上智大学経済学部経営学科 教授
森永 雄太
前回ご紹介した通り、従業員が職場でいきいきと働くためにジョブ・クラフティングという考え方が有効であることが知られるようになってきました。今回は、森永(2023)をもとにジョブ・クラフティングとはどのような考え方なのかを具体例をもとに説明した上で、管理者が部下のジョブ・クラフティングを促す方法と注意点についてご紹介したいと思います。
ジョブ・クラフティングを説明する際に私がよく紹介するのがディズニーランドのカストーディアルの事例です。カストーディアルは、掃除を主たる役割とするキャスト(従業員)です。以前は離職率の高い職種だったそうですが、現在カストーディアルとして勤務している人の中にはとてもいきいきと仕事をしている人もいます。実はカストーディアルの中には、掃除だけでなく、お客さんの道案内をしたり、箒で床に絵をかいたりしてお客さんを楽しませる方がいます。このように自分の役割を拡張したり、(掃除するだけでは得られない)お客さんとの良好なコミュニケーション機会を自ら創出したりすることで、仕事に対するやりがいや意義を感じられるようにすることに成功しています。
では皆さんが上司の立場で、部下にジョブ・クラフティングに取り組んでほしいと考えた場合、どのようにすればよいのでしょうか。先行研究では上司が従業員の主体性を引き出すマネジメントに切り替えること、例えばインクルーシブ・リーダーシップを発揮することで心理的安全性の高い職場を作り、結果としてジョブ・クラフティングを引き出せることが分かっています(森永 2023)。
最近では、上司部下間における傾聴の重要性や1on1の機会を持つことの重要性が指摘されています。これらのスキルや機会を有効に使うことはジョブ・クラフティングを引き出す上で有効だと考えられます。
管理者が部下のジョブ・クラフティングを促す上で大事なことは、放任するわけではないということです。多くの従業員は決められたことをきっちりすることに慣れてしまっています。急に自由に考えなさい、と機会を与えられても機会を持て余します。機会を活用できるように能動性の芽を育ててあげることが重要です。
またもう1つ気を付けるべきポイントは、ジョブ・クラフティングには副作用もあるということを上司側が自覚しておくことです。ジョブ・クラフティングは確かに従業員のやりがいを高めることがありますが、人に迷惑をかけてしまうこともあります。また時にはやらなければならないことがおろそかになる、といった弊害をもたらすこともあります(高尾・森永, 2023)。誰だってジョブ・クラフティングを最初から上手にできるわけではありません。そういった時こそ、上司がより良いジョブ・クラフティングを引き出せるようにジョブ・クラフティングをどのように発揮するのかについて「方向付け」してあげることが必要です。
<参考文献>
高尾義明・森永雄太(2023)『ジョブ・クラフティング 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実証的アプローチ』白桃書房
森永雄太(2023)『ジョブ・クラフティングのマネジメント』千倉書房
森永 雄太
上智大学経済学部経営学科 教授
略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。
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