次の食事で過食しやすくなり、血糖値の急上昇や肥満リスクも増加します。
このように、体調不良だけでなく、集中力の低下や生産性の悪化を引き起こす可能性があります。
厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では、野菜摂取量の目標値 350gとしていますが、厚生労働省の令和4年「国民健康・栄養調査」の結果によると、野菜摂取量の平均値は270.3gであり、男性277.8g、女性263.9gと目標値には届いていません。
この理由は、インスタント食品や外食の多さに加え、朝食を摂らないことにより野菜を摂取できるタイミングを逃すことなどが考えられます。
野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれており、不足すると免疫力が低下しやすく、便秘や肌荒れといった健康トラブルを引き起こす原因になります。
参考:令和4年「国民健康・栄養調査」の結果|厚生労働省
1日の塩分摂取量(食塩摂取量)の基準は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、男性7.5g未満、女性6.5g未満を目標値としています。 しかしながら、現代の食生活では、加工食品や外食の利用が増え、自然と塩分摂取量が多くなる傾向があり、厚生労働省の令和4年「国民健康・栄養調査」の結果によると、食塩摂取量の平均値は9.7gであり、男性10.5g、女性9.0gと減少傾向にはあるものの、目標値を超えています。
塩分過多は、高血圧や腎臓病、心疾患などのリスクを高める要因として知られています。
参考:令和4年「国民健康・栄養調査」の結果|厚生労働省
健康経営の取り組みには、さまざまな種類がありますが、食事改善は比較的取り入れやすく、多くの企業が実践しています。ここからは、健康経営で食事改善に取り組むメリットについて紹介します。
偏った食事を続けると、生活習慣病になるリスクが高まります。さらに、疲れやすくなったりイライラしたりすることで、生産性の低下を招く恐れもあるのです。
また、生産性を向上させるには、食事のとり方にも注意する必要があります。昼食を食べると眠くなる方は、糖質のとりすぎが原因です。何を食べるかはもちろん、どのくらいの量をいつ食べるかで、生産性は大きく変わります。
健康保険組合連合会の「けんぽれん」がまとめたデータによると、令和5年度の国民一人あたりの年間の医療費は38.0万円にもおよびます。また、75歳未満の医療保険適用分に関しては前年度比1.7%増の26.2兆円です。
年々増え続ける医療費は、これからも従業員の健康に影響を与えるばかりか、企業にとっても社会保障費の負担が大きくなることにつながります。
栄養バランスの取れた食生活は、健康を維持するのに重要な要素です。健康経営で食事改善に取り組み、病気を未然に防ぐことができれば病院に受診する機会が減ります。これにより、医療費や薬代を抑えることが可能になります。
参考:けんぽれん「健康保険組合連合会」
健康経営を実践している企業で働くことは、求職者にとっても魅力的な会社に映ることでしょう。特に、食事補助サービスは、従業員の満足度も高く、社会的なイメージアップにも効果的です。
社員食堂によるブランディングを行っている企業もあり、食事に関するサービスは、求職者が重要視するポイントのひとつといえます。
企業が健康経営の一環として食事改善に取り組むことは、社員の健康と生産性を高めるだけでなく、離職率の低下や休職者の減少にもつながります。
栄養バランスの良い食事は、社員の体調管理やメンタルケアをサポートし、心身の不調を予防する効果が期待されます。さらに、社員が健康で快適に働ける環境を整えることで、企業への信頼感や満足度が増し、定着率の向上も見込めます。また、健康的な生活習慣を支える取り組みによって、慢性的な疲労やストレスが軽減され、健康上の理由での休職や退職リスクが減る効果も期待できます。
このように食事改善の取り組みは、企業と社員双方に持続的なメリットをもたらす重要な投資といえるでしょう。
健康経営で行う具体的な食事改善の取り組みについて、詳しく説明していきます。自社に取り入れられるものがないか見てみましょう。
食事改善を従業員に身近に感じてもらう方法として一番分かりやすく示せるのが、社内食堂に健康メニューを導入することです。従業員の中には、昼食をコンビニやファーストフードなどで簡単に済ませてしまう方もいるでしょう。
しかし、それでは栄養が偏ったり、仕事の活力になる栄養が足りなくなってしまう可能性があります。健康経営の一環として、社員食堂に専門家が考えた健康メニューを置くことは、従業員の食事改善を習慣化するのに有効な方法です。
社内食堂で健康メニューを導入しただけでは、従業員の健康に対する意識がまだまだ上がらないこともあります。また、社内食堂の健康メニューで栄養がバランス良くとれたとしても、家に帰ればインスタント食品やファーストフードチェーンなどで済ませてしまう方もいるでしょう。
健康経営の取り組みとして、社内食堂の健康メニューと並行して、管理栄養士などを招いて食育セミナーを実施することも有効です。
多くの食育セミナーでは、食事のとり方や気をつけるべきポイントなどを学びます。食育セミナーは決して堅苦しいものではなく、従業員が今の食生活から無理のない範囲で改善する方法を提案していきます。
健康メニューや食育セミナーにより、健康に対する知識や意識が変わっていくことが期待できます。しかし、健康の維持に大切な要素になるのが、継続することです。正しいと分かっていても、自分で毎日の食事プランを立てて持続していくことは、なかなか難しいことです。
そのため、食生活を無理なく持続して改善していくためには、専門家のアドバイスが必要になります。健康経営を実施している企業の中には、管理栄養士など食の専門家による相談窓口を設けているところもあります。
食の専門家を配置することは、従業員の健康管理ができることはもちろん、企業にとっても従業員が抱える健康問題を把握しやすくなるメリットが期待できます。外部の相談サービスの導入や、健康相談ができるチャットサービスを活用すると効果的です。
ここからは、健康経営に取り組む4法人の食事改善の事例をご紹介します。食事改善は主に大企業が率先して取り組んでいます。
2008年に健康経営に着手している株式会社タニタ。特徴は、健康計測機器を活用しながら従業員の健康状態を「見える化」している点です。
具体的には、全従業員を対象に日々の歩数を計測するとともに、体重・体脂肪率・筋肉量などの変化を社内で定期的にチェックできる環境を整備しています。また、従業員同士の歩数を競う「歩数イベント」など、一人ひとりが楽しみながら、健康意識を高める取り組みを進めてきました。
その結果、2024年には8年連続で「健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)」に認定されました。さらに昨年に引き続き、健康経営優良法人の認定を受けた上位500法人である「ブライト500」にも選ばれています。
加えて、従業員の健康増進のためにスポーツ活動の促進に積極的に取り組む企業として、スポーツ庁から「スポーツエールカンパニー2024」に認定されたことも見逃せません。
出典元:タニタ「健康経営への取り組み」
株式会社オートバックスセブンは、1947年の創業以来、従業員の心と身体の健康を掲げている会社です。特に、多くの病気と関係の深い「喫煙」を第一課題として取り組むことで、健康の維持・向上に尽力しています。
また、女性特有の健康課題にも積極的に取り組んでおり、全従業員が自分事として捉えられるように、環境整備に力を入れているのが特徴です。
すでに健康経営の取り組みは長年にわたり評価されており、2022年に4回連続で、株式会社日本政策投資銀行が行う「DBJ健康経営格付」の最高ランク獲得の実績があります。さらに、制度開始から7年連続で大規模法人部門の「健康経営優良法人」にも認定されています。
出典元:株式会社オートバックスセブン「健康経営」
LINEヤフー株式会社は、健康経営の基本となる『UPDATE コンディション』の考え方が特徴です。働く人のコンディションを最高にすることを目標に、あらゆる取り組みを行っていく強い想いが込められています。
具体的には「予防」「就労支援」「オフィス環境」の3つの取り組みを行うことで、働く人のコンディションを最高にし、業績向上の実現を目指しています。また、外部からも評価が高く、経済産業省および日本健康会議による「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」、通称「ホワイト500」に7年連続で認定されています。
出典元:LINEヤフー株式会社「健康経営の推進」
健康経営で食事改善の施策をスムーズに実施していくには、どうすればいいのでしょうか?ここからは、食事改善の施策導入までの流れを説明していきます。
上記の流れで進めると、効率よく食事改善の施策を実施できます。各段階のポイントを詳しく見ていきましょう。
健康経営は、食事改善の実施を社内に周知することから始まります。企業のトップが、健康経営を重要な経営課題のひとつとして発信することで、社内や社外に対して全社的な取り組みであることをアピールできます。
また、健康経営に取り組んでいることを発信する「健康企業宣言」を行うことも効果的です。なお、宣言する際は健康経営における食事改善の目的が、企業の持続的成長に資することを明らかにしましょう。
中長期的な目的を明らかにすることで、食事改善の取り組みが企業の成長や従業員の健康状態に対して、いかに有益であるかを示すことにつながります。
健康経営を行うことを周知した後は、健康経営の施策を担当する組織や部署を作りましょう。すでに組織がある場合はそのまま活用できますが、組織がない場合には新たに担当者を配置する必要があります。
なお、担当者に健康経営のノウハウが身についていない場合は、健康経営アドバイザーなどの外部講師から研修を受けることも有効です。ほかにも担当者の選定の際に、すでに専門資格を持っている人材を採用することも検討してみるとよいでしょう。
従業員の健康状態や、会社の環境にどのような課題があるのかを把握しましょう。従業員の健康上の課題を見つける方法としては、ストレスチェックや健康診断の結果を確認することなどが挙げられます。
その後、従業員全員にアンケートを取って健康への意識を確認してみるとよいでしょう。アンケートなどで、残業や休日出勤が多過ぎるなどの問題点を洗い出すことで、従業員の身体面と精神面の不安や課題を見つけることができます。なお、課題や改善すべき点は部署ごとに異なる場合もあるため、細かい分析が必要になります。
従業員の健康上の課題や改善点が明らかになった後は、具体的な施策を実行していきます。施策を実行する際には目標を達成できるような計画を立てて、全従業員に告知することが大切です。
目標設定を明確にすることで、会社や従業員の現在地と変化を感じることができます。なお、具体的な社内での施策例としては、以下のような内容があります。
健康経営は施策を実施しただけで終わりではありません。むしろ、始めた後の対応が重要です。健康経営の成果が出るまでには、時間がかかりますが、一定期間ごとに効果の検証を行い、施策を修正することが必要です。
また、健康経営を実施したことにより、今まで見えなかった課題が発見できることもあります。必要な場合は、課題の修正や新しい計画の立案も検討していくことが大切です。
この記事では、健康経営において食事改善を行うメリットや取り組み方について解説しました。食事改善に取り組むと、従業員の生産性の向上や企業のイメージアップにつながります。しかし、健康経営に取り組むには、専門知識を有した人材を確保する必要があります。さらに、施策の検証や修正にも時間がかかるため、すべて自社で行うと大きな負担となるでしょう。
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