産業医科大学 産業衛生教授
浜口 伝博
新年おめでとうございます!
年も明け、気分一新でハツラツとお仕事に向かわれていることと思います。ハツラツとした気分は自然と体調を整えますし、食事睡眠にも注意がとどきますので、健康的な「気分」は、結果として「健康を実現する」ことになります。
さて、実はこれまでにも、気分やその人の性格、または考え方と病気発生の関係については研究がされてきています。まずは有名な定説を紹介しますと、性格・行動パターンが、攻撃的、挑戦的で、せっかち、時間にゆとりがない、責任感が強い、という性格傾向の人ほど心筋梗塞等の心血管疾患が多いという報告があります。このような性格・行動パターンを「タイプA」と定義しているのですが、かたやその反対性格の、慎重でのんびり屋、マイペースの人を「タイプB」と定義して、この対照的な両者間での病気発生の違いがよく研究されています。
たとえば、カリフォルニアの10企業、3,154名の健康男性を8.5年間追跡した研究では、心疾患発症頻度が「タイプA」では「タイプB」に比較して2.37倍高いことが報告されています。また別の調査である米国フラミンガム地域での調査では、4年、8年、10年の追跡を通して、心筋梗塞や狭心症の発症頻度が、「タイプA」男性では1.4~1.8倍、「タイプA」女性では2.0~3.0倍になることがわかっています。「タイプA」の気質はあまり健康には好ましくない気質のようです。
一方でこんな研究もあります。「人生に明るい展望を持っている人ほど心臓病になりにくい」との調査結果を、2010年2月に米ニューヨーク心臓血管行動保健センターらの研究チームが発表しました。
彼らはカナダのノバスコシア州の男女1,739人を対象にして、抑うつ、攻撃性、不安感などの「悪い感情」と、喜びや幸福感、情熱、満足感などの「良い感情」をそれぞれ5段階に分けて点数化し、感情の動きと心臓の健康状態とを10年以上にわたって調査したところ、「良い感情」が1ポイント高くなるごとに、心臓病になるリスクが22%減少することを報告しています。
研究者らの解釈は、良い感情の人はリラックスしてしっかり休息をとることができるためストレスからの回復が早いのではないか、とのことですが、「良い感情」をもつことが、結局のところ、心血管疾患リスクを下げるという事実になるわけですから、我々としてはこの法則を応用しない手はありません。脳科学的にみても、「良い感情」はストレスが少ないという状態ですから、自律神経が安定し(心拍数の安定化など)体中のステロイド分泌も少なくなっている状態です。ステロイドが少ないと、白血球の機能低下を起こしませんので、少ないということは白血球の免疫力を適正に保つということになります。白血球の除菌能力が適正に保てますと、バイ菌や細菌を寄せつけませんから、風邪を引きにくくなります。つまり、「明るい展望」や「喜びや幸福感」は、免疫系を適正に保ち、病気になりにくい体質をつくることになるのです。ですから、冒頭の「ハツラツ」感というのも健康にとってもいいことがおわかりいただけると思います。「健康」は心が決める!という側面が実際にあることをご理解ください。
以上から言えることは、健康的に生きるには、「タイプA」のように焦ってアクセク追われるような生活をするのではなく、メリハリをつけて、もっと陽性感情である「明るい展望」や「喜びや幸福感」をもつように心がけることが事実として重要だということです。健康維持ができるとともに、そもそもリラックス感や幸福感が満載なのですから、どうしたって幸せな人生につながるはずです。
さらに、「主観的に幸福な人は、そうでない人に比べて、病気が少なく、寿命が長く、収入が多い」ということがわかっていますし、「幸福になれば、人は生産的で、行動的で、健康で、友好的で、創造的になる」ということもわかっていますので、人生の充実感もますます高まることになります。これは全人類に共通するほとんど「法則」とも言えることではないかと思います。それに幸福感というものは、家族や友人に伝播しますので、あなたの影響はあなただけの幸福にとどまりません。周囲を巻き込んで、家族友人ともども健康と幸せになっていくということです。なんとすばらしいことでしょう。
今年の気分の一新を是非持続して、皆さんのすてきな1年となりますよう心より祈っています。
浜口 伝博
産業医科大学 産業衛生教授
(ファームアンドブレイン有限会社 代表取締役社長)
産業医科大学医学部卒。(株)東芝、日本IBM(株)にて専属産業医を勤める。現在、ファームアンドブレイン社を立ち上げ、産業医・産業保健コンサルティングを展開。慶應義塾大学医学部講師 (非常勤)、愛媛大学医学部講師(非常勤)を兼任。
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