産業医
竹島 望
昨今話題のメンタルヘルス不調の多くは、眠れないことから始まる印象があります。メンタルヘルス不調から改善して復職した方に、不調になったとき、最初にどんな症状から出たかをお聞きすると、多くの方が「眠れないことから始まった」と話されます。
眠れない日々が続くと、その後に頭痛や下痢、集中力の低下や気分の落ち込みなど様々な症状が出て、ついには仕事に支障をきたすこともあります。
まずは眠れないことに気付くこと、そして気付くことができたら早期に対処することが肝心です。
ご自身が眠れないことに気付いた場合の対策は色々とあり、厚労省も「健康づくりのための睡眠指針2014」※1を出しています。これらの中でよく眠るための対策として私は、以下の事柄をよくお伝えしています。
・眠る前の刺激物(カフェインや喫煙、飲酒)を避ける
・寝る前に自分なりのリラックス法(音楽、軽い読書、ぬるめの入浴、香り)を持つ
・寒すぎず暑すぎない、静かで真っ暗になる環境を作る。
・昼寝をするなら15時前の20-30分
・光の利用で良い睡眠(起床時に日光を浴び、夜は明るすぎない照明に)
これらを実践することで、睡眠薬を使うより効果があることもあります。
眠れない日々が続く方はもちろん、よりパフォーマンスを上げたい方で、これらを生活に取り入れていない場合は、ぜひとも取り入れるべきです。
ただ、これらはあくまで就床“前”に試みるものであって、横になった後、今まさに寝付けない時に試みるものではありません。では、寝付けない時、もしくは途中で起きてしまって眠れない時、どうすれば良いでしょうか?
答えは“ベッドから出る”です。
寝ようと思ってもなかなか眠れない時はいったんベッドから離れることが良いとされています。理由は、ベッド上で眠れないまま長い時間過ごすと、ベッド上は眠れなくても良いところだと体が覚えてしまうからです。ベッド上は眠るところである、と体に覚えてもらうためには、ベッド上では眠ること(と性行為)以外はすべきではなく、眠れない時はベッドから離れることがよいとされています。その意味ではベッド上で横になりながらスマホをすることも、本を読むこともよくありません。あくまでベッド上は眠るところであると、体に覚えてもらうことが大切です。
では具体的にどれぐらいの時間眠れなかったらベッドから離れるのが良いでしょうか。はっきりした決まりがあるわけではないですが20分位眠れなければベッドから離れるのが良いでしょう。その際、時計を見て時間を意識してしまうと、さらに目が覚めてしまいますので、時計を見ないでなんとなくの感覚で20分くらい眠れてないと感じた場合にベッドから出ればよいでしょう。
ベッドから離れた後は、目が覚めすぎてしまってもいけませんので、ソファーの上などで読書をしたり、音楽を聞いたりしてゆったりと過ごすのが良いでしょう。もちろんテレビや携帯を見るのは目が覚めてしまうのでよくありません。そうしているうちに眠くなってきたら再びベッドに戻りましょう。ポイントは眠くなってからベッドに戻ることです。もし、ベッドから出たあと、いつまでも眠気が来ず朝になってしまった場合、次の日は眠れるはずです。
実は、このやり方は睡眠の認知行動療法で使われる技法の一つ、刺激コントロール法ともいいます。もっと学びたいという方は参考図書※2をご覧下さい。これらのやり方を試しても眠れない場合は、速やかに精神科や心療内科へ行きましょう。
<参考>
※1 健康づくりのための睡眠指針 2014
※2 創元社「自分でできる「不眠」克服ワークブック 短期睡眠行動療法自習帳」 渡辺範雄著
竹島 望
<略歴>
産業医、精神保健指定医、精神科専門医・指導医、
京都大学大学院医学研究科(健康増進行動学)客員研修員
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