本記事では健康経営の基礎について詳しくご紹介いたします。健康経営のメリット・デメリットを記載し、またアメリカでの実施についても解説していますので、今後企業で健康経営の推進をお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
「健康経営」は1990年代にアメリカのロバート・ローゼン博士が提唱した「ヘルシー・カンパニー」に基づいた経営方針で、「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という考え方からきています。
アメリカ社会では、会社組織で働く従業員各個人が自身の健康を管理することで、企業の生産性を高めることが中心となっています。一方、日本の健康経営は、従業員の健康づくりを経営戦略とし、組織マネジメントと従業員個々のセルフマネジメントを組み合わせて考えていくことが中心の戦略になっています。
これは「個人を中心に考えた戦略」と「企業+個人」を考えた戦略の違いです。また、昨今、日本で健康経営が注目されている背景には、労働人口の減少や医療費の増大が課題となっていることがあります。
労働人口の減少により、生産性を維持するためには従業員個々によるパフォーマンスの向上がポイントとなります。さらに、医療費の増大は財政を圧迫する原因の一つにもなっており、従業員が健康になることにより、医療費も削減できると考えます。
引用元:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省 「2040年を見据えた社会保障の将来の見通し」
日本再興戦略の中の「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つであり、経済産業省と東京証券取引所が共同で、従業員の健康管理を戦略的に経営に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定しています。
また、「健康経営」を積極的に実践的することで、従業員の健康向上、生産性向上等の組織活性化をもたらし、結果的に業績向上につながると期待されています。
選定対象となる企業は、東京証券取引所の上場企業の中から「健康経営」に優れた企業が選定されます。
健康経営を推進するうえで必要な「健康経営度調査」「健康投資管理会計ガイドライン」などを活用して、企業の健康経営の第一歩からPDCAを回していくお手伝いをするコンサルティングサービスです。
健康経営は単なる名目上だけではなく実践することで、従業員、企業ともにメリットがあります。
また、うまく実践するまでには課題もでてきますので、ここでは、健康経営のメリットとデメリットをご案内します。
健康経営を推進することにより、企業イメージやブランド価値が高まる点があげられます。健康経営の取り組みを積極的に外部へアピールすることで、企業イメージやブランド価値が向上し、お客様からの信頼も増します。また、優秀な人材確保にもつながります。
従業員の健康を維持、増進させることは、労働生産性アップにつながるメリットがあります。何となく元気や気力がない従業員が多い企業と、元気で生き生き働く従業員が多い企業とでは、明らかに後者のほうが労働生産性が高いといえます。
健康な従業員が増えることは、企業の生産性向上にもつながり、大きなメリットとなります。
身体的な不調に限らず、メンタル面も体調を崩す従業員が多いと、病院へ通う人も増え、企業が負担する医療費が増えてしまいます。健康経営を実践することで、従業員の健康維持、増進が見込まれ従業員の医療費の負担を軽減することができます。
健康経営を実施することで、労働環境の改善や働き方改革にもつながり、働きやすさや働きがいがあると感じる従業員も増えてくるでしょう。そうすると必然的に離職率の低下や従業員の定着率の向上にもつながります。
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健康経営は長期的に取り組むことでメリットがありますが、効果が見えづらいため、目先の利益にとらわれてしまわないことが大切です。
健康経営の効果検証するためには、データ収集の必要があります。データは従業員一人ひとりの取り組みと実施入力等によって蓄積されますので、そのデータが正確であるか、提出していない従業員がいないかなどの確認も必要になりますし、収集したデータ集計が大変な部分はデメリットとなります。
健康経営の取り組みは、長期的に実践しPDCAを回すことによって、効果が表れてきます。また、欠勤率が低下した場合など、健康経営の成果がどうかの判断に時間がかかる場合もありますので、取り組む際は効果が見えづらいという点を念頭におき、施策を検討することが大切です。
取組内容によっては、忙しい従業員にとって負担を感じる可能性もあるでしょう。例えば、時間外の健康イベントや目標数値を設定した施策など、従業員の健康に繋がることを実施したとしても、逆にストレスを感じてしまう場合もあります。
健康経営を推進するにあたり、出来るだけデメリットを抑えたいものです。そのための注意点をご紹介します。
健康経営施策を検討する上で、他社の取り組み事例やセミナーなどで情報収集して、社内の課題と合わせて設定することが重要です。
健康経営推進の担当者を設定することが大切です。人事部門やプロジェクトとして進めることも多いかと思いますが、健康経営アドバザーなど外部の人材の力を借りてみることも効果を高める一つの手段です。
ただ取り組みを実施することだけでは、従業員は健康にはなりません。企業として本気がどうかは従業員に伝わります。本気度を伝えるために、まず企業のトップに健康管理の重要性を理解してもらうことが重要です。
トップダウンで進め、全社をあげて取り組んでも、思うような成果が出ず悩むこともあるでしょう。健康は一日にしてならず、です。短期的な成果を求めてしまうと、従業員のモチベーション低下や労働環境の悪化にも繋がりかねません。
まずは意識改革や習慣化を目標に徐々にステップアップしていくような取り組み方で、継続的に進めることが健康経営を成功させ、成果につながるポイントです。
トップの理解も得て、従業員にも説明も終わり、さあスタート。といってすぐに従業員が主体的になるかというと、そう簡単には全員参加にはならないでしょう。
取り組む内容も重要です。社内の課題を把握し、従業員の意見にも耳を傾けモチベ―ションアップを図れるような環境づくりも大切です。担当者の一人よがりにならないよう、企画段階から従業員参加型の健康経営施策を検討できるとよいでしょう。
健康経営のメリット・デメリットや実施の際の注意点等を見てきましたが、これはあくまでも日本のケースです。発祥した国であるアメリカでは、どのように健康経営が実施されているのか、気になる方もいらっしゃることでしょう。実際はどうでしょうか。
1章「日本における健康経営推進とは」でも触れましたが、1990年代にアメリカで「The Healthy Company」の考え方がはじめに広まったのは、日本のような国民皆保険がない土壌で、従業員の医療費が高騰し、企業経営の根幹を揺るがしたことがきっかけでした。近年では、従業員の医療費削減だけでなく、従業員の満足感や健康意識の向上、優秀な人材獲得などの要素が強まって来ています。
さらに2020年の新型コロナ感染拡大(パンデミック)により、従業員の健康状態や幸福感を向上させる健康増進施策が、アメリカ企業の最優先事項として位置付けられているとされています。近年のアメリカ企業においては、デジタルを活用した健康経営が注目されています。特に注力されているのは従業員個人を対象にした先進のデジタルヘルスソリューション(モバイルアプリ)の導入と活用です。
また、コロナ下で深刻化したメンタルヘルスやストレス管理の分野は、アメリカ企業で需要が高まっている分野です。2021年にはアメリカの81%以上の企業が、ストレスマネジメントへの投資を強化したとの調査結果もあります。
出典:株式会社日本総合研究所
「デジタルで変容する米国の『The Healthy Company』~日米健康経営の比較から考察するわが国の課題~」
モバイルヘルスケアアプリとは利用者の健康に関する情報を一つにまとめて分析し、より健康になるための情報提供や、周囲の人との情報共有をサポートしてくれるアプリのことです。モバイルヘルスケアアプリは従業員満足度の向上、生産性の向上など、実際の効果も検証されており、次世代の優秀な人材を獲得する有効な手段として注目されています。
出典元:日本総研(2021)「デジタルで変容する米国の『The Healthy Company』~日米健康経営の比較から考察するわが国の課題~」p.9>
メンタルヘルスケアソリューションとは、不安や心配などを減らし、リラックスする方法、ストレスを管理する方法、集中力を見つける方法などをサポートするツールのことですことです。
コロナ下における個人の不安増大を背景に、2020年にはアメリカ企業で「Headspace」や「Calm」といったメンタルヘルス系のアプリのダウンロードが増大しました。「Apple」や「Amazon」などの大企業もメンタルヘルスケアソリューションの提供会社と提携しています。
アメリカ企業の従業員の約3分の2が、業務時間にストレスを感じていると回答しています。職場のストレスが従業員の健康や仕事に及ぼす影響について調査したGinger社のレポートによると、実に81%の労働者が、疲労や不安、身体的な不調などの症状が仕事を休む原因になっていると回答しており、この点のフォローに力を入れる企業が多いこともうなずけます。
出典元:日本総研(2021)「デジタルで変容する米国の『The Healthy Company』~日米健康経営の比較から考察するわが国の課題~」p.13
健康経営は、短期的な施策ではなく経営的視点で長規的に戦略的な実践し、PDCAを回しながら取り組むことがとても重要です。また、健康経営銘柄や健康経営優良法人認定を取得することが目的ではありません。
従業員の健康に投資するという考え方のもと、従業員が心身ともに健康になり、元気にいきいき働くことで、生産性の向上や企業の業績もアップしていきます。時代とともに健康経営の取組み方や手法なども変化しているため、より多くの情報を取得し自社に適した健康経営を推進していくことが望ましいでしょう