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ダニに刺されると牛肉アレルギーになる!?

平野井労働衛生コンサルタント事務所代表
平野井 啓一

 

題名を聞いてびっくりされた方もいらっしゃるかもしれません。私も初めて聞いたときとても驚きました。ダニと牛肉って関係あるのでしょうか? 今日はその理由と近年大きく報道されたある事故を通し、労働衛生と食物アレルギーについて考えてみたいと思います。

 

<二重アレルゲンばく露仮説>
みなさんはある食物をたくさん摂取することで食物アレルギーになると思っていませんか?私もそうでした。ところが近年、「二重アレルゲンばく露仮説」という説が脚光を浴びるようになってきました。
これは簡単に言うと、「粘膜または怪我や火傷、湿疹などで弱った皮膚から原因となる物質が入ると、アレルギーが形成される。適切な量とタイミングで口から入った食物は、むしろアレルギーになりにくい体質を形成する」という説です。2008年イギリスのLackによって提唱されました。

<マダニと牛肉>
マダニに刺されると唾液腺の成分が皮膚に入ります。この中にα-galという糖鎖が含まれており、刺され続けるとアレルギーが形成されることがあります。α-galは牛肉、豚肉、カレイの魚卵にも多く含まれます。よってそれらの食物に対するアレルギーも形成されることになり、もしかすると牛肉、豚肉を食べることができない生活を送ることになる可能性があるのです。
ベジタリアンや宗教上の理由などで食べられない人を除くと、かなり辛い食生活になってしまうのです。

<茶のしずく石鹸事件>
最近国内でこの二重ばく露仮説を裏付ける事件が起きました。記憶にまだ新しい方もいらっしゃるかと思いますが、茶のしずく石鹸事件です。

2005年から2010年に延べ約467万人に対して販売された「茶のしずく石鹸」。毎日この石鹸で洗顔していた人が、ある日パンや麺を食べたら顔や目の周りにアレルギー反応が起きた、という事件です。当初は石鹸の使用と(パン、麺の主成分である)小麦アレルギーには因果関係はないものと考えられました。しかしその後以下の事が分かりました。

① 石鹸の成分に加水分解小麦(人工の小麦)が含まれていた。
② 毎日洗顔することで、石鹸の成分が結膜粘膜より少しずつ吸収されていた。

これらの事実をもとに検証が行われ、発症との因果関係が明らかになりました。その結果メーカーは商品を自主回収、原因となった加水分解小麦(グルパール19S)は使用中止となりました。

<労働衛生と食物アレルギー>
仕事中にマダニに刺される可能性のあるのは、農業や酪農、林業、一部の観光業など屋外で作業する職種に限られます。しかし食品加工工場や外食産業の現場においては微小な切り傷、火傷などは日常茶飯事です。しかも発生するのは大体忙しい時間帯であり、十分な洗浄、創部の保護ができないままに作業を継続していることが多々あります。つまり皮膚のバリア機能が低下している状態で食品に触れ、アレルギーが形成される可能性があります。

労働衛生に携わる立場としては、創部の感染防止だけではなく、アレルギーの形成に関しても注意喚起し、創部の保護の重要性について考えてもらえるようにお話していく必要があると思います。

<終わりに>
家庭で調理をしているときに手を切ったり、火傷してしまうことがあると思います。そのときは(つばをつけて終わりにするのではなく)洗浄し、きちんと創部を保護しましょう。
レジャーで山林に行かれる時はマダニに刺されないよう、あまり肌を露出しないようにしましょう。また外に行かなくても屋外でペットを飼っている方は、マダニを連れてきている可能性があるので、注意してください。

牛肉が大好きな産業医からの注意喚起でした!

 

<参考文献>
日本皮膚科学会雑誌 第123巻 第9号 牛肉アレルギー患者20例の臨床的および血清学的解析
皮膚科専門医の日常診療情報誌 ひ~ふ~み~ 第14号 経皮感作による食物アレルギー

この記事の講師

平野井先生

平野井 啓一

平成16年:秋田大学医学部医学科卒業後、宮城厚生協会
     坂総合病院で初期研修終了

現 在 :東京警察病院にて初期臨床研修を修了、
     東京医科大学病院にて研修,
     西友、日本マクドナルド、ロフト等嘱託産業医

㈱メディカル・マジック・ジャパン代表取締役、
マジシャン
楽しい労働衛生活動をモットーにマジック等笑いも取り入れた産業医活動を実践している。

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