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風疹予防接種3年間無料に 対策のカギは39〜56歳の働く男性

産業医/内科医/メンタルヘルス法務主任者
石井 里絵

日差しが暖かく感じる日が増え、少しずつ春の訪れを感じるようになってきました。
この冬はインフルエンザの流行の話題が目立ちましたが、昨年の7月以降、首都圏を中心に風疹感染者数は増加しています。

 今回は、風疹流行の現状および2019年2月1日付で施行された定期接種制度などについてお話ししたいと思います。

 

【風疹流行の現状】
 2018年1月から2019年2月初旬までに報告された風疹患者累計報告数は3,173人で、1万4,344人が感染した2013年の流行以来、5年ぶりに2,000人を超え、風疹の流行が深刻化しています。
男女別にみると男性の患者数が女性の4倍以上となり、患者全体の6割以上は30代から50代の男性でした。
職業別では、会社員(1,472人)、医療関係者(62人)、保育士(16人)の順に多く、推定感染源として「職場」が報告されています。また、感染者の9割以上が、予防接種歴が「ない」あるいは「不明」と答えています。

【風疹とは】
 風疹は風疹ウイルスによって起きる感染症で、感染すると2〜3週間後に風邪症状が出現し、淡く赤い発疹・発熱・首の周りのリンパ節の腫れを呈するのが特徴です。咳やくしゃみ、会話で飛び散るしぶきや直接の接触でうつります。風疹は、1人の患者から5~7人程度に感染すると言われています。季節性インフルエンザが1~3人程度ですので、その感染力はとても強いと言えます。特別な治療法はなく、症状をやわらげるための対症療法のみです。予防接種が一番有効な対策となります

 

【先天性風疹症候群とは】
 風疹は妊娠20週頃までの妊婦がかかると、赤ちゃんの目や耳や心臓に障害が残る「先天性風疹症候群」をもたらす可能性があります。2012〜2013年の流行時には45人の赤ちゃんが診断され、このうち11人が生後1年ほどの間に亡くなっています。今回の流行でも2019年1月、埼玉県の医療機関で男の子1人が先天性風疹症候群と診断されました。

 

【なぜ30〜50代男性に流行?】
 1990年4月2日以降に生まれた人は2回、公費でワクチンを受ける機会がありましたが、1962年度から1989年度に生まれた女性および1979年度から1989年度に生まれた男性は受けていても1回です。1979年4月1日以前に生まれ、現在39歳から56歳までの男性は、1回も接種する機会がなく、十分な免疫を持たない人達が蓄積していたものと考えられています。なお、現在56歳以上の人は、予防接種は受けていなくても、多くの人が風疹にかかった経験をもつため、風疹ウイルスに対する抗体を持っていると言われています。

出典:厚生労働省追加的対策の概要より(1977年より日本で風疹ワクチンの定期接種が始まりましたが、当時は、将来妊娠の可能性がある女子中学生のみを対象としていました。その後1994年に予防接種法が改正となり、1995年4月から男女幼児と男女中学生が接種することになりました。学校での集団接種ではなく、医療機関での個別接種であったため、接種率は低かったようです。2006年より現在の予防接種制度となり、定期の予防接種が、1歳時と小学校に入る前の2回、無料で受けられるようになりました。)

 

【厚労省対策のポイント:事業所健診の際、風疹抗体検査の機会を提供】
 厚生労働省は昨年末、風疹対策として、1962年4月2日~1979年4月1日までに生まれた39~56歳の男性約1,610万人を対象に、3年間かけて原則無料で免疫の有無を確認する抗体検査を行い、抗体が十分でない場合には定期接種として風疹予防のワクチンを接種すると発表しました(期間は2022年3月まで)。
2019年2月1日付で、これまで風疹のワクチン接種を一度も受ける機会がなかった成人男性を対象に、定期接種制度が施行されました。この制度のポイントは、対象者に3年間原則無料で定期接種を実施すること、そして事業所健診の採血の際に風疹抗体検査の機会を提供することです。

仕組みは以下の通りです。

(1) 2019年4月以降、市区町村から抗体検査の受診券が送付されます。
※受検希望者が集中した場合、短期的な供給不足が生じる可能性があるため、初年度は1972年4月2日~1979年4月1日生まれの男性が対象です。この年代以外の男性でも市町村に希望すれば、受診券をもらえます。

(2) 対象者は事業所健診の機会に、受診券を医療機関・健診実施機関へ提出し、風疹抗体検査を受けます。
※事業所健診実施にあたり、事前に健康保険組合や医療機関・健診機関等と相談および連携を行うと運営がスムーズです。
会社負担はありません。費用は国民健康保険連合会が、健診機関と市町村間の費用請求と支払い事務を担当します。(自費で受けた場合、医療機関によって異なりますが、抗体検査は約2,500円、風疹ワクチンは約5,000円、麻疹・風疹ワクチン約10,000円かかります。)

(3) 抗体検査結果は、ご本人および市区町村に報告されます。
※労働安全衛生法上、風疹抗体検査は法定外項目です。

(4)抗体を持ち合わせていないという情報提供を受けた市区町村側は、対象者に対してワクチン接種を受けるよう勧奨します。対象者は、医療機関を受診し、予防接種を1回受けます。

 

【職場の対応】
働き盛りの男性を中心に流行している風疹。いま一度、職場での風疹対策を見直してみましょう。

(1)配慮が必要な従業員を、風疹感染から守りましょう
・風疹流行時は、抗体価が低い妊婦の対人業務や通勤混雑を避けたり、在宅勤務を考慮しましょう。
・妊娠を希望する人とその同居者に、妊娠前に風疹のワクチン接種を済ませておくよう周知しましょう。対象や期間は自治体によって異なりますが、多くの自治体で風疹抗体検査やワクチンの費用助成を行なっていることも情報提供しましょう。

 

(2)風疹に感染した従業員が、職場に来ないようにします
・発熱・発疹・リンパ節の腫れは、風疹を疑う症状。職場での流行を防ぐため、主治医意見に従い、発疹が消えるまで出勤を控えてもらいましょう。

 

(3)従業員のワクチン接種率を高く維持します
・風疹のワクチン接種の機会がなかった1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性に、2019年から3年間、公費による風疹の抗体検査やワクチン接種がはじまりました。職場の健診での風疹抗体検査を、医療機関や健診機関に依頼しましょう。
・そして従業員に、風疹のワクチン接種の機会を提供しましょう。風疹のワクチンは、インフルエンザと同時接種も可能です。
・入職時や海外渡航時に、ワクチン接種歴の確認や風疹抗体検査の機会を提供しましょう。

出典:筑波大学 堀愛先生「職場を風しんから守る3つの行動」より

 

【最後に】
風疹は予防接種で防げる感染症です。風疹予防には社会全体での組織だった取り組みが重要です。特に、職場での感染が最も多く、集団感染例も報告されたことから、企業における対策が求められています。
事業者の皆様もBCP(事業継続計画)の観点から労働者への健康への配慮、およびCSR(企業の社会的責任)の観点から、積極的な取り組み(予防接種を受けやすい環境づくり、情報提供など)にご協力をお願い致します。

<参考書籍>

[1] 厚生労働省 風しん・風しん追加的対策について
[2] NIID 国立感染症研究所 風疹急増に関する緊急情報(2019年)
[3] 感染症 予防接種ナビ ”風疹ゼロ”プロジェクト

この記事の講師

石井 里絵

<略歴>

東京医科大学卒業。東邦大学医療センターや都内の病院などでの臨床経験を経て、現在は都内クリニックにて内科診療、および、複数企業にて産業医活動に従事。

産業医/内科医/メンタルヘルス法務主任者

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