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重症糖尿病の従業員は残業禁止!?

産業医
平野井 啓一

 この題名を聞いてピンときた方は、労働衛生に関する労務管理においてかなり高いレベルにあると思われます。

 残業と病気って関係あるのですか?という感想をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。残業することはあまり良くないな~、もしくは、しないに越したことはない、という感覚はみなさんお持ちだと思いますが、なぜ?と聞かれると、明確な回答をするのは難しいのではないでしょうか?

 昨年施行された第十二次労働災害防止計画の中で、過重労働対策が重点項目の一つに入りました。これの意味することは、国は企業に対し、残業時間を減らし、残業による労災を減らす活動を5年間推進してくださいね、ということになります。
 残業を全くしないとそれに伴う労災は起きません。しかし、現実にゼロにできる会社はなかなかないでしょう。そのような現状の中で、リスクの優先順位を付けた対応が求められています。

 今回は表題についてその根拠を紐解きながら、過重労働のリスク管理について考えてみたいと思います。

 

① 安全配慮義務

 労働契約法第5条では、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とあります。つまり雇う側は、働く人が(仕事が原因で)病気にならないように配慮する義務があるということです。
 「社員の健康管理まで会社がしなければいけなのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、会社に求められる責任は年々大きくなってきており、これを怠ったために労働者本人又はその遺族等から、高額の損害賠償金を請求されるケースもあります。特に過労死等では、億単位の賠償金の支払いを命ぜられた判決(電通事件の1審判決では1億2000万円の賠償額)もあり、リスク管理上真剣に取り組まなければ企業存続に関わる問題であると言えます。

② 過重労働と過労死

 労働安全衛生法同規則には、一定の残業をすると医師等の面談をさせなければならないと定められています。その基準は「1か月間の時間外・休日労働時間が100時間超」(義務)、1か月間の時間外・休日労働時間が80時間超」(努力義務)とされています。言い換えれば、このくらい働かせると、過労死の対象疾患(脳血管・心疾患、メンタル疾患)が発症しやすくなりますよ、ということになります。
 ではなぜ残業するとこのような病気が起きてくるのでしょうか?脳血管・心疾患に関しては、動脈硬化(血管が硬くなることにより、詰まりやすく、破けやすくなる)の進行がその原因として考えられています。残業すると動脈硬化が進行する?はい、そうなのです。
 「長時間の時間外労働」≒「睡眠時間の減少」⇒「動脈硬化の進行」というメカニズムで進行するのです。このくらい残業をしている人の睡眠時間は大よそ4~5時間くらいと考えられます。疫学研究では、勤務日の睡眠時間が1日5時間以下では、6~8時間に比べて心筋梗塞の発症リスクが2.5倍になるというデータもあります。つまり労務時間管理と病気の発症は切っても切れない関係にあるということになります。

③ 糖尿病

 世間一般では病名のメジャー度とは裏腹に、その病態および危険性についてはあまり理解されていないのが現状です。名前から「おしっこが甘くなるおじさんの病気」と思われている方も少なくありません。しかし、糖尿病の本当の怖さは「動脈硬化の進行」および「神経障害」にあります。多種多様な病気を併発しますが、今回のテーマに限定すると、「重症糖尿病」を放置すると「動脈硬化を進行」させるので、「脳血管・心疾患が発症しやすくなる」ということになり、大きなリスクであることを意味しています。

④ まとめ

 長時間労働と糖尿病は、どちらも動脈硬化を進行させるリスクファクターとなります。そして、労務時間管理及び健康診断結果から、会社はその双方に気づくことができる立場にあります。「個人の健診結果なんて一人一人把握していないですよ」と思う方もいるかもしれません。しかし、健診結果は個人情報という性質を持ちつつも、安全配慮義務履行のためには、会社はその情報をもとに配慮しなければならないという側面もあります。つまり、健診で重症糖尿病という結果がでた段階で、動脈硬化を更に助長させる時間外労働は極力避けるように配慮しなければならない義務が会社には発生している、ということになります。
 今回は糖尿病に重点を置きましたが、そのほか動脈硬化を進行させるリスクとなるものに、高血圧や高脂血症、メタボ、加齢、喫煙などがあり、その人その人のリスクを評価しながら労務管理をする必要性があります。
 このような医療的な情報と労務条件をすり合わせる際に、手助けをするのが我々産業医、並びに保健師等産業保健スタッフです。健診の結果からリスクの大きさを評価し、専門的な知識と経験から適切な助言をするのが仕事です。
 安全配慮義務履行の観点から、産業医等産業保健スタッフをよりよく活用し、病気にならず、元気に働くことができる環境作りを推進していきましょう!

この記事の講師

平野井先生

平野井 啓一

平成16年:秋田大学医学部医学科卒業後、宮城厚生協会
     坂総合病院で初期研修終了

現 在 :東京警察病院にて初期臨床研修を修了、
     東京医科大学病院にて研修,
     西友、日本マクドナルド、ロフト等嘱託産業医

㈱メディカル・マジック・ジャパン代表取締役、
マジシャン
楽しい労働衛生活動をモットーにマジック等笑いも取り入れた産業医活動を実践している。

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