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私のマルチ産業医ライフ 『伝える力』の重要性とは

Gift Hands 代表
三宅 琢

私は、健康学習を得意とする産業医、視覚障害者ケアを専門とする眼科医、Apple製品を利用した障害者ケアのコンサルタント、という三つの専門性を持ったマルチ産業医です。方向性の異なる三つの業種を専門としている理由は、現代の産業保健に求められる『伝える力』に深く関係があります。ここでは産業保健におけるメンタルヘルスケアの重要性とマルチ産業医としての私の人生を少しだけ紹介させて頂きます。

 現代の産業保健分野が抱える重要課題のひとつは、メンタル不調者の増加にともなうメンタルヘルス対策です。働く人のメンタル不調の多くは、職場における人間関係や就業内容に順応できない等の人と仕事の不適切配置から引き起こされます。そのため産業保健スタッフには労働者のコミュケーション力を向上させるための支援と、労働者各人のコミュニケーション力に応じた適正配置に関するコンサルテーション能力が求められます。私がコンサルテーションを行う上で重要と考えるキーワードは『メンタルウェルネス』です。

 

■1. 二つのメンタルヘルス
 メンタルヘルスという言葉には二つの側面があり、臨床医療におけるメンタルヘルスはいわばメンタルイルネス(精神疾病)を専門的に扱う分野ですが、産業保健におけるメンタルヘルス問題の解決にはメンタルウェルネス(精神的な健康)を専門的に扱うスキルが求められています。世界保健機関は健康を『身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない』と定義しており、メンタルウェルネスを同様に解釈すると単にメンタル不調がないという事ではなく、毎日を生き生きと仕事にやりがいと誇りを持って生きる事と言えます。メンタルウェルネスを維持して働けるように職場環境を調整し支援するのが、われわれ産業保健スタッフの使命であり、メンタル不調の出現に対する最大の予防となります。

 

■2. 今の時代に求められるコミュケーション力
 ここ数年、多くの企業が社員評価で最も重要視するのはコミュケーション力だと言われています。それはメンタル不調者の増加や企業活力の低下には、社員間や社員と顧客との間でコミュケーション力の低下が大きく影響していると認識されるようになったためです。コミュニケーション力とは、相手のニーズや想いを正確に汲み取り、それに対する適切な答えを相手が最も受け入れやすい形に変えて発信する能力です。これはまさにプレゼンテーションの本質であり、人は日々コミュニケーションという大小のプレゼンテーションを繰り返す事で社会生活を営んでいると言えます。働く人々に求められるコミュニケーションスキル、それはまさにプレゼンテーションにおける『伝える力』の育成です。

 

■3. 現代のストレスケア、伝える力
 コミュニケーション力の低下に伴うストレスに対するストレスケアは『伝える力』の育成です。そこでは、これまでのメンタルケアとしてのセルフケアやラインケアに加えて、人の想いを引き出す傾聴のスキルや、自分の想いを正しく伝えるプレゼンテーションスキルの育成が必要となります。またその根底には、他人に興味を持ち理解しようという努力と、他人という自分とは異なる思考の相手に想いを伝えるという障壁をのりこえる努力が必要であり、そのような努力こそが人の成長につながると私は信じています。現代のストレス社会を生きる労働者に教育を行う産業保健スタッフにとっても、自身の『伝える力』の育成は必至の課題であると考えます。またコミュニケーション力の向上こそが、風通しのいい快適な職場の確立であり、メンタルウェルネスの向上において最も重要です。

 

■4. 産業医としての自分
 産業医である私が専門的に扱うのは『病』ではなく、常に変化する生き物としての企業とそこに生きる人の『心』です。私は自分の扱う商品である『心の健康』という概念の本質を深く理解するために、健康や生き甲斐作りを専門とする事でその理解を深めています。また社会で働く人の中には身体的な障害を抱えて生きる人も少なくありません。障害を持つ方を含めすべての働く人のニーズに対応できるためには、まず障害を持つ人が日々何に対して不便を感じているかを知る必要があります。障害者の生の声の聴取と障害者補助機能を熟知するために、Apple社の製品を利用した障害者コンサルタントをしています。また、人の知覚のうち最も大きい意味を持つ視覚に障害を持つ方の働き方を考えるため、私は眼科医として視覚障害者ケアを専門として臨床医を続けています。相手を理解した上で相手の求める物を正しく伝えるための努力こそが私の産業医としての成長であり、私はこれからもマルチ産業医としてこの人生を楽しみながら歩み続けていきます。

この記事の講師

三宅 琢

三宅 琢

平成17年 東京医科大学卒業  
平成24年 東京医科大学大学院卒業
東京医科大学 眼科 兼任助教
永田眼科クリニック 眼科 勤務医
Gift Hands 代表
 
平成25年 三井ホーム株式会社、佐川急便ホールディングス他 嘱託産業医  

 眼科と産業医として働く傍らで、Gift Handsの代表として視覚障害者ケア情報サイトを運営し、便利グッズの開発やアプリ紹介を行う。また代表として全国のApple Storeや盲学校、視覚障害者支援施設や医薬専門学校等でiPadとiPhoneを用いたロービジョンケア(視覚に障害があるため生活に何らかの支障をきたしている人に対する医療的、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的等の支援)に関するセミナーや講演等を行っている。

 

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