武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太
パフォーマンスに結びつく良い睡眠とはどのようなものなのでしょうか。
前回もご紹介したHenderson & Horan (2021)は、睡眠と仕事のパフォーマンスの関係を調べた75の研究結果を収集して統合し、再計算(メタ分析)しています。この論文が興味深いのは、睡眠についても2つの観点に分けた上でパフォーマンスとの関係を検討している点です。
1つ目は、量、すなわち睡眠時間に注目する方法です。
もう1つは、睡眠の質に注目する方法です。
メタ分析の結果では、睡眠の量も質も仕事のパフォーマンスとの間に正の相関があるものの、量よりも質の方が強い関連性を示すことが明らかにされています。
ご存知の方も多いと思いますが、日本人の睡眠時間は、国際的にみてとても短いことがわかっています。経済協力開発機構(OECD)の統計(Gender Data Portal 2021)によれば、日本の15歳~64歳までの男女の平均睡眠時間は7時間22分とされています。データベースに含まれている世界33か国と比較した結果、日本は最も睡眠時間の短い国であることがわかります。日本国内における最近の調査でも、日本人の睡眠時間が短いという傾向は変わらないように見受けられます。厚生労働省による「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、20歳以上の男女のうち、直近1カ月の平均的な睡眠時間が5時間未満の人が8.8%、5時間以上6時間未満の人は30.4%、6時間以上の人は34.6%である。7時間未満の人は、合計すれば73.7%に上るとされています。このように、我々日本人は睡眠をないがしろにしがちなようです。翌日の仕事のパフォーマンスを向上させるためにも、まずは睡眠の量、を確保することが有効でしょう。
Henderson & Horan (2021)では、睡眠の質とパフォーマンスの関係にも注目しています。そして分析結果では、睡眠の量も質も仕事のパフォーマンスとの間に正の相関がありますが、量よりも質の方が強い関連性を示すことが明らかにされています。の領域ではピッツバーグ睡眠質問票(日本語版も開発されています)が用いられることが多いようですが、この質問票の中にも、睡眠の質について直接的に4段階で自己評価を求める質問が含まれています。睡眠時間の確保だけでなく、質の良い睡眠を促す生活習慣を心掛けることで、睡眠の観点から自分自身のパフォーマンスを高めることができるかもしれません。
参考文献
Buysse DJ, Reynolds CF 3rd, Monk TH, Berman SR, Kupfer DJ.The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research.Psychiatry Res1989;28(2):193-213.
Doi Y, Minowa M,Uchiyama M, Okawa M, Kim K, Shibui K, Kamei Y.Psychometric assessment of subjective sleep quality using the Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI-J) in psychiatric disordered and control subjects.Psychiatry Res2000;97(2-3):165-172.
土井由利子, 簑輪眞澄, 大川匡子, 内山真: ピッツバーグ睡眠質問票日本語版の作成. 精神科治療学1998; 13 (6); 755-769.
Henderson, A. A., & Horan, K. A. (2021). A meta‐analysis of sleep and work performance: An examination of moderators and mediators. Journal of Organizational Behavior.
OECD (2021) “Gender data portal Time use across the world” (URL:https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIME_USE 2021年4月1日確認)
森永 雄太
武蔵大学経済学部経営学科 教授
略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。
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