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「ガクチカ」に悩まされる就活生

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科教授
西久保 浩二

今年もようやくサマー・インターンシップが一段落し、大学三年生たちも慌ただしい夏休みを終えて、ようやく後期の学生生活に臨んでいることであろう。しかし、またすぐに秋・冬インターンシップか始まることになるわけで、束の間の休息であろうか。

 

 筆者は大学にて、専門分野の関連からか、就職支援委員長なるお役目を拝命して以来、既に13年目を迎えている。この間、学生諸君たちへの就職支援活動に携わってきたわけだが、この就活(シューカツ)なる企業と個人との組織的で、儀式的な、そして不思議なマッチング活動を眺めてきて多くの疑問というか、笑えるなぁ、といった思いを感じてきた。

 そのあたりシューカツの不思議な、そして笑える常識を揶揄ってみたいわけだが、今回は、特に学生たちが最も苦悩している「ガクチカ」に注目する。

 

 そもそも大学で学ぶ、という本来の学生生活のなかに、シューカツなる異物が混入したのは歴史的にはかなり古い話になる。いわゆる「新卒一括採用」は明治時代にその原型が形づくられた。わが国で大学という教育機関ができたのは1870年代であるが、当時の卒業生は官僚か、学者になる者がほとんどであった。しかし一部の財閥、例えば三菱、三井などは大卒という希少価値の高い人材の採用を幹部候補として積極的に行ない、やがて定期採用となる。そして大学も増え、大卒生が増加するなかで不況が訪れると就職難に窮した学生達が企業に殺到したため、混乱を避ける意味で一斉に処理できる「選抜試験」を実施するようになる。当時のこの試験は学業の邪魔にならぬようにと卒業後に実施されたようだが、当然、学生達は在学中に試験対策に勤しむことになる。「定期」かつ「一斉」、「在学中に準備」。これでシューカツの原形ができあがった。

 

 

戦後、高度成長期には長期雇用、年功序列、企業内組合という日本的経営の三種の神器などと並ぶ、特長的な慣習として新規学卒一括採用が定着した。

諸説あるが、何のスキルも未だない大学生を、自社の将来の労働需要の確信もないまま、毎年、定数を採用するという、大胆な行動が定着したのは、長く経済成長が続いた、あるいは続くものと信じる企業人が多かったからであろう。まぁ、不況期にもなんとか採用定数削減で適応できたので、今日まで続けてこれたのであろう。

 

さて、各企業にとって業務に関する即戦力となる専門知識・スキルを持たない学生達を採用する際に、何を基準に選考すれば良いかは難しかったはずだが、そこは成長神話、真っ只中の楽観主義に浸っていた余裕もあってか、「ポテンシャル(潜在性)」なるものを評価基準とすることにした。未だ表れていない、内在しているであろう職務能力の可能性である。まぁ、実在するかどうか、不確実性が高いから、期待感といってもよいね。

このポテンシャル基準にも流行があって、当初は、「学業成績」であったが、やがてチーム仕事が多いため「協調性」となり、「やる気」、「コミュニケーション能力」と続き、最近では「ストレス耐性」などもかなり重視されているようだ。

 

学生達は、このポテンシャル指標で高評価を得るためにシューカツで必ず問われることになってしまったのが「ガクチカ」である。学(ガク)生時代に力(チカら)を入れた事」を彼らお得意の短縮語化したものである。「頑張った事」ならガクガン、「乗り越えた事」ならガクノリ、となるはずだが、なぜかガクチカ一本で労使で定着してしまっている。

 

自分の優れたポテンシャルを伝えるための、この「ガクチカ」。学生達にとっては。実に厄介な、悩ましい問いかけになっている。

 何が厄介で、悩ましいか。就職支援委員、ゼミ教官として長らく聴取してきた経験から数々の彼らの愚痴、反応をご紹介したいと思う。

 

 まず第一に。一番多く聞かれる言葉。というか8割方の学生が発する言葉。それは、、、

「頑張った事が無い」である。

 

おいおい、無いのかよ、とツッコみたくなる採用担当者諸兄が目に浮かぶが、貴兄もそうではなかったかなぁ?

胸を張って頑張った、と言えることいえば、唯一、小学校、中学、高校とお受験という高いハードルのためにずっと頑張ってきたことだろう。塾だ、定期試験だ。模擬テストだ、と。

その苦難の受験をなんとか大学合格できて、やっとホッとして、のんびりしたい、というのがほとんどの大学生気分ではなかろうか。そして、幸いというか、不幸というべきか。日本の大学は実に生涯で一番、のんびりできる時空間なのである。7割方、出席して、レポート出せば卒業単位は容易に取れてしまう。申し訳ないねぇ。これは先生側も楽なのよ。

 

しかし、ガクチカに「受験で頑張った」は書けない、タブ―といわれる。

学生達は、まずここで一斉に「え~、何で」とポカんとしてしまう。企業に「大学時代に頑張ったことはないのかね」と嫌味を言われてしまうことになる。せっかくあれほど受験勉強という人生かけて一番頑張ったネタなのに、それにダメ出しされてしまうと、まず途方に暮れるわけである。

 

もちろん、高校時代に頑張ったことも、イマイチ扱いされる。インターハイに出場しました、文化祭の委員で頑張りました、とかも同様の反応でシューカツではあまり評価されない。

 

本業である「学業で頑張りました」というネタを使いたい学生も、もちろんいるのだが、成績証明を提出するのは、内定が出た後、というタイミングがほとんどだから、エビデンスを見せられない。というか、なんだ成績は関係ないんだ、とビックリ&ガッカリする。

 

「バイト」ネタもイマイチといわれる。これは採用担当者からもよく聞かれるが、「バイト・ネタ」を使う学生があまりに多すぎて、目立たないのである。パターン化してしまっていて差別化が難しい。そもそもバイトの目的は「遊び資金」という点も、企業から見ると、う~ん、という感じにもなっているようだ。

じゃ、しょうがない。ということでなんとか突破力のある「ガクチカ」を捏造しよう、と作家まがいの創作活動に取り組むことになる。しかし、そこは善良な日本人の規範意識からか、捏造の罪悪感に微妙に苦しむのである。結果、いかにもネツゾウっぽくて、リアリティをもった迫力ある「ガクチカ」にはならないのである。

筆者はここだけの話だが、ゼミ生たちの創作活動に加担している。「2割くらいのファクト(事実)に、8割、盛りなさい」と指導している。

 

また、近年は就活支援として低学年(1、2年生)対象の就活セミナーも始めている。それは、いずれ「ガクチカ」なる難解なものが必要になるよ、という事を早めに伝えたいからである。

さらに、この厄介な「ガクチカ」が、インターンシップが選考型に急速にシフトする中にまで浸透してきており、夏、秋冬の二度のインターンシップ、そして本選考と三度も作成(ネツゾウ)しなければならないということで負荷が重くなってしまっているのが実情である。

学生側の「ガクチカ」を巡る悩ましさ、右往左往の実態の一部をご理解いただけたかと思うが、採用する企業としても、同様に悩ましいであろうと、推察申し上げる。「ガクチカ」の信憑性を評価するのは難しい。

 

こんな、キツネとタヌキの何とやら、のような採用と就活で本当にベスト・マッチングができているのであろうか。長年、疑念をいだいてきたのである。やはり、米国のように90日以上といったロング・インターンシップやリファラル型が手間暇はかかるがベストなのかもしれない。

この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授

 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会(財務省)」委員
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。


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