1. TOP
  2. 専門家記事
  3. 非製造業の生産性問題を考える

非製造業の生産性問題を考える

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科教授
西久保 浩二

10月初頭にわが国を代表する大手GMS(総合スーパー)の四半期決算発表がなされ、最終赤字に陥ったことが報じられた。当社を含め、わが国の伝統的な小売業(ネット小売業を除く)は総じて低収益化に苦しんでいる。長引くデフレ傾向からくる消費低迷だけではなく、人件費の上昇、高水準化というビジネスモデル内の費用構造としての限界性があるためである。かつて“流通革命”と呼ばれ、百貨店や商店街といった業態を追い落として流通業の頂点に立ったGMSであるが、残念ながら今やその勢いは見る影もない。

 小売業に象徴されるようにわが国の非製造業の労働生産性が国際的にみても低迷していることはこれまで多くので研究者、日銀、日本政策投資銀行等から度々、指摘がなされてきたが、その改善の歩みは遅々として進まない。労働生産性とは生み出された付加価値を分子とし、その価値を得るために投入された労働量を分母として算出される指標、つまり従業員1人当たりの付加価値額として算出される。ちなみに日本生産性本部が毎年、公表している日本の名目労働生産性の直近の2014年度の値は770万円となっている。

 この労働生産性が非製造業において長年低迷する最大の要因は労働投入量が多すぎることである。卸売・小売業、運輸・倉庫業では労働者数の過剰が主要因であり、宿泊・飲食業では労働時間の長さに加えて付加価値性そのものが低い点が要因と指摘されている。

この相対的な労働投入量の大きさは、企業規模とも密接な関連性がある。すなわち、非製造業では零細・中小企業が相対的に多い企業構造にあることが過剰投入の要因のひとつとなってしまうわけである。皮肉なことに現在、非製造業の多くで人手不足が問題視されているわけだが、不足基調であっても生産性という観点では、以前として過剰ということである。ひとえに「働き方」、「働かせ方」の効率性の問題であり、高い労働集約性が放置された帰結といってもよかろう。

周知のとおり、近年、国内の産業構造においてGDPに製造業が占める割合は年々低下しつづけ、非製造業の割合が7割を超えようとするまでに高まってきた。いわゆる“産業構造の高度化”と名付けられた長く続いてきた現象である。この傾向が進展するなかで非製造業の国際的にも低迷している生産性問題に必然的に注目が集まるようになってきたわけである。つまり、国家としての経済成長問題として看過できないものとなってきたことを意味する。

既に2007年には「サービス産業生産性協議会(Service Productivity & Innovation for Growth / 略称:SPRING)」なる組織が設立された。これはサービス産業の生産性向上を実現するため、産学官が連携する共通のプラットフォームとしての役割を担うものである。活動としとは、生産性向上に役立つ経営革新ツールなどの情報の提供、有効な知識の共有のための「場づくり」や業界・企業の自主的な取組の支援などが行われてきた。この協議会設立からほぼ10年を経たわけだが、残念ながら十分な成果が出たとはいえない、しかし、いくつかの新たな可能性を見つけたという点では一定の評価がなされてもよいと筆者は思う。

その代表的な活動が「ハイ・サービス日本300選」である。この顕彰制度が実施されてきたことをご存じだろうか。イノベーションや生産性向上に役立つ先進的な取り組み(ベストプラクティス)を行っている企業・団体を表彰・公表するもので、概ね4半期ごとに20~25社程度選定・公表し、3年間で300選を選ぼうという顕彰制度であった。対象業種は多彩で、旅行業、飲食業、運輸サービス業、情報サービス業、ホテル、医療、物流、大学等々、全てのサービス業種に及んでおり、受賞企業は大企業、中小企業を合わせて既に269社に達している。

受賞企業では、ITを最大限活用した新たな発想でのローコストオペレーションの実現や、高い顧客満足を持続的に得るための独自の仕組みづくり、従業員満足から引き出される高いホスピタリティの実現、さらには、中小企業がIT を活用することでバーチャルな大規模化を実現する、等々、いずれも今日のサービスに共通する課題としての低生産性を克服しようとする意欲的な取組ばかりである。

このような受賞企業での成功例をみていると、問題点ばかりが目立ってしまっているわが国のサービス産業、非製造業にも、まだまだ改善余地、成長の糊代が残されていると思えてならないのである。 2015年には現政府が「日本再興戦略 未来への投資・生産性革命」においてサービス産業の労働生産性の伸び率を、2020 年までに 2.0%とすることを目指すという数値目標を掲げた。

この「サービス産業チャレンジプログラム」では多様なサービス業種の横断施策として、ベストプラクティスの徹底普及(日本サービス大賞等を含む)、サービス品質の評価(日本版顧客満足度指数の普及促進等)などが展開されており、成果を見守りたい。厳しい人手不足、人件費高騰に直面する非製造業であるが、ここは“災い転じて….”という発想からの思い切った、新たな仕組みづくり、高い付加価値サービスの開発に本腰を据えて着手すべき時期であると思われる。

 参考URL : 「ハイ・サービス日本300選」とは
http://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=31

この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授

 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会(財務省)」委員
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。

Recommend

おすすめ記事

 

メルマガ登録

最新情報や
お役立ち資料を自動受信!