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背のび「すぎる」課題に対処する「仕事の資源」

武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太


ちょっと背伸びした挑戦課題は従業員の学びや成長に結びつくと考えられます。組織側が、従業員一人一人にあった適切な挑戦課題を提供することが理想ですが、実際には挑戦的すぎる課題に取り組まざるを得ない状況も多いようです。今回は、仕事の大変さをやや理論的にとらえなおし、挑戦的すぎる課題を学習課題に変えるための「資源」の視点を紹介します。

 

仕事の特徴従業員ウェルビーイングの関係を検討してきた職場の心理学の研究では、仕事の大変さは燃え尽き症候群などの良くない状況を引き起こすことを明らかにしてきました。しかしながら、仕事の大変さをいつも悪者扱いしてきたわけではありません。

カラセック(Karasek)のストレスモデルでは、仕事の要求度と仕事上のコントロール(すなわち職務裁量の余地)という2つの変数に注目し、この2つの組み合わせ状況によって仕事と従業員ウェルビーイングの関係を説明しています。ここでいう仕事の要求度とは、主として仕事の量的な負担、すなわち量的な大変さが想定されており、仕事上の職務裁量の余地とは意思決定の権限やスキルの自律性が含まれています。

図1をご覧ください。従業員は与えられている仕事の要求度と仕事のコントロールの程度によって4種類のグループに分けられることがわかります。
右上のセルは、仕事の要求度が高く、仕事のコントロール度が低い「高ストレイン」群です。この群に含まれる人は、ストレスを感じやすく要注意なグループということになります。

左上と左下の群は要求度が低い群で、コントロール度の違いによって「不活性化」群と「低ストレイン」群に分けられます。これらの群は要求度が低いため、いずれもメンタルヘルス不調に陥るリスクは低いと考えられます。

右下のセルが、仕事の要求度が高いものの、仕事のコントロール度も高い「活性化」群です。この群は、要求度が高いものの、十分な仕事の資源が提供されているがゆえに、仕事の要求度が高い仕事が従業員の学習やモチベーションの活性化に結び付くと考えられています。

この分類に従えば、仕事の大変さの最適度は「大変さ」の程度単体で決まるというよりはその人が同時に与えられている裁量の余地とのバランスによって決まる、と考えることができそうです。最近のモデルでは、多様な仕事の資源すなわち、仕事における裁量の余地だけでなく周囲から得られる支援などの要因とのバランスを考慮に入れることが有効であると考えられるようになってきています。

日常業務の中では、従業員に対して大変すぎる課題、難しすぎる業務にアサインせざるを得ない局面もあるでしょう。大変すぎる課題そのものを変えようがない場合に、裁量権の拡大や周囲からの支援を拡充するなど、さまざまな仕事の資源を豊かに提供することで、難しすぎる課題を「学びのあるチャレンジ」に変えることができるかもしれません。

<図1>

 出所:Karask(1979)に基づき筆者作成

Karasek Jr, R. A. (1979). Job demands, job decision latitude, and mental strain: Implications for job redesign. Administrative science quarterly, 285-308.

坂爪洋美(1997)「職場のストレスマネジメントに関する考察-job Demand-Controlモ デルの検討」『経営行動科学』11(1)1-12.

この記事の講師

コーヒー

森永 雄太

武蔵大学経済学部経営学科 教授

略歴
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。
博士(経営学)。

専門は組織行動論、経営管理論。

主要著作は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 - 健康経営の新展開 -』(労働新聞社)等。

2016年、健康経営を経営視点から取り組む企業横断研究会(HHHの会)で副座長を務める。
2019年日本労務学会研究奨励賞受賞。

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