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今こそ見直そう睡眠習慣~睡眠ガイド2023より~

産業医
髙橋 真里奈

 

<毎晩ぐっすり眠れていますか?>

新年度が始まり、環境が変化したり、新しい人間関係が築かれたりすることが多い時期となりました。楽しみも多い一方、緊張感が続くことで疲れやすい時期でもあります。疲労回復のために必要不可欠な睡眠ですが、睡眠の効果はそれだけではありません。記憶の定着・強化など、環境への適応能力を向上させる機能も備えています。日中いきいきと活動するために、今一度睡眠について振り返ってみましょう。

 

 

<睡眠の現状>

皆さんは毎晩何時間くらい眠っていますか?令和元年国民・健康栄養調査の結果によると、労働世代である2059歳においては約3550%の人が6時間未満の睡眠時間でした。国際的に見ても日本人の睡眠時間は短いと言われていますが、令和3年のOECD(経済協力開発機構)の調査報告でも、日本人の平均睡眠時間は加盟33カ国の中で最も短いという結果でした。

過去と比較するとどうでしょうか。健康日本21では、「睡眠による休養を十分とれていない者の割合」を18.4%(平成21年)から15%(令和4年度)まで低下させることを目標としていました。しかし、最終評価時は21.7%(平成30年)とむしろ悪化していたのです。

 

 

<睡眠ガイド2023

睡眠不足は日中のパフォーマンス低下や事故を招くだけではなく、慢性化すると様々な健康障害のリスクを高めます。

肥満、高血圧、2型糖尿病、心疾患、脳血管疾患の発症リスクの上昇、更には死亡率の上昇にも関与することが明らかになっています。

睡眠の問題自体が精神疾患の発症を高めるという報告もあります。睡眠に問題がある場合は放置せず、早めに改善に取り組むことが重要といえます。

 

先日、厚生労働省より「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表されました。「指針」ではなく「ガイド」という名称になっており、どのような対策をとればよいのかという点に踏み込んで記載されているのが特徴です。

では、良い睡眠とは何でしょうか。大切なのは「睡眠時間の確保」「睡眠休養感(睡眠で休養が取れている感覚)の確保」です。

 

 

<働く世代は6時間以上を目安に>

睡眠時間については、成人では6時間以上が目安となります。6時間というのはこれまでの科学的知見に基づいた目安ですが、適正な睡眠時間には個人差があることにも留意が必要です。

 

ところで、産業医面談の中で睡眠時間の話をすると、「休日に寝だめしているから大丈夫!」という方がいらっしゃいます。しかし、それはさらなる問題を引き起こしているかもしれません。

休日の寝だめは体内時計のずれを引き起こし、社会的時差ボケ(Social Jetlag)とも呼ばれます。

睡眠不足による悪影響に加え、体内時計のずれによる悪影響も加わり、生活習慣病や脳・心血管疾患、うつ病の発症リスクとなることが報告されています。休日に平日+2時間以上の寝だめの習慣は、慢性的な睡眠不足の現れです。特に平日の睡眠時間が6時間未満の人は、まず平日に十分な睡眠を確保できるよう生活習慣を見直す必要があります。

 

 

<睡眠休養感を高めるためのポイント>

睡眠休養感というのは自覚的な指標ですが、心身の健康に影響することが分かっています。改善のための見直しポイントは、生活習慣、睡眠環境、嗜好品です。習慣的に運動をしている人の70%以上は睡眠の質が良いことが分かっています。

 

就寝の24時間前の運動は避けたほうが良いですが、日中は積極的に体を動かしましょう。朝食の欠食、就寝前の夜食や間食は体内時計を後退させ、睡眠の質の低下につながります。仕事で夕食の時間が遅くなってしまう場合は、夕方におにぎりなどの主食を食べ、帰宅後におかずなどの軽い副食を摂るように工夫しましょう。

 

寝る前のスマホには気をつけていますか?睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌は、就寝の約2時間前から始まります。

それ以降にスマホや照明の強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑制されてしまい入眠が妨げられてしまします。

夜間の照明は現代社会において避けようがありません。しかし、日中に光を多く浴びることで、夜間の照明の光による体内時計への悪影響が減少することが報告されています。日中はできるだけ日光を浴びるか、明るい部屋で過ごしましょう。

 

嗜好品で特に注意したいのはカフェインですが、上限の目安は1日に400mg(コーヒー700cc程度)です。夕方以降に控えるというのは実践されている方も多いと思いますが、400mgを超えるカフェインの摂取は仮に朝の摂取であったとしても睡眠に悪影響を与える可能性があります。摂りすぎないように注意しましょう。

 

また、アルコールや喫煙も睡眠の質を悪化させる可能性が指摘されています。晩酌は控えめにし、禁煙を目指しましょう。

 

 

<寝床は寝るところ>

良い睡眠のために色々と気をつけたい点はありますが、眠るために大切なのはとにかくリラックスすることです。リラックスして入眠するための寝床で、悩み事をしたり、読書やPC作業をすることは避けましょう。

寝付けない状態で寝床に居続けるのも望ましくありません。20分以上眠れない場合は一度寝床を出て、暗い場所でリラックスして過ごし、眠気を感じたら寝床に戻りましょう。

 

 

<睡眠障害や更年期障害が潜んでいる可能性も>

習慣や環境を見直しても十分な時間眠れない、休養感が得られない、日中の眠気が強いなどの症状が継続する場合は、背景に睡眠障害が潜んでいる可能性があります。不眠症や、睡眠時無呼吸症候群などです。

また、更年期おいては睡眠の問題が生じやすくなります。日中の生活に影響を及ぼしている場合は、速やかに医師に相談しましょう。

 

 

<良い眠りが良い活動につながる>

多忙な日々を過ごす中で、睡眠のことはつい蔑ろにしてしまいがちではないでしょうか。今夜はいつもより少し早めにスマホやPCの操作をやめて、ぬるめのお風呂につかって、寝床に入ってみませんか?毎日の丁寧な休息を心がけ、変化の季節を乗り切りましょう。


参考:

・健康づくりのための睡眠ガイド2023 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf

e健康づくりネット https://e-kennet.mhlw.go.jp/tools_sleep/

この記事の講師

髙橋 真里奈

日本医師会認定産業医

労働衛生コンサルタント(保健衛生)

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