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長時間労働が従業員に与える影響:ミナジン2021年調査の基礎集計から

長時間労働が従業員に与える影響

武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太


長時間労働が従業員の健康に悪影響を与えたり、仕事と家庭生活の両立を阻んだりする可能性については古くから主張されてきました。さらに最近では、長時間労働が職場のハラスメントとも深く関係しているという主張も見られるなど多様な悪影響が想定されるようになってきました(大和田、2018)。

今回は、筆者が2021年に株式会社ミナジンの受託研究として実施した調査結果をもとに、長時間労働時間が従業員に与える影響についての調査の基礎集計結果を紹介したいと思います。
調査は、インターネット調査会社のモニターに対してWeb上の質問票に回答を依頼する形式で行いました。調査対象となったのは500名以上の規模の組織で働く担当者レベル(課長未満)の正社員従業員1000名です。
調査に際しては、週の実労働時間の実数を自己回答してもらうとともに、欧米の研究で用いられている上司からハラスメント的な行動を受けていると認識している程度などいくつかの変数についても回答を求めました。

なお黒田(2017)によれば、週50時間より多い労働時間が従業員のメンタルヘルス確保の際の1つの参考値になることが指摘されています。そこでここでは、従業員の3週間の実労働時間の週当たり平均値に基づいて50時間以下を適正労働時間群(899名)、それ以上を長時間労働群(101名)として、2つのグループに分けました。

次に、2つの群で従業員のワーク・エンゲージメント、プレゼンティーイズム、睡眠の質、上司によるハラスメント的行動に対する知覚に違いがあるのかどうかについて平均値の差の検定を行いました。

その結果、ワーク・エンゲージメントやプレゼンティーイズムについては差が見られない一方で、睡眠の質、上司によるハラスメント的行動に対する知覚については差があるという結果が得られました。


労働時間群別の睡眠の質の自己評価

 (図1)労働時間群別の睡眠の質の自己評価

詳しく見ていきましょう。図1からは、長時間労働群の方が適正労働時間群と比べて睡眠の質が良くないと回答していることがわかります。


労働時間群別の上司によるハラスメント的行動
(図2)労働時間群別の上司によるハラスメント的行動

図2からは、上司からハラスメント的な行動を受けていると感じていることがわかります。

今回は従業員の個人差や働き方の様々な要因を統制しているわけではなく、今後より精緻な研究を求められるものの、労働時間をある程度の幅に抑えること(例えば50時間以下)によって従業員の睡眠の質やハラスメント的行動を経験する機会を低減することができる可能性があるといえるでしょう。

<参考文献>

大和田敢太(2018)『職場のハラスメント―なぜ起こり、どう対処すべきか』中央公論新社。 黒田祥子(2017)「長時間労働と健康、労働生産性との関係」『日本労働研究雑誌』(679)18-28.

この記事の講師

コーヒー

森永 雄太

武蔵大学経済学部経営学科 教授

略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。

専門は組織行動論、経営管理論。

主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。

2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。

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