産業医
佐々木 一彦
今回はコラムの執筆の機会を賜り、誠にありがとうございます。私は精神科医として日々診療を行いながら、嘱託産業医として、企業に携わらせていただいております。
今回は、私の専門である精神科領域でのお話をさせていただきます。最近企業でも問題になりやすく、相談されることも増えてきた事例として、「アスペルガー症候群など自閉症スペクトラム障害(ASD)」や「新型うつ」があるかと思います。その中から、今回はASDについてお話しいたします。
ASDとは対人コミュニケーションの質的障害を中核症状とする発達障害です。対人コミュニケーションの障害は、知的発達が正常範囲にある高機能ASD成人でも克服は困難であり、しばしば、企業において不適応を起こすことが多く、今後も対応は不可欠になっていくものと思われます。
ASDの方の特徴としては、
1.社会性の問題
2.コミュニケーションの問題
3.想像性の障害
4.感覚過敏
5.突然の記憶想起
このような特徴があっても、専門技能を生かせる業務や他者とのコミュニケーションをそれほど必要としない職場の場合は、問題が顕在化しないことも多いですが、昨今の企業においては、1人に多様な業務を任せ、他人と協力しながら進められる人材、コミュニケーション能力の高い人材を求める傾向が強くなってきています。
そのため、複雑で並行して行なわなければならない業務を求められたり、部下を持ち、管理業務に就いたり、人事異動で不慣れな職場へ異動したり、理解の乏しい上司の下に就いたりした場合に、不適応を起こし、休職してしまうことがあります。親を呼んで発達歴を聞くという機会がまずない、産業分野において発達障害の診断は困難と言わざるを得ず、また精神科を受診しても、会社内の客観的な事実が本人から告げられることは少ないため、「うつ病」や「適応障害」といった診断が下されることが多く、一度休職に入って病状が改善したとしても、復職後にすぐに病状が再燃し、休職と復職を繰り返してしまうことになり、企業としても対応に苦慮してしまうことになります。
しかし、発達障害の診断や告知にはデメリットもあり、疑いがある人を全て受診させるのも現実的ではなく、まずは彼らが不適応に陥らないよう、その特性を理解し環境を整え、適切な業務を提供していくことが重要だと考えられます。
具体的な対応方法としては、
といったものが挙げられます。対応に苦慮している従業員の方は、まず産業医などの産業保健スタッフに相談していただき、適応できる環境を、一緒に作っていくことができれば、企業に関わる産業保健スタッフとしても幸甚です。
佐々木 一彦
2005年 | 秋田大学医学部 卒業後、坂総合病院にて研修 | |
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現在 | JX日鉱日石金属株式会社、西友、 他 嘱託産業医 |
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