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仕事のやりがいを生み出すジョブ・クラフティングの考え方

上智大学経済学部経営学科 教授
森永 雄太

日本企業で働く従業員のエンゲージメントが低いことが指摘されるようになってきました。
エンゲージメントには大きく分けて2種類あり、コンサルティング会社などを中心に利用されてきた「従業員エンゲージメント」と学術的な概念として発展し、測定されるようになってきた「ワーク・エンゲージメント」があります。

厚生労働省が運営する働き方・休み方ポータルサイトの整理によれば、前者は組織と個人の関係を幅広くとらえており、組織に対する従業員の貢献意欲を指します。後者は個人と仕事の関係に焦点化されており、仕事に対するやりがい、誇り、活力などが含まれます。本稿では仕事のやりがいを捉える考え方として、ワーク・エンゲージメントを取り上げ、ワーク・エンゲージメントが高い状態で働き続けることを可能にするジョブ・クラフティングという考え方を紹介していきます。

 ワーク・エンゲージメントは大きく分けて2つの仕事の特徴から影響を受けると考えられています。
1つは、仕事の自律性や周囲からの支援などの「仕事の資源」と呼ばれる特徴で、これらの特徴が豊かに備わっている仕事ではワーク・エンゲージメントが高まるとされます。
もう1つが、多すぎる仕事の量や難しすぎる仕事の難易度などの「仕事の要求度」と呼ばれる特徴です。仕事の要求度はストレスやバーンアウトを引き起こす一方で、仕事の資源と上手に組み合わせて提供されることでワーク・エンゲージメントにも結び付くと考えられています(Bakker et al., 2014)。

従業員にとって、仕事の資源が存分にあるというシチュエーションはけして悪い状態ではありません。ただし、挑戦しがいのあるタスクの時の方が、仕事の資源の良さがより活かされていると考えることもできます。

このように考えると、仕事の資源と仕事の要求度の2つをベストミックスさせて提供していくことが、従業員のやりがいと組織としての生産性を両立させるための秘訣といえそうです。ただしこの仕事の資源と仕事の要求度の2つをどの程度の割合で提供していくのがベストなのかを組織や管理者が見極めるのは困難です。特に組織成員が多様化した現代の組織では一層難しくなってきています。

 そこで近年注目されているのが、ジョブ・クラフティングという考え方です。


ワークエンゲージメントとジョブクラフティング

ここでいうジョブ・クラフティングとは、「職務上の要求や職務上の資源と個人の能力およびニーズとのバランスをとるために、従業員が行いうる変化」Tims Bakker & Derks, 2012 p.174)と定義される考え方で、従業員が職場で遂行する仕事の特徴を能動的に変更していく行動を指します。すでに述べたように、仕事の資源と要求度のベストミックスを組織側が特定して従業員に提供するのは困難です。

そしてその適正なバランスは、従業員によって異なりますし、従業員の中でもキャリアのタイミングや能力の変化に応じて変化していきます。両者の適正バランスを、その都度従業員が調整していくという視点を持つことで効果的な職務の割り当てが可能になります。
実際に、ジョブ・クラフティングを上手に取り入れている従業員はワーク・エンゲージメントも高いことが多くの研究に基づくメタ分析で明らかにされています(Rudolph et al., 2016)。

 これまで仕事は組織が割り当てるものだという考え方が一般的でした。経営学の研究でもそのような考え方が根強く、そのような前提を置いた研究ばかりが蓄積されてきました。しかし、時代は変わりつつあります。多様性が高まり、変化の激しい時代に組織側が一方的に従業員のやりがいを高める仕事を提供することは不可能です。もちろん組織が主導して仕事を提供していく部分がなくなるわけではありませんが、従業員も自分に合わせて担当職務を変えていく。

このような相互作用がうまく働く組織作り、職場づくりが求められているのではないでしょうか。

<参考文献>
Bakker, A. B., Demerouti, E., & Sanz-Vergel, A. I. (2014). Burnout and work engagement: The JD–R approach. Annu. Rev. Organ. Psychol. Organ. Behav., 1(1), 389-411.

Rudolph, C. W., Katz, I. M., Lavigne, K. N., & Zacher, H. (2017). Job crafting: A meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes. Journal of vocational behavior, 102, 112-138.

Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of vocational behavior, 80(1), 173-186.

<参考HP>

働き方・休み方ポータルサイト
https://work-holiday.mhlw.go.jp/work-engagement/

この記事の講師

コーヒー

森永 雄太

上智大学経済学部経営学科 教授

略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。

専門は組織行動論、経営管理論。

主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。

2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。


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