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睡眠不足を考える

産業医
永田 英恵

 

 2016年もあっという間に12月となりました。日頃の業務に加え、挨拶回りや忘年会など予定がぎっしり、「連日の飲み会でちょっと寝不足…」なんて声が聞こえてきそうですね。そんな中、気になるのは「眠っているのに疲れが取れないんですよね」という声。産業医としてはあれれ、健康状態、大丈夫かなと心配になってしまいます。

 先日、平成27年に実施した厚生労働省の国民健康・栄養調査が発表されました。
1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は年々増加傾向にありその数は約4割にのぼること、睡眠時間が6時間未満約45%の方は「日中、眠気を感じた」経験があること、そして睡眠の妨げになっていることは男性では「仕事」、女性では「育児」「家事」であるという結果が出ました。

 皆さんの睡眠時間はいかがでしょうか。あ、自分のことだ…という方もいらっしゃるでしょう。仕事が原因となっての睡眠不足をどう改善していくのか、これは到底一筋縄ではいきません。しかし、生活に健康に大きく影響してくることは皆さんもうすでに感じていらっしゃるのではないかと思います。今回はそんな「睡眠不足の基本のキ」をお話します。

 

■ 睡眠不足の症状
 睡眠不足の症状は眠気、倦怠感、イライラ、注意力低下、やる気の低下、無気力などがあります。慢性的に睡眠不足でいると眠気はプラトーに達し、眠気はあまり感じなくなりますが、今度は抑制力、判断力、思考スピードなど機能が低下する形で現れてきます。

■蓄積された睡眠不足、またの名を「睡眠負債」
 こうして蓄積されてきた睡眠不足は睡眠負債と呼ばれます。ちょっとギョっとするような表現ですが、負債というからにはいつか返済しないと状態は悪化していきます。例えば8時間睡眠が最適な方が毎日6時間睡眠をしていた場合、毎日2時間の睡眠負債が溜まっていくこととなります。

睡眠負債は重い荷物のようなものをイメージしてみてください。十分に力があるときは平気で持つことが出来る荷物です。しかし外からの刺激や興奮、激しい運動によって、眠気やだるさは完全に消えることがあるため、この睡眠負債がどれくらいの重さなのか正確に知ることは難しく、体力がないときやつまずいたときには重みに絶えきれず押しつぶされてしまう、といったことも出てきてしまうのです。

■睡眠負債を返すには
 睡眠負債の重さを測ることは難しいけれど、明らかに上に挙げた症状が出ているときは…「睡眠をとる!」に尽きます。言うのも憚られるくらい明確な治療法ですが睡眠は社会生活と切っても切れないところにあるため実行に移すのが難しいですよね。


また睡眠は主観と客観が食い違うことが多いと言われています。自分では「よく眠れた!」と思っていても実はしっかり眠れていなかったり…まずは自分の睡眠の特長を知るところから始めることをオススメします。睡眠ログを取るのもいいですし、最近では睡眠を「見える化」してくれるアプリも出ています。ご自身の睡眠を継続して見ていくことで睡眠の特長が、そして課題が見えてきます。

■睡眠の質を良くする
 睡眠の特長・課題が見えてきたら、次はどう改善するか。睡眠での改善点は人それぞれですが、日常生活のちょっとした工夫で睡眠の質を良くするコツを今回は2つご紹介します。

① 光:強い光には覚醒作用があるため、起きた直後には積極的に浴びる、逆に寝る前には浴びないようするということが大切です。遅い時間帯の帰り道に光量の多いコンビニエンスストアには極力入らないこと、寝る直前までのスマホやパソコンの使用は避けることなどがより質のいい睡眠に繋がります。


② 食事:食べ物の中には睡眠ホルモン「メラトニン」に体内で変化する物質を含むものがあります。それは「トリプトファン」という物質で納豆やバナナなどに多く含まれています。「トリプトファン」は日中に光を浴びることで「セロトニン」に、「セロトニン」は夜になると「メラトニン」に変化していきますので、トリプトファンを多く含むものを朝食に摂取すると良いでしょう。また日光をたくさん浴びることも大事ですね。

一方で、覚醒作用のある、アルコールやカフェインを寝る前に摂取するのはよくありません。特に深酒や寝酒は眠りやすくなりますが、寝ている途中で覚醒作用が起こり、眠りの質を低下させてしまうのでなるべく避けるようにしましょう。

仕事、プライベート、たくさんのことに取り組めるようになった今、睡眠時間は2の次、3の次になりがちです。なんとこの100年間で私たちの睡眠は2割も減ってしまったといいます。眠たい、疲れやすいなど普段気にしていなかった身体の不調に耳を傾け、この機会に一度ご自身の睡眠を振り返ってみてはいかがでしょうか。

<参考文献>

平成27年「国民健康・栄養調査」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000142359.html
ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか? ウィリアム・C・デメント著極論で語る睡眠医学 河合真著

この記事の講師

永田 英恵


<略歴>

内科医、産業医
広島大学出身、武蔵野赤十字病院、練馬光が丘病院で研修。久米島での医療に携わったのち、「はたらく」「健康」「しあわせ」をキーワードに産業医活動を展開している

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