日本医師会認定産業医
福内雅子
長い自粛生活の間に、桜の季節もGWも過ぎ去り、気づけばもうすぐ本格的な梅雨入りですね。
夏の旅行の計画が立たなくとも、梅雨が明ければ夏はやってまいります。
昨年の7月は雨天の続く記録的な冷夏でしたが、2018年は災害級の暑さという言葉が誕生するほど厳しい暑さに見舞われました。
今年の夏は平年通りかそれより高い気温になるそうです。
“STAY HOME”の今からできる対策を考えてみました。
例年の対策に加えていただければと思います。
(1)体力の低下
3月の緊急事態宣言発令後、テレワーク中心となった方も多いことでしょう。久しぶりに出勤してみるとヘトヘトになってしまったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ある研究によれば、テレワークに切り替えた社員の歩数が約30%低下したそうです。通勤と就労による運動が私たちの生活において意外と大きなウエイトを占めていたことがわかります。
活動量が落ちた状態から、急に負荷がかかった状態になると、疲労が蓄積し、体調を崩しやすくなります。
仕事も趣味も付き合いも、自粛期間のブランクを早く取り戻したいというお気持ちもおありでしょうが、“試運転期間”は無理をせず、十分な休養をとりながら、ゆっくりと日常に戻していくことがとても大切です。
(2)暑熱順化の不足
意外に思われるかもしれませんが、熱中症による救急搬送は、夏本番の8月よりも梅雨明け直後に最も多いのです。私たちの身体は1週間程度かけて暑さに順応していき、これを暑熱順化と言います。梅雨明けに急激な気温上昇が起こると、暑熱順化が追いつかず熱中症になってしまいます。
今年は外出自粛により、暑さに慣れる機会がさらに少なくなりますから、より一層熱中症のリスクは高まることが予想されます。
短時間でも日中に外で身体を動かしたり、入浴の際には湯船に浸かって発汗するなど、普段の生活でも暑熱順化のためにできることをぜひ取り入れてみましょう。
(3)新たな生活様式と暑熱対策
夏場のマスク着用は、ニューノーマルの象徴の一つとなりそうです。マスクをしていると、口からの水分の蒸散が起こりにくくなるため、喉の乾きを感じ辛くなります。すると発汗による脱水に気づくのが遅れて熱中症に陥ってしまうかもしれません。喉も乾かない上に、マスクを外して飲む煩わしさ、外出先で手が洗えない状態といった要因が追い討ちをかけます。
タイミングを決めて、こまめな水分補給を誰もが心がけねばなりません。
外出前そして職場に到着した時に、手軽に水分補給できる環境を今から準備するのもいいですね。
自転車通勤に切り替える方は、帽子やサングラス、冷却グッズなどを今から揃えておきましょう。暑さ指数が危険なレベルの時には、柔軟に通勤手段を変更することも必要です。
(4)生活リズムの乱れ
おでかけや会食を控える雰囲気はもうしばらく続きそうな気配です。
在宅時間が増え、今まで以上にゲームやSNSに没頭する方も多いことでしょう。エンドレスに楽しんだ結果、夜更かしが続いてしまうと睡眠不足となり、熱中症のリスクを高めてしまうので、くれぐれも気をつけましょう。
(5)飲酒量の増加
睡眠不足に並び、熱中症のリスクとされているのが過度のアルコール摂取です。家飲みやひとり飲みはついつい飲酒量が嵩んでしまいがちです。
お心当たりのある方は、ご自身の飲酒量を今一度見つめ直してみましょう。
アルコール依存症の疑いがある場合には早めに産業医に相談しましょう。
(6)病気治療の中断
通院は不要不急の外出ではないのですが、残念ながら通院を中断してしまう方、受診勧奨されていたにも関わらず受診を控えてしまう方がいらっしゃいます。
高血圧、糖尿病、心臓疾患、腎臓疾患などの疾患は熱中症のリスクであり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にとってもリスクであることがわかっています。必要な治療は、どんな状況であっても必ず継続しましょう。
電話診療やオンライン診療をはじめる診療所が徐々に増えています。活用してみるのもよいでしょう。
(7)新たな情報提供の試み
最後に、2020年7月から関東甲信の1都7県で試行される、熱中症警戒アラート(仮称)をご紹介いたします。
これは、熱中症被害を防ぐために、環境省と気象庁が協力してより信頼性の高い情報を、よりわかりやすい形で国民に向けて発信していくものです。従来の高温警戒注意情報のように、気温にだけ注目するのではなく、湿度や輻射熱を合わせて考えたWBGT(暑さ指数)を元に、熱中症の危険があると判断された場合に発表される予定です。
(前日午後5時、当日午前5時)アラートは、対策行動(屋外作業の禁止など)も同時に発表されますが、事業所の個性に合わせて、具体的な行動計画をあらかじめ決めておき、周知しておくとより安心です。
今年の夏も、元気に楽しく過ごせますように。
福内 雅子
<略歴>
福内産業医事務所 代表
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
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