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本当に「こうあるべき」ですか?

産業医
大多和 威行

 

「頑張って仕事をしたのに評価が低かった。」というエピソードがあったとしましょう。ネガティブな出来事に遭遇した時には、嫌な気分になってしまうものです。ただ、人によってネガティブと感じる出来事の幅や、どの程度嫌な気分になるかは違っているものです。この時に、嫌な感情を強くさせてしまう要素として、「こうあるべき」と考えてしまう思考があります。

 「あれだけ仕事をしたのだから、もっと評価されるべきだ。」

 
こういった思考が強いと、自分の思い描く理想と現実のギャップを感じる場面が多くなり、嫌な気分を感じる程度も強くなってしまいます。当然、その感情から回復するのにかかる労力もより多くかかってしまうでしょう。

 この「こうあるべき」という思考は、その人の価値観からきていると思います。それでは、その人の価値観は他の方にとっても常に共感できるものでしょうか。十人十色という言葉があるように、人にはそれぞれ異なった価値観があり、ある人にとって常識であっても、別の人にとっては非常識だという例はいくらでもあるものです。もし、それが善意であっても、個人の価値観を振りかざしてしまったら、相手の理解は得られず摩擦が起きてしまうでしょう。

 

 私は、ブラジルの文化に関心があるのですが、「日本では朝礼の時に生徒全員が校長先生の方を向くが、ブラジルでは全員がそれぞれ違った方を向く。」という例え話があります。インヂオと5大陸からの移民による混血の文化を構成しているブラジルでは、皆を共通の認識でまとめるよりも、それぞれの個性を拾い上げて伸ばそうという気風があるそうです。多様な社会で協調して生きる上では、多様な価値観に寛容になる事が重要だと思います。

 アルバート・エリスのABC理論によると、何か出来事(Affair)があった時に、解釈(Belief)という要素を経て、気分や感情という結果(Consequence)に至るとされています。つまり、解釈を見直す事で、ストレスに対して感情をコントロール出来るかもしれないのです。

  ストレス社会といわれて久しいですが、ストレス自体は避けえないですし、適度なストレスは人生におけるスパイスのようなものといわれており、全くないというのも味気ないです。ストレスマネジメントの一つの手法として「べき思考」を改める事で、ストレスと上手く付き合ってみるのはいかがでしょうか?

<参考文献>

「こころが晴れるノート」大野裕 著
 「レジリエンス入門 折れない心のつくり方」内田和俊 著
 「アルバート・エリス 人と業績―論理療法の誕生とその展開 J.Yankura, W.Dryden 著
 「ブラジルを知るための55章」アンジェロ・イシ 著
 「リアル・ブラジル音楽」Willie Whopper 著

この記事の講師

大多和 威行


<略歴>

医学博士 産業医
昭和大学出身。産業医活動の中で、「充実した人生の一部に楽しい仕事がある。」と思えるような職場作りを展開中。担当企業は、大同特殊鋼株式会社、ヤフー株式会社など。 


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