武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太
睡眠の質と職場でのパフォーマンスとの間に、正の相関があることが明らかになってきました。では、質の良い睡眠を促す要因にはどのようなものがあるのでしょうか
Litwiller, Snyder, Taylor, & Steele (2017)では、これらの関係を検討してきた多くの研究を収集し、データを結合した上で再分析(メタ分析)することを通じて仕事の特徴と睡眠の関係、個人要因と睡眠の関係を検討しています。
分析の結果、まず仕事の要求度と呼ばれる仕事の負担感が睡眠の質を低下させることが明らかになりました。
まずシフトや夜勤といった負担となるある種の働き方が弱いながら影響を与えることが明らかにされています。
また週の労働時間や仕事量、仕事のペースといった仕事の量に関わる負担が影響を与えること、仕事の質的負担感、すなわち仕事の難しさや身体的な負担感といった要因が影響を与えることが明らかにされています。
最後にハラスメントに関わる要因、すなわち知覚され職場でのいじめや職場での暴力も睡眠の質を下げることが明らかにされています。
企業が厳しい競争にさらされている中で、仕事の要求度を単純に低下させることが現実的に難しいこともあるでしょう。
また大変な仕事の中には、チャンレンジを通じて従業員の成長を促すというような、長期的に見ればポジティブな影響を与える側面もあります。
これらを一概に取り除くことが得策とは思えません。しかしながら、仕事の要求度の中には職場のいじめや暴力のように、競争力の維持や成長とは関係ない要因も含まれています。
まずは、これらの要因の撲滅にフォーカスしてみるのも1つの方法かもしれません。
分析の結果明らかになったもう1つの要因は、仕事のコントロールと支援の有効性です。すなわち自ら働き方をコントロールできる仕事に従事している人ほど、また周囲からの支援を得られている人ほど、睡眠の質が良いと回答しているということです。
上で述べた、仕事の要求度と睡眠との間には負の関係があるものの、一概に要求度を下げることが難しいという組織側の事情と合わせて考えると、仕事の忙しさや大変さを減らせない職場でこそ、仕事の自律性や職場の支援関係を豊かにしていくことが有効だといえるでしょう。
最後に、睡眠に影響を与える個人要因の影響も明らかにされています。
特に生活習慣と関わる要因としては、飲酒、肥満度、喫煙などが、弱いながらも睡眠の質とマイナスの関係があることがわかっています。
一方で「家族と過ごす時間の長さ」は睡眠の質と正の関係にあることが明らかになっています。これらの調査結果をヒントに、自分にとって良い睡眠をもたらす生活習慣を模索してみることも有効かもしれません。
参考文献
Litwiller, B., Snyder, L. A., Taylor, W. D., & Steele, L. M. (2017). The relationship between sleep and work: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 102(4), 682-699.
森永 雄太
武蔵大学経済学部経営学科 教授
略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。
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