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令和7年 育児休業法改正、企業の取り組むべきことは?

令和7年育児休業法改正、企業の取り組むべきことは?

産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト
平野 翔大

20244月に改正された、育児・介護休業法。2022年の改正から2年という非常に短いスパンでの改正となったことが示されているように、育児・介護との両立推進に国は力を入れています。

本記事では特にこの中でも育児に関わる施策について、実は大きな変化が生じていますので、ご紹介させていただきます。

 

1.改正内容について

前回2022年の育児休業法改正においては、「産後パパ育休」を中心とした、男性育休の推進が主な内容となっていました。しかし今回は大きく異なり、「柔軟な働き方を実現するための措置」を中心に、「育休=休むこと」ではなく、「育児と仕事の両立=働きながら育児をすること」にフォーカスがあたった改正となっています。

今回改正は主に5つの項目からなります。

①子の看護()休暇の拡充

②一般事業主行動計画・公表義務の変化

3歳までの両立支援措置の拡大

3歳以降の両立支援措置の拡大

⑤両立に関する意向確認の義務化

前回の改正も育児休業制度の変化という意味では全ての企業が対象となるものでしたが、主に男性育休取得率の公表義務が課せられた従業員1,000名以上の企業が大きな問題となっていました。今回、この公表義務が300名に引き下げられたことも話題になっていますが、実は全ての改正が企業規模関係なく対象であり、かつ実務に大きな影響が出ることはあまり話題になっていません。

本記事では小規模事業者でも対象になる要点について解説していきます。(全てを網羅することは難しく、代表的な項目のみになっております。改正を確認する際は厚生労働省等の資料をご確認ください。)

2.4月施行内容

今回の法改正は4月と10月の2回の施行内容があります。

4月の山場は以下の3つです。

① 公表義務の引き下げ

4月から育休取得状況の公表義務対象が、従業員300名以上の企業に拡大されました。実は同時に、一般事業主行動計画で男性育休取得率の「数値目標」を開示することが求められています。現時点では300名未満の企業は実績の公表までは必要ありませんが、目標の策定が求められておりますので、将来的には公表になる可能性も考えられます。「小規模だから男性育休は関係ない」と対応していると開示となった時に苦しくなるので、今からの取組が勧められます。

② 子の看護(等)休暇の拡充

これまでも看護休暇という制度はありましたが、未就学児の子どもが病気した時にのみ使える制度でした。今回の改正では、子ども自身の病気ではなく学級閉鎖や、入園・卒園式が対象となると共に、雇用期間6か月未満の対象者を労使協定で外すことができる制度が撤廃されました。これに伴い名前も看護「等」休暇となっており、各社で就業規則や労使協定の見直しが必要になりますのでご留意ください。

③ テレワークが育児配慮要件に追加

3歳未満の育児をする労働者がテレワークを選択できるようにすることが、努力義務になりました。医療職はじめテレワークが業態上困難な事業者もあるため、義務にはなっていませんが、実はテレワークが「両立の配慮」として法律に記載されたのはこれが初めてになります。

3.10月改正内容

ここまでは多くの企業で就業規則などの改訂で対応できるものでしたが、実は山場は10月改正の方。対応が大変だからこそ6ヶ月の猶予があるわけですが、大きく企業の実務・産業保健に関わるのがこちらの内容です。

④ 3歳以降の両立支援措置の拡大

3歳から就学前の子を養育する労働者に対する制度として、
・始業時刻変更
・テレワーク
・保育施設の設置
・新たな休暇制度
・短時間勤務
5つのうち、2つ以上を設け、1つ以上が使えるようにすることが義務付けられます。「短時間勤務」以外が全て「フルタイムで働く前提の制度」となっており、まさに「育児をしながら働く」ことを支援する制度になります。中小企業でもこの制度は対象であり、業態や規模によっては「テレワーク」「保育施設」は困難なため、他の制度の導入がほぼ義務になることもあります。

⑤ 両立に関する意向確認の義務化

実は企業の運用として最も大変なのがこの「意向確認」。これまでは妊娠・出産を申し出た社員に対し、産休の時期と育休取得の有無を聞いていれば問題なかったのですが、今回の法改正では主に2つの聴取が追加されました。

1.育休取得だけでなく、今後の勤務時間帯・勤務地・制度利用・就業条件についての希望聴取

2.2~3歳になる間にも「両立の意向」を再度聴取

つまり今後は、妊娠を申し出た社員に対しては「産後の働き方」を妊娠中から聞いておく必要があり、更に23歳の間については、企業が子育て中の従業員、子どもの年齢を把握したうえで、企業から「今後の働き方をどうしますか?」と聞かなくてはなりません。

つまり企業は子どもの年齢を把握・管理し、適切に周知し、かつ聴取した希望について検討しなくてはならないのです。この背景には男性の育休が進んだものの、結局復帰後に同じような働き方をしており、育児に参画できていないなどの問題も見え隠れしています。また医療的ケア児やひとり親家庭などであれば、法を上回る配慮をすることも要請されており、これまでのように「とりあえず産休・育休取らせて、女性は大変なら時短、男性は普通にフルタイムで戻って来る」のような働き方だけを見ていれば良いというわけではなくなるのです。

4.まとめ

今回の育児休業法の改正においては、個別の育児事情に応じた配慮を求めるという意向が強く出ています。「両立支援」という軸でも、「親と子の健康状態に応じた配慮」という軸でも、産業保健との関連が深くなってくる分野であり、企業はこの分野も理解した産業保健職や人事労務の活用が求められています。

中小企業がこの分野に取り組もうとする場合、現在であれば助成金が用意されています。しかし将来的には縮小傾向になっていくことは必然のため、先延ばしにすれば「自費で頑張るしかない」という状況になります。

社会の変化も読みつつ、早期にこの問題に取り組むことをお勧めいたします。


産業医 平野 翔大

この記事の講師

平野 翔大 | 産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト  労働衛生コンサルタント(保健衛生)・産業保健法務主任者

産婦人科を経て産業医として大企業からベンチャー企業まで幅広く担当。
また女性の健康経営や働き方改革・医療費適正化などのコンサルティングを企業・健保組合向けに行う。
同時にジャーナリストとしても執筆多数。特に男性の育児支援を専門とし、(一社)Daddy Support協会代表理事を務める。
著書に「ポストイクメンの男性育児」(中公新書ラクレ)。


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