平野井労働衛生コンサルタント事務所
平野井 啓一
皆さんは健康診断で血圧を測定されているかと思います。測定後、二つの数字が表示されます。高いと係りの人から「○○さん、深呼吸をしてもう1回測ってみましょう(^O^)」と言われ、再度測って苦笑い、などという場面が健診会場で見られます。
高い数字であれば、何となく体に悪い気がしますよね。しかしその数値がもつ本当の意味を理解されている方は多くいません。また労働衛生の立場から就労との関連について意識されている方はほとんど皆無だと思います。筆者も過去に「血圧が高いから残業しちゃいけないってどういう事ですか!?」と詰め寄られたこともあります(笑)。本稿では血圧の数値及び就労との関係についてお話したいと思います。
<血圧の上と下とは?>
二つの数字は一般的に「血圧の上と下」と呼ばれています。なぜ二つ表示されるのでしょうか?これは心臓の動きと関係しています。心臓は血液のポンプの働きをして、常に伸び縮みを繰り返しながら全身に血液を送っています。
心臓が最大に縮んで血液を送り出すと、血管はパンパンになり、血圧が一番高くなります。逆に心臓が最大に膨らんだときは、全身の血管から血液が心臓に引き戻され、血管はややゆったりした状態になり、血圧は一番低くなります。それぞれを血圧の上と下と呼んでいます。
<血圧の単位>
血圧は血液の圧力によって血管の壁が押される力を表します。その単位は「mmHg」と表示されます。mmとはミリメール、Hgは元素記号で水銀を表します。つまり「mmHg」とは「水銀を○○mm持ち上げることができる力」を表しています。ここで看護師さんが血圧を手動で測定する際に使っている器具を思い浮かべてみましょう。
腕に布を巻いて聴診器を挟み、手元のポンプで空気を入れて腕を圧迫し、その後空気を抜いて徐々に緩めていきます。そのとき器具の中にある水銀柱の高さを確認します。その水銀柱の高さがその人の血圧です。例えば血圧が126/72mmHgであれば水銀をそれぞれ126mm、72mm持ち上げることができる力を表してします。その力が血管の壁にかかっているということになります。
<冤罪を生まないために…>
血圧が140/90mmHg以上になると高血圧と診断されます。誤解の無いように補足しますが、この値を超えたら即診断→治療ではありません。健診の際、高度に緊張して血圧が高くなってしまう方がいらっしゃいます(白衣高血圧と言います)。
このように一時的に高くなった方はまず深呼吸、リラックスしていただき、その後再検します。それでも高い場合は自宅で測定してもらいます。その値が正常値であれば特に問題ありません。血管はゴムのように弾性があり、一時的な圧の上昇は受け流すことができます。
<高血圧のリスク>
しかし常時140/90mmHg以上の圧が血管にかかり続けることは良いことではありません。何となくイメージしづらいですね。そこで水で考えてみましょう。水銀は水の13.6倍の濃度です。血圧180mmHgを換算すると水を2m45cm持ち上げる力になります。体中に血液を送るのにこんな圧力は必要ないですよね。血管はゴムのホースのようなものです。強い圧をかかり続けるという事は、ゴムをずっと伸ばし続けるようなものです。
もし太めのゴムを何かに引っ掛けて伸ばし続けたら、ゴムは固くなり、毛羽立ち、わずかな力を加えるだけで容易にちぎれてしまうでしょう。同様に血管も圧がかかり続けると硬くなり(動脈硬化が進行し)、壁の内側が傷つき、徐々に狭くなります。またちぎれやすくもなります。心臓の血管が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞が発症します。脳の血管が詰まると脳梗塞、ちぎれると脳出血、クモ膜下出血が発症します。
<労働衛生と高血圧>
今挙げた病気は全て労災の対象疾患です。企業はリスクが高い社員に対して、就労が発症の後押しにならないように、動脈硬化を進行させるような負荷を避ける義務があります。はじめにお話した残業禁止というのは、リスクがある社員に対し行わなければならない措置になります。実際に健診の血圧測定結果でひっかかった社員の方に対しては次のステップで進めます。
①現在血圧の薬を飲んでいるか、確認する。
②(治療中でなければ)1か月間自宅での血圧記録を指示。(冤罪を防ぐため)
③(自宅でも高血圧であれば)会社は就労制限を検討、本人には受診を勧める。
高血圧は自覚症状がほとんどなく、治療および就労制限の必要性がなかなか理解できない人もいます。しかし今回ご説明したように大きなリスクが内在し、発症すると本人、企業共に不幸になります。労使共に必要性を理解し、労災発生の防止に努めていただきたいと思います。
平野井 啓一
<略歴>