武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太
職場のダイバーシティを成果に結びつけるために、インクルージョンを伴うことが重要だと考えられるようになって来ました。そこで今回は、マネジメントの領域で蓄積されつつあるインクルージョン研究の到達点についてご紹介します。
インターネットでインクルージョンを調べると「包括」とか「包含」といった訳語が出てきます。日本の人事部のHPでは「組織内の誰にでもビジネスの成功に参画・貢献する機会があり、それぞれに特有の経験やスキル、考え方が認められ、活用されていること」と説明されています。
一方、最新の学術的研究では、インクルージョンを「最適弁別化理論という考え方に基づき、所属性と独自性への価値の2つの欲求を同時に満たすことで成し遂げられる状態」とする考え方が広く共有されるようになって来ました。一見すると小難しく感じますが(そして実際にやや小難しいのですが)、この考え方を理解することは、私たちが職場でインクルージョンを取り入れようとする際に陥りがちな失敗を回避することにもつながります。
図をご覧ください。先に述べたように、集団に所属したいという欲求が高く充足されているかどうかの違いを横軸、自分の独自性の価値を認めてもらいたいという欲求が強く充足されているかどうかの違いを縦軸で表しています。先の定義に従えば、両方の欲求が高い次元で充足されている状態が正真正銘の「インクルージョン」です。一方、どちらの欲求も満たされていない状態は「排他」的に扱われている状態です。ダイバーシティ&インクルージョンの文脈では、前者が望ましく、後者は避けるべきである、と考えられています。
出所: Shore et al.,(2011)を大幅に修正の上筆者作成
ここで重要なのは、職場の中にはびこる「にせもの」インクルージョンです。これらはインクルージョンを部分的に満たしてはいるものの、本当の意味でのインクルージョンにはなっていません。
例えば、左上の「同化」という状態が挙げられます。これは、メンバーとして仲間に入れてもらえている、とは感じているものの、(その状態を得るために)従業員が自分らしさを隠したり、自分ならではの価値を発揮できずにいたりする状態です。
逆に右下の「分化」の状態にある従業員は、チーム内で自分ならではの貢献が求められていると感じているものの、チームメンバーとして受け入れられているとは感じていません。例えば「あの人は違うから」とよそ者扱いされたり、浮いてしまっている、というようなことがあげられるかもしれません。
最も危険なのは、組織における多数派の側が、少数派を「同化」状態にしたり、「分化」状態にしたりしていることに気づいていないケースです。うちのチームは、うまくいっているよね、と感じている皆さんも、一度2つの視点で振り返ってみてはいかがでしょうか。
(※1)参考文献
日本の人事部ホームページURL:https://jinjibu.jp/keyword/detl/250/
(最終検索日2020年11月11日)
Shore, L. M., Randel, A. E., Chung, B. G., Dean, M. A., Holcombe Ehrhart, K., & Singh, G. (2011). Inclusion and diversity in work groups: A review and model for future research. Journal of management, 37(4), 1262-1289.
森永 雄太
武蔵大学経済学部経営学科 教授
略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。
専門は組織行動論、経営管理論。
主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。
2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。
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