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70歳定年か、45歳定年か、FIREか、、、
【執筆:西久保 浩二】



高安法(高年齢者雇用安定法)が改正され、令和3年4月から施行された。今回の改正の最大の注目点は、「70歳までの就業機会の確保」が事業主の努力義務とされたことであろう。人生100年時代、いよいよ働くことも70歳という大台に接近しようとしている。

企業にとっては、これまでの同法の改正パターンにあったようにやがて義務化されるのでは、と予感、懸念されているのでなかろうか。人口減少が本格化するわが国では人手不足の恒常化が懸念される状況では、この70歳雇用が歓迎しようという動きもあるが、一方で年功基準の報酬体系や法定外福利費(社会保険料等)の負担が上昇するなかで総額人件費のさらなる膨張を懸念する声は強い。

 こうしたなかで大手企業の経営者から「45歳定年制」という、ある意味でショッキングな提言がなされ、耳目を集めることとなった。実にタイムリーな発言であったこと。そして政府側もこの発言に「高安法での60歳未満の定年禁止が明記されている」などと普通過ぎる反論をしたことが波紋をさらに広げることとなった。

 まさに、経営者、労働者、そして政府の正直な思いがぶつかり合ったようにも見えた。

 多くの労働者にとって就業機会が選択的に高年齢期にまで伸長することは有難い話である。人生100年時代に突入して長生きのリスクが顕在化しつつある。例えば、近時では「老後生活資金2000万円不足問題」が世間を騒がせた。金融庁レポートに端を発したこの騒動は、「火の無いところに煙」をつけたがる輩によって政争の具となってしまったが、現実に余裕のある老後生活のために一定の資産形成が必要であることを知らしめた点では労働者への警鐘となったとも思われる。つまり、成熟化する公的年金だけに頼らず、現役期に自助努力に基づく着実な資産形成が豊かな老後を求めるならば大切だという話である。そしてこの資産形成にとって就労機会が高年期まで得られることは大きな意味をもつ。まず、労働収入なき資産取り崩し期間を短縮化できること。そして何より貯蓄できる期間を長く設定できることで資産形成の余裕(長期計画化)ができること、である。


一方で今、わが国の若い世代でも「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」が憧れのライフスタイルとして注目され始めた。これは元々は米国のブロガーが自身の体験談を紹介したことで注目されたもので、簡単に言えば、若いうちに節約をして、投資に励み、一定の資産形成ができたらハードワークの世界から早々に離脱して、自分らしい余裕のある自由な生活を送ろう、というものである。このFIREは、45歳定年説を歓迎する生き方ともいえるし、70歳定年とは、むしろ対立的、反語的な生き方のようである。しかし、資産形成の重要性という点では共通点もある。


全ての労働者にとってFIREを実現できるか、といえばなかなか難しい話ではあるのだが、自由を求めて若年期から貯蓄、投資に励むこと自体は堅実な生き方ともいえるのであろう。筆者などは大昔の新米サラリーマン時代には先輩諸兄から「若いうちから貯金などするな、しっかり周囲の上司、先輩、同僚たちと酒を飲め、それが自分への投資だ」という実にありがたいご助言をいただいて忠実に実践した。その結果、毎月、財布がFIREする(火の車)という泣ける経験を持つ者としては「早く言ってよ」というFIRE(ここは怒りの意味で)なのである。定期代(当時は6か月分現金支給)まで使い果たし、回数券で通勤した時代を懐かし、恥ずかしく思い出すのである(泣)。

 経営者の立場からも本音で考えてみよう。

先の勇気ある発言をされた経営者は「首切りをするということではない」と弁解された上で、「45歳は節目で、自分の人生を考えてみることは重要。社会がいろんなオプションを提供できる仕組みを作るべきだ」と述べられている。

これは金言であろう。会社だけに依存する生き方が悲惨な末路を迎えたケースを数多く見てきた筆者からすると、この言葉は実に優しい言葉である。傾聴に値する。

少なくとも精神的には会社に全面依存、同化するのではなく独立的でありたいものである。会社とはビジネスパートナーであり、会社が自分をこき使うのと同様に、自分(労働者)も会社を利用し尽してキャリア価値を高め、能力を磨き、人脈を作るという貪欲さがあっていいのである。滅私奉公なんて黴の生えた忠誠心は危険なのである。自律的な生活設計意識を育んで欲しい。もちろん、FIREのためにも大事な資産形成も月給、ボーナスがあってこその話だから会社は頼りにせざるを得ないのだが、精神的独立は大事である。

まぁ、要するに会社と自分との距離感が肝なのであろう。近づきすぎても、離れすぎてもリスクなのである。


経営者のホントのホントの本音を忖度したとすると「70歳まで会社に頼ってくれるな、
自分で生きろ」「その時期の人件費膨張が怖い、競争力を奪うのでは」「コスパ(労働生産性)の良い社員はいつまでも残って欲しい、でも、、、、全員じゃない」といったあたりだろうか。いずれも、経営者の立場とすれば首肯できる話ではある。70歳定年義務化で本当に日本企業が国際競争力を減じるとなれば、本末転倒の話にもなりかねない。就業機会を確保しようとして、企業寿命を縮めるというのは最悪の事態である。若い世代までFIRE(ここは解雇)されてしまうからである。

この問題について経営者と労働者がいかに折り合っていけるのか、難しいテーマである。安易な答えなら誰でも言えるのだか、やはり働き方を改革して労働生産性を上げ、連続的なイノベーションを実現していくしかない。経営者と労働者が力を合わせて、FIRE(ここは「燃える」)な心で努力していくしかないのであろう。


この記事の講師

西久保 浩二

山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科

教授 一貫して福利厚生に取り組み、理論と実践の経験を活かした独自の視点で、福利厚生・社会保障問題に関する研究成果を発信している。

<公職 等>
「国家公務員の福利厚生のあり方に関する研究会」座長(総務省)
「国家公務員の宿舎のあり方に関する検討委員会(財務省)」委員
「PRE戦略会議委員(財務省)」委員
全国中小企業勤労者サービスセンター運営協議会委員
企業福祉共済総合研究所 理事(調査研究担当) 等を歴任。

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