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With コロナ時代の福利厚生を考える①

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授
西久保 浩二

政府の成長戦略の一貫として2016年9月に「働き方改革実現会議」を創設され、その後の関連法の施行などが始まり、いよいよ日本の労働者にも本格的な新しい働き方が求められてくる、そしてその過程で福利厚生の伝統的なあり方も変わっていくのであろうと感じたことが遠い過去のように今は思われる。

 

そう、コロナ禍という誰もが予期できなかった突然の大きな衝撃が、私達の生活、そして働き方を大きく揺さぶることとなり、働き方改革の議論が何やら宙に浮いてしまったように感じてしまう。コロナ禍は、これまでの近代労働史にもなかった激震といってよい、経験のない大きなインパクトといってよいだろう。

 

「通勤しない」「会社に行かない」「会社にいない」「家にいる」「テレワーク」「リモート」といってワードが示すように、それまでの普通であった“働く”、という行為の時空間が一変したのである。

 

「三密」回避を基本的な条件としなければならない新たな働く時空間での働き方、つまりWithコロナ時代の働き方のなかで、いかに企業としての生産性を維持し、そして向上させていけばよいのか。降って湧いたような大きな課題を前に戸惑う読者諸兄も少なくないのでなかろうか。


当欄の読者には、福利厚生の担当者も多かろうと推測される。そこで今回からは、Withコロナ時代の福利厚生のあり方、そして方向性について、一緒に考えていきたいと思う。

contents

  • 福利厚生の本質に立ち戻る
  • Withコロナ時代に適した福利厚生とは

1.福利厚生の本質に立ち戻る

まず、こういった未知の環境変化に直面したときには、物事の本質に立ち戻ることが、思考の出発点として大切ではないかと考える。目の前の現実での多様な変化、課題に対して一喜一憂して対症療法的な行動だけに終始してしまうと、努力が蓄積されたときに、新たな体系に辿り着くことが難しいからである。いわゆる合成の誤謬(fallacy of composition)ってやつである。変化の本質を見極めると同時に、福利厚生の本質を再確認することが思考のアンカーとなってくれるはずである。


そこで、福利厚生についてもWithコロナ時代であっても、その本質は不変であるという前提で、再確認しておきたい。つまり「福利厚生とは何か」という問いに対する答えである。


こういう場合は、筆者は常に先達の言葉に従うことにしている。まだまだ本質などを語るには未熟者であるということが第一の理由だが、以下の言葉には全く到達できていないと痛感しているからでもある。


今回は、東海大学で長年、教鞭を執られていた篠原恒 (1974)氏による福利厚生(ここでは企業福祉)の存在意義、そして他の人事制度との違いについて述べた内容があり。その一部を以下にご紹介する。(番号、傍点は筆者が付与)

1.「企業福祉とは、従業員のもつ福祉の安定・向上という欲求と一致することにより、企業側と従業員側の両方に結果として何らかの利益をもたらすところにその存在の理由がある」

 

 

2.  労務管理は、一般に労働過程における従業員本人を対象とするのに対して、企業福祉は労働過程に直接関係のない私生活・社会生活の場における従業員とその家族を対象としている。

 

 

3. 労務管理は労働力消費過程の問題だが、企業福祉は労働力再生産過程の問題である。

 

 

4. 労務管理は直接的な効果を狙っているのに対して、企業福祉は 従業員と家族の福祉の安定・向上を通じて間接的な効果を期待している。

 

 

これらの内容のひとつひとつが時代がとのように変わろうとも、福利厚生があるべき本質であろうと思う。故に、コロナ禍時代であっても、本質的であるために、何を変革すべきなのか、何を変わらせず維持すべきかを図る指針となると考えられる。

 

2.Withコロナ時代に適した福利厚生とは

「会社に行かない」「会社にいない」「家にいる」という新しい時空間のなかで、この本質から自問してみよう。


従業員、そしてその家族たちの求める「福祉の安定・向上」とは何か。従業員たちの「私生活・社会生活」はどう変化し、そこでの新たな課題や不安とは何か。そして、新たな就業環境のなかで従業員の「労働力の再生産」は従来通り、実現されているのか。もしその再生産が阻害されているとすれば、新たにどのような支援が必要となっているのか。


こうした原点から改めて発想してみることで、新たな福利厚生のあり方、つまり従業員の労働生産性を維持し、さらに創造性を伴って向上させることで、企業成長に明確に寄与できる戦略的福利厚生の姿がみえてくるのではないだろうか。


福利厚生は、従業員の私生活と職場での生産活動との間にあって、長期的に両者を融合し、相乗的な関係を構築させる唯一の人事労務制度である。私生活の大きな変化に戸惑う従業員も少なくないだろう。私生活の場に“仕事”が入り込んでしまっているなかで、両者の関係性をどう建設的なものとして維持させるのか、企業側からのより踏み込んだアブローチ、支援が求められているようにも感じられる。


各社それぞれの労使がWithコロナ時代の福利厚生のあり方を議論してもらいたいものである。


 

この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授

教授 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長
(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会」委員
(財務省)
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。

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