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With コロナ時代の福利厚生を考える②

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授
西久保 浩二

Withコロナ時代を迎えて一気に拡がったテレワーク、リモートワークだが、コロナ禍が収束したとしても、こうした働き方は主たる柱のひとつとして浸透していくことになろう。

 

長時間の通勤苦からも開放され、育児や介護との両立にも優しいとして従来から推進されてきた経緯もあるのだから、間違いなく求められていた働き方なのである。「働き方改革」においても政府が目標として「2020年の企業導入率約35%」を掲げていた。

 

コロナ禍を契機として、これから長く働く若年層も含めて多くの労働者がこの新しい働き方を受け容れ、既にそのメリットを享受している。継続を望む声も拡がっている。

 

某大手食品メーカーがテレワークの恒常化を宣言したことも頷ける。おそらく、テレワークは労働者の仕事に対する意識、働き方に対する考え方そのものを大きく変えてしまったのであろう。同時に一部の経営者の考え方も変えてしまったのではないだろうか。

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1.リモート型と非リモート型が混在するハイブリッド・ワーク時代へ

一方で、テレワークとの親和性の低い製造業などを中心に伝統的な従来型の働き方も、当然、残存することになる。わが国の製造業は、Face to faceのコミュニケーションをベースとした強いチームワークの発揮が強さの原動力であった。例えば、ZeroDefect運動など小集団活動での“カイゼン”と名付けられる品質向上・管理活動などがその代表例であった。従業員同士のフランクで、密なコミュニケーションによって持続的な改善がなされた。そこで多くのプロセス・イノベーションが実現されて、低価格で高品質なモノづくり、そして気配りが尽くされた“おもてなし”という最高のサービス・クオリティが国際競争力の根源となったわけである。これらはテレワークでは再現がなかなか難しいものであり、コロナ対応はなされるであろうが、非リモートの働き方は欠かせない。


結果的に、新しいリモート型と従来からの非リモート型が混在、併存するハイブリット型の働き方が拡がることになるだろう。


このハイブリッド・ワークは産業ごとにリモートと非リモートの濃淡の差はあるだろうが、これからの働き方の基本形として捉え、そこでの生産性の向上、従業員生活の安定を図る必要がある。できれば、両ワーク間での相乗効果を生み出すような効果的な対応が期待されるところである。

2.ハイブリッド・ワークで変わる福利厚生

福利厚生は従業員への多様な支援策を通じて、モチベーションの向上、労働生産性の維持・向上を図ってきたわけだが、働き方が変われば、当然、その支援のあり方を再構築することが求められてくる。


まず、新たな適応が必要となるのは「住宅」を含めた「ハコもの(施設付帯型施策)」であろう。大企業像では法定外福利費の4割以上を占めている、まさに大黒柱というべき「住宅」だが、ハイブリッド・ワーク時代には、企業のオフィス立地志向、従業員の居住地志向の双方が大きく変わろうとしており、再構築が迫られる可能性がある。


これまでの「社宅・独身寮」は日常的な勤務地が都心や地方であっても県庁所在地などの中心地であること、その都心などに毎日通勤可能な地域に居住しなければならないこと。また勤務前の居住地からの通勤が困難であることが施策展開の前提であった。


この前提がコロナ禍によって、大きく変わってしまった。仕事も、会議も、中には営業活動まで、リモートで行われ始めている。“やれば、できる”という実感は日々拡がっている。「ハンコ出勤」といった不毛な話も電子印章や電子サインに替わろうとしている。さらにワーケーション(Workation)のような、さらに自由度の高い働き方も政府で推進されはじめている。


通勤不可能な遠隔地の出身者であっても、テレワークをフル活用すれば、大規模な独身寮など必要なくなる。月に二、三回程度、どうしても本社で直接、顔を合わせて会議がしたいのなら、自宅から本社出張させればよい。慣れ親しんだ地方の親元で、中学、高校の同窓生たちと共に暮らしながら都心の大企業で勤務できるようになる。わざわざ「三密」の東京などに住まなくてよい。地方転勤用社宅も縮小できる。普段は地方支社の現地スタッフとの間でテレワークで仕事をこなし、時々自宅から出張すればよい。新幹線や特急のある沿線ならば、どこでも出張ベースで全て可能である。


仕事場は自宅でなくてよい。海釣りが好きな方ならば、海まで歩いていけるリゾートに住んでも良いし、スキーが好きならば、白馬や苗場あたりもいいではないか。社宅・独身寮という最も費用がかかるハコもの施策が不要・大幅縮減となれば、在宅勤務手当なども大いに奮発できる。会社としては従業員の自宅を「使わせていただいている」わけだから当然ともいえる。間借り代である。


こう考えてくると、今は住宅施策では現物給付としての「社宅・独身寮」の費用が大半を占めており、持家取得補助はその10分の1以下であったが(「福利厚生費調査(日本経団連)」より)、これを見直すべきであろう。快適な居住環境であり、同時に集中できる効率的なリモート執務環境が重要となるからである。若い時期からテレワークを前提に居住用不動産を買い求める従業員が増えてくるため持家志向は高まる。


住宅同様に「ハコもの」と呼ばれる施設付帯型施策については他でも影響が大きい。なぜなら、ハイブリット・ワークを想定したときに、固定的な“施設”、「三密」空間となりやすい“施設”というものが、どれほど利用されるか、という稼働率が問題となる「会社に通勤しない」「家にいる(在宅勤務)」「ワーケーション(Workation/家でも、会社でもないところで働く)といった働き方が、本格的に拡がることになれば、自社といえ社員達の地理的分散が飛躍的に大きくなるから、施設に集まること自体のコスト、手間暇が飛躍的に高まる。


例えば、近年の健康経営への注力のなかで見直されていたのが社員食堂の新たな役割であった。ヘルシーメニューを提供し、最新のデジタルタグを食器背面に付着させて、社員一人一人の日々の摂食行動をモニタリングし、助言できるシステムなども利用されてきた。しかし、この最新の健康管理システムといえども毎日社員の多くが、社員食堂のメニューを食することで初めて、助言機能、つまり健康維持機能が有効になるわけである。会社に来なくなってしまえば、無用の長物となってしまう。


「ハコもの」という点では、スポーツ施設の多くは、既にアウトソーシング化されて外部の事業者との契約型になっているわけだが、この施設も危機に直面している。コロナ禍当初のクラスターがスポーツジムで発生してしまったという不幸な経緯もあるわけだが、あの空間に戻るのにはかなりの勇気がいる。大声を出し、声かけ合って、汗やら、唾やらの発散させ放題の、あの空間である。怖いと感じる社員たちが多数派ではないだろうか。スポーツというのは福利厚生では「文体レク」と呼ばれていたメイン施策のひとつであるわけだが、「施設」という前提があるだけにコロナ禍のなかでは再考が迫られることになるだろう。

3.「ハコもの」から「ヒトもの」へ

このように社員食堂、スホーツジムを問わず、施設があってそこに社員達が集まるという形式の施策では新たな対応が必要となる。


わが国の福利厚生の制度構造としては、この「ハコもの」が多いことが世界的な特徴であった。他にも、保養施設、仮眠室、休憩室、入浴施設、ロッカー室、喫煙室、相談室、お花・お茶といった習い事の部室、等々、数多くの「三密」空間を社員に提供することで密な従業員支援を行ってきた。しかし、その多くは費用効率が低下し、不公平感を招くなどの問題もあって、コロナ禍以前より、住宅に代表される「ハコものの時代」ではなく、健康、両立、自己啓発などの「ヒトものの時代」、と筆者は主張してきた。これほど急激に「ハコもの」の時代が終焉する可能性が高まるとは、予想できなかったが、その意味では,好機と捉え、「ハコもの」全てについてそのあり方を再考し、大きな制度転換を図ることができるのかもしれない。

この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授

 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長
(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会」委員
(財務省)
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。

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