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がん検診について考えよう

日本医医師会認定産業医 
菊池 広大

65歳までに15%の人が何らかのがんになると考えられています。同期で入社した人のうち7人に1人は会社で働いているうちにがんになるというのですから、思ったより多いですよね?
ちょっと怖いですね。今回はがん検診についてお話させていただきます。

 

 がん検診のメリットには早期発見・早期治療によるがん死亡の減少が挙げられます。しかしデメリットについてはちゃんと知った上で受けているでしょうか?受ければ受けただけいいと思っていないでしょうか?
どんな検査にもデメリットがあるようにがん検診にもデメリットはあります。

主なものとしては偽陽性と過剰診療です。偽陽性とは本当はがんでないにも関わらず、検診でがんの疑いありとなってしまったものを言います。検診でがんの疑いとなれば精密検査が必要になり、その検査は検診よりも精神的・身体的な負担を伴うものになります。

しかも検査までの期間と結果を聞くまでの期間は「がんかもしれない」という精神的不安を強いられることになります。次に過剰診療についてです。実は一口にがんと言っても、進行の早いものもあれば、遅いものもあり、中には放っておいても生涯何の影響もなく、ときには消えてしまうがんもあるのです。そのようながんを検診で見つければ、定期的に経過観察を繰り返し、過剰な診療が必要になってしまいます。

 

 私は決してがん検診を受けるなと言っているわけではありません。科学的に受けたほうが利益につながることが示されているがん検診については、しっかりとより多くの人に受けてもらいたいと考えています。では科学的に受けたほうが利益になると証明されているがん検診にはどんなものがあるのでしょうか。2018年3月に厚生労働省より公開された「職域におけるがん検診に関するマニュアル」では以下のものが推奨されています。

 

(1)      胃がん検診(胃部X線検査または胃内視鏡検査、50歳以上、2年に1回)
(2)      子宮頸がん検診(細胞診、20歳以上の女性、2年に1回)
(3)      肺がん検診(胸部X線検査、40歳以上、1年に1回)
(4)      乳がん検診(マンモグラフィ、40歳以上の女性、2年に1回)
(5)      大腸がん検診(便潜血、40歳以上、1年に1回)

*検査項目など簡潔に記載するために省略表記しています。

 

重要なのは対象年齢と頻度です。
大腸がんを例にあげれば40歳以上の人は便潜血検査(大便に血が混じってないかの検査)を年に1回受けることが推奨されています。2年に1回ではその間にできたがんを見つけるまでに時間が経ちすぎて死亡率を減少させることはできないですし、30歳の人の便に血がついていても痔やその他の消化器疾患の可能性のほうが高いため効果がありません。

 

このように「特定の年齢の集団全員に一律に検診を受けてもらう」検診を対策型検診と呼びます。それに対して「一人ひとりが自分の意思で選択して受ける」検診を任意型検診と呼びます。
科学的根拠が明らかな検診はより多くの人が受診することで死亡率減少が期待できますので対策型検診として実施し、その他のがん検診については個人ごとにリスクが異なり、年齢で画一的に全員受診させるには十分な科学的根拠が不明、あるいはないのが現状です。

それらのがん検診については個々人が自らのリスクを見積もり、利益と不利益をよく理解した上で受診する任意型検診で行うことで、集団としての利益を最大化しながら、個々人のリスクに対応したオーダーメイドのがん検診を実現することができるのではないでしょうか。

 

自分自身のリスクを見積もり、検診の利益・不利益をよく理解するには産業保健職による教育や相談対応が重要になります。この機会に産業医や保健師に相談して自分のがん検診メニューを作成してみてはいかがでしょうか。

 

<参考>

・職域におけるがん検診に関するマニュアル
・産業保健職からの視点で「職域におけるがん検診マニュアル」の効果的な運用を検討するワーキンググループ報告書

この記事の講師

菊池 広大


<略歴>
日本医師会認定産業医、社会医学系専門医制度専攻医
金沢医科大学医学部卒業。
東北労災病院で臨床研修修了後、(株)リコー専属産業医となる。

 

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