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産業医とメンタルヘルス

産業医
佐々木 一彦

今回はコラムの執筆の機会を賜り、誠にありがとうございます。私は精神科医として日々診療を行いながら、嘱託産業医として、企業に携わらせていただいております。

 今回は、私の専門である精神科領域でのお話をさせていただきます。最近企業でも問題になりやすく、相談されることも増えてきた事例として、「アスペルガー症候群など自閉症スペクトラム障害(ASD)」や「新型うつ」があるかと思います。その中から、今回はASDについてお話しいたします。

 ASDとは対人コミュニケーションの質的障害を中核症状とする発達障害です。対人コミュニケーションの障害は、知的発達が正常範囲にある高機能ASD成人でも克服は困難であり、しばしば、企業において不適応を起こすことが多く、今後も対応は不可欠になっていくものと思われます。
ASDの方の特徴としては、

1.社会性の問題

  • 常識に乏しく、社会通念や他人の感情に配慮することができず、困った行動をしてしまう。

2.コミュニケーションの問題

  • 話し方が回りくどい。場にそぐわないほどの丁寧語を使う。
  • 相手の言葉の行間を読み取ることができず、そのまま受け取ってしまう。
    例えば、電話対応で「Aさんはいらっしゃいますでしょうか?」との質問に、「はい、います。」で終わってしまう、背後にある「代わってほしい」という意味がとらえられないということがあります。

3.想像性の障害

  • いつも決まった手順や構造に過度にこだわり予定が変わることを嫌がる。
  • 相手の都合でキャンセルになると、過度に怒り、文句を言うなど。

4.感覚過敏

  • 空調の音や気温の変化に敏感で、閾値を超えると作業ができない

5.突然の記憶想起

  • 他の人がとっくに忘れてしまっているような出来事を昨日のことのように覚えていたり、
    突然スイッチが入ったように、昔のことで怒り出したりする。

 
このような特徴があっても、専門技能を生かせる業務や他者とのコミュニケーションをそれほど必要としない職場の場合は、問題が顕在化しないことも多いですが、昨今の企業においては、1人に多様な業務を任せ、他人と協力しながら進められる人材、コミュニケーション能力の高い人材を求める傾向が強くなってきています。
 そのため、複雑で並行して行なわなければならない業務を求められたり、部下を持ち、管理業務に就いたり、人事異動で不慣れな職場へ異動したり、理解の乏しい上司の下に就いたりした場合に、不適応を起こし、休職してしまうことがあります。親を呼んで発達歴を聞くという機会がまずない、産業分野において発達障害の診断は困難と言わざるを得ず、また精神科を受診しても、会社内の客観的な事実が本人から告げられることは少ないため、「うつ病」や「適応障害」といった診断が下されることが多く、一度休職に入って病状が改善したとしても、復職後にすぐに病状が再燃し、休職と復職を繰り返してしまうことになり、企業としても対応に苦慮してしまうことになります。

 しかし、発達障害の診断や告知にはデメリットもあり、疑いがある人を全て受診させるのも現実的ではなく、まずは彼らが不適応に陥らないよう、その特性を理解し環境を整え、適切な業務を提供していくことが重要だと考えられます。

具体的な対応方法としては、

  • 1.障害を理解する
  • 2.複雑な対人スキルを要する職務は避ける
  • 3.仕事の指示はあいまいにせず、具体的におこなう
  • 4.突然の予定変更をしない
  • 5.本人の言動に対して感情的にならず冷静に対応する
  • 6.本人の特異な分野を伸ばす
  • 7.不安や問題が生じた際は、職場のみで抱え込まず産業医や保健師等の
    産業保健スタッフや人事担当者、主治医、家族と連携して対応する

といったものが挙げられます。対応に苦慮している従業員の方は、まず産業医などの産業保健スタッフに相談していただき、適応できる環境を、一緒に作っていくことができれば、企業に関わる産業保健スタッフとしても幸甚です。

この記事の講師

佐々木 一彦

佐々木 一彦

2005年 秋田大学医学部 卒業後、坂総合病院にて研修  
現在 JX日鉱日石金属株式会社、西友、
他 嘱託産業医

精神科医として働く傍ら、産業医活動も精力的に取り組んでいる。
臨床と産業医、両サイドからの経験を生かし、復職への支援、アドバイスを行っている。

 

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