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春は睡眠の季節?

産業医
藤井 紀男

春眠暁を覚えず

春は寝心地がいいので寝坊してしまいがち、といったニュアンスで使われますが、ちょっと違う解釈もできるようです(後ほど申し上げます)。
春間近。今回は、睡眠の話題です。

 

■適切な睡眠時間とは?
OECDが2009年に実施した調査によると、1日の平均睡眠時間、日本は7時間50分で一番長いフランスより1時間短く、18カ国中2番目に短いという結果です。しかし、「案外長い」と思われた方もおられるかもしれません。睡眠時間はかなり個人差があるようで、「5時間でも大丈夫」という方もいれば「8時間以上眠らないと」という方もいます。睡眠時間については、画一的に「何時間が良い」とか「長い方が良い」とは言いきれないようです。

また、長時間労働者の面接指導における「月100時間」という数字、睡眠時間が1日5時間を下回ると脳・心臓疾患の発症リスクが増大するというデータを踏まえ、一般的な生活で1日5時間の睡眠時間を確保するには、残業を5時間以上すると難しい。
従って1ヶ月あたり(5時間/日×20営業日/月=)100時間を超える残業をした従業員は面接指導の対象としましょう、という趣旨のようです。しかし、通勤時間が非常に長い方や、仕事と併せて育児や介護などの役割を担っている方も少なからずおられます。残業時間だけで睡眠時間を云々することはできません。
睡眠時間の過不足は、個人の状況に基づいて判断することが必要となります。

■睡眠がうまくとれない
厚生労働省の調査で、睡眠に悩みをもつ方は5人に1人というデータがあります。「睡眠がうまくとれない」という方のお話を聞いてみると、主に4つのパターンがあるように思います。

 1.忙しくて物理的に睡眠時間が確保できない
 2.就寝、起床の時間が乱れ、睡眠リズムが不規則
 3.眠れる状況があっても眠ることができない(入眠困難、中途覚醒など)
 4.十分な睡眠時間を確保しても熟眠感がない

このうち、3では不眠症4では無呼吸症候群なども疑われますので早めに専門医を受診するようお勧めをしていますが、1の場合は、業務の山場を乗り越えるなど睡眠時間が確保できるようになるまで、なんとか体調を維持しながら乗り切っていただく支援が主になります。


最近、2の睡眠リズムが不規則な方と面談することが多い気がします。もっと早く眠ることができるのに、ゲームやテレビ等に没頭して夜更かしをしてしまう、というケース。「何故かすっきりと起きられない、昼間眠くて仕方がない」とおっしゃいます。そこで1~2週間、就寝・起床時間を自己記録していただくと、やっと睡眠時間の短さを自覚されたりします。「帰宅後は気分転換の時間が欲しい」という気持ちもわかります。ですが、「負債」は返済できても「貯蓄」できないのが睡眠。もともと体内時計が地球の自転周期と解離していて、身体の求める就寝・起床時間が後ろへ後ろへとズレてしまいがちの方もいます。
まずは、ご自身の睡眠の状況と大切さを認識していただくことが重要です。



■ストレスチェックと睡眠

睡眠については研究途上のことも多いのですが、レム睡眠は「脳のメンテナンス」、ノンレム睡眠は「身体のメンテナンス」に重要な眠りであると理解しています。また、睡眠不足の状態が続くと、ホルモン分泌や自律神経、免疫機能の不調を来たす要因になることも明らかになっており、生活習慣病のコントロールがうまくいかない要因には睡眠がうまくとれていない場合がある、睡眠不足の時は風邪を引きやすい、などと言われることにも一定の根拠があります。

健康の維持において、「睡眠」は「食事」や「運動」と同じくらい、いや、それ以上に重要な要素と言えるかも知れません。
この度、「ストレスチェック」が本格的に開始されます。私の担当する事業所でも試行的に実施していますが、高ストレス者として面談対象とした方における「睡眠の問題」を抱える方の割合は、予想以上に高いような印象を受けます。
ストレスチェックは、メンタルヘルスの観点からのみでなく、心身の健康維持・増進の観点からも、「睡眠」について従業員の皆さんと会話する大切な機会にもなるのではないかと思っています。



■朝日を浴びる生活

私たちの体は、朝の強い光を浴びることで、脳内の体内時計がリセットされて地球の自転周期との時差修正がなされるとともに、その14-16時間後に睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が増すようにその日の夜眠る準備が開始されると言われます。

「暁を覚えず」のもう一つの解釈は、春は日の出が早くなるので、(起床時間は変わらなくても)目覚めた時には既に明るくなっていた、というもの。これからは、起床したらすぐに朝日を浴びることができる季節の到来です!
この季節、特に朝に弱い方たちは、ご自分の睡眠を再度意識し、睡眠リズムを整えてみる機会にしていただいてはいかがでしょうか。

この記事の講師

藤井 紀男

藤井 紀男

1987年 広島大学医学部医学科を卒業後、
    大阪大学医学部附属病院、他で救急医療に従事、
その後、厚生労働省、地方自治体、他で行政官として勤務
2011年~(株)日立製作所の常勤産業医

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