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DXが迫るリスキリング(Re-Skilling) ―コロナ禍の従業員の“学び”を支える自己啓発を―

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授
西久保 浩二

テレワークの拡がりは従業員たちの生活時間配分が大きく変えた。

最も大きい変化は非生産的な通勤時間の消滅である。政府統計では東京都の平均通勤時間は43.8分、埼玉県でも43.7分もあった。これが消えた。

加えて、テレワークにより“ダラダラ会議”、“なんとなく残業”などの浪費時間も劇的に減ったに違いない。これまで先進諸国と比べてわが国の低レベルな労働生産性は一向に改善の兆しは見えなかった。OECD統計で20位前後を長く低迷していたのである。

その最大の要因は悪しき長時間労働の慣行であった。それがテレワークの浸透によってかなり改善されたわけである。

つまり、従業員に時間的なまたとない余裕が発生している可能性が高い。

では、その余裕時間をどう活用するか、させるか、である。

ここで注目、注力したい福利厚生施策がある。そう、従業員が自発的に学ぶ「自己啓発」である。これまで福利厚生施策の柱のひとつとして長く位置付けられてきた。

1.コロナ禍で新たに挑戦したことの調査結果

昨年の6月に発表された内閣府調査(「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」n=10128)では、「感染症の影響下で新たに挑戦したり、取り組んだことは何か」、という興味深い質問がなされた。

その結果では「今までやれなかった日常生活に関わる事」が最も多く28.4%、

次いで「本格的な趣味」の16.0%、

さらに「オンラインでの発信(Youtubeなど)」の13.2%と、

ようやく自己啓発と思われる「教育・学習」11.7%、「ビジネス関係の勉強(資格取得、スキルアップ)」8.8%となる。4位、5位である。Youtubeにも負けているとは、、、、(泣)。

これは憂慮すべき事態である。

2.アナログ・スキルをデジタル・スキルに更新する「リスキリング」

今、日本企業の多くが周回遅れと揶揄されながらも、国際競争力を維持するためにもデジタルトランスフォーメーション(DX)に本気で取り組もうとし始めている。この新たなDX時代を生き抜くためには、一部の優秀なデジタル系技術人材や、経営を指揮するトップ層だけがデジタル経営革新を担うだけでは事足らない。

各企業のあらゆる職場、現場で第一線に立つ、いらゆる“フロントライン”の従業員たちにも新たなデジタル・スキルが不可欠になろうとしている。つまり、既存の事業、職務にいかに“デジタル”を組み込むかを考案し、付加価値向上の方策を描き、実行できるスキルである。

デジタル活用した新たな価値の生み出し方や提供方法を発案し、習熟し、実行するための新たなスキル、知識が必要となっている。これが、旧来型のアナログ・スキルの棚卸しであり、デジタル・スキルへと更新させることを意味するリスキリング(Re・Skilling)である。

効果的に、このリスキリングができなければ、自社の競争力が低下するだけではなく、従業員自身も職を失いかねない。ビジネスモデル全体がデジタルベースに変革されるとき、その現場で使える知識とスキルをもたない人材は失職してしまうからである。今回のテレワークはもある意味、その試金石となっているともいえる。

それゆえに、“新たな学び”が従業員に強く求められているわけである、にもかかわらず趣味とYouTubeに興じていることが実に憂慮されるのである。

3.実効性が低下するOJT

わが国の企業の人材育成はこれまで、企業主導でなされてきた。特にお得意のOJT が中心で Off-JT と自己啓発は補完的な位置づけでしかなかった。しかし、今、テレワーク中心の働き方ではOJTの実効性が低下していることは明らかである。

以前にSECIモデルという知識創造論での知見を紹介したことがあるが、わが国の従業員の多くは現場で、ベテラン技能者とのFace-to-faceの密なる場で多くの価値あるスキルを体得してきたのである。それが実効性を失っているとすれば、人材育成の危機を迎えているともいえる。

企業間競争が厳しい、この時代にあって従業員のもつ知的資源の陳腐化、後退は経営資源管理上、戦略上の大きな問題となってくる。

やはり、自己啓発の重要性、必要性がこれまで以上に高まっており、同時に、またとない好機なのである。

4.在宅勤務やテレワークが自己啓発の契機に

好機である理由はいくつかある。。

何よりまず、自己啓発には、「在宅でできる」という絶対的な強味がある。

また、コロナ禍に伴って業績不振に陥っている業界では、雇用に対する不安感が高まっており、エンプロイアビリティ(Employability)を高めなければならないという思いに至る従業員は増えていると考えられる。DXへの乗り遅れる危機感を合わせて、これは自己啓発への強い動機付けとなっているはずである。

さらに、従業員が在宅でのテレワークの日々の生活を送る中で、彼ら自身の長期的なキャリア設計、生活設計を考える時間も増えている。

コロナ禍以前には、辛い通勤と眼前の仕事に追われていた従業員たちも、今は時間的な余裕もあって、また身近に家族の大切さを感じているなかで、長期的な人生設計を考える機会を得ているはずである。これからの長い職業人生を考えはじめることも、自己啓発への基底的な動機付けを形成するだろう。

「学びに遅きはなし(It’s never too late to learn.)」という格言がある。江戸時代末期の国学者、本居宣長が述べたとされているようだが、やはり好機は逃したくないものである。

コロナ禍の今日、改めて戦略的福利厚生として、いかに自己啓発を活性化させるかを考える時期ではなかろうか。

この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授

教授 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長
(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会」委員
(財務省)
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。

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