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ストレスチェックの結果から、組織対応をしていますか?

産業医
日下 慶子

ストレスチェック制度を定めた改正労働安全衛生法の施行からもうすぐ2年になり、職場のメンタルヘルスへの注目が集まる中、従業員支援プログラム(EAP)の導入や高ストレス者への面談などの様々な取り組みを耳にするようになりました。

一方で、「対策はしているのに、メンタル不調者が減らない」という人事労務担当者の悩みもよく耳にします。その理由の一つとして、個人へのアプローチはしているが、組織へのアプローチができていないということがあるのではないでしょうか。

 

そこで今回は、職場のメンタルヘルスに影響を与えるといわれる、「組織的公正」の概念をご紹介します。

 

<「組織的公正」とは>

分かりやすくいえば、「構成員が自分の組織を公正な組織だと考えているか」ということです。モチベーションなどの精神的健康度のみならず、心血管疾患やメンタルヘルス疾患とも関連があると言われています。いくつかの概念が含まれますが、「分配的公正」、「手続き的公正」、「相互作用的公正」の三つの要素が有名です。

難しい用語を並べてしまいましたが、架空のケースをもとに説明しましょう。

 

<ケース1:入社2年目のエンジニアのAさん>

 チーム内には、就業制限のある人や時短勤務の人がいるため、毎日残業を請け負って、重要なプロジェクトを成功に導いたAさん。「ボーナス弾むから」と言われて楽しみにしていましたが、支給されたボーナスは他のメンバーとあまり変わりがないようでした。「あんなに頑張ったのに。自分だってプライベートの時間を大事にしたいし、今度からできるだけ仕事は断ろう」と思ってしまいました。

 

 
Aさんの場合は、分配的公正の部分で、貢献度に対する報酬が不公平だと感じ、仕事へのモチベーションが低下しています。報酬に対する不公平感があると、次に成果を出すことを惜しむことにつながるとも言われています(アダムスの公平理論)。

報酬というのは、経済的なものだけでなく、仕事への評価や承認も含まれます。Aさんの場合にも、「Aさんのおかげでプロジェクトがうまくいった、ありがとう」というメンバーからの感謝や、「働きぶりを評価して、次は希望の案件を担当してもらう」など自己実現の機会につながれば、違ってくるでしょう。

 

<ケース2:若手看護師のBさん>

 急性期病棟に勤める看護師3年目のBさん、月に4回夜勤がある交代制勤務をしています。勤務表は師長が作成しており、一応希望は出せますが人手不足もありなかなか希望通りになりません。有給休暇の取得なんて、夢のまた夢です。ただ、理由はわかりませんが、希望通り休みが取れる人が数人いるようです。「師長と仲がいいと休みの希望が通るらしいよ」という噂もあります。先月はカゼで休んだ同僚に代わって出勤したのに、代わりの休みをもらえませんでした。職場の雰囲気はギスギスしており、ずっと一緒に働いてきた同期が退職すると聞いて、自分も転職を考えるようになりました。

 

 Bさんの職場では、勤務表作成や休暇取得を決定する手続きに関する「手続き的公正」の問題、師長が偏った対応をしているという「相互作用的公正」の問題がありそうです。「仕事は大変だけれど、みんなで平等に分担している」「師長は誠実で、部下に対する態度に差はない」と感じられれば、業務量の多さや責任の重い仕事の影響を和らげてくれるでしょう。


また、「Cさんは介護があって有給休暇を取ります」などと理由の説明があれば、結果への納得感も得られるかもしれません。あるいは、たとえ理由を説明することが難しくても、「師長の決めたことならば、不公平にみえることでも何か理由があるのだろう」と構成員が信頼を置く者の決定であれば、受け止め方も変わってきます。

 

 個別対応でメンタルヘルスの問題が解決しない場合、組織の中に「公正でない」と感じられる要因はないでしょうか。個別対応から職場対応へ、「組織的公正」の観点からの対策を考えてみましょう。

 

この記事の講師

日下 慶子


<略歴>

京都大学大学院医学研究科(公衆衛生学)博士課程在学中。国立がん研究センター中央病院にてがんサバイバーの研究に携わる。
日本貿易振興機構アジア経済研究所開発スクールを修了後、精神科研修を経て産業医の道へ。
現在、新日本有限責任監査法人、等の嘱託産業医を務める。興味分野は、外国人労働者や海外勤務者の健康管理、メンタルヘルスと法務、ボディワークによる心身のケア、など。

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