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メンタル不調で労災申請?人事担当者が知っておきたい基礎知識

メンタル不調で労災申請? 人事担当者が知っておきたい基礎知識

日本医師会認定産業医 
原口 正

近年、職場のストレスが原因で精神疾患を発症し、労災申請をするケースが増えています。しかし、精神的な負荷による労災認定は、一般に思われているより厳格な基準で判断されます。実際の審査では、単に「職場でストレスを感じた」程度では労災として認められることは少ないのが実情です。

 本記事では、精神障害による労災申請の基礎知識、2023年の認定基準改正、企業の対応策について解説します。

 

 

1.メンタルヘルスの労災申請とは?

精神疾患の労災申請とは、仕事のストレスが原因でうつ病や適応障害、PTSDなどを発症し、治療や休養が必要になった場合に行うものです。労災が認定されると、労働者は医療費の全額補償や休業補償を受けられます。

ただし、これらの疾患でも業務との因果関係が明確でない場合、労災として認められません。



2.どんな場合に労災と認められるのか?

労災認定には、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が適用されます。特に、「別表1 業務による心理的負荷評価表」が重要です(リンクは一番下にあります)。

① 強いストレスを伴う「特別な出来事」の有無

次のようなケースは、1つでも該当すれば、ほぼ労災認定されます。

  ✓ 極度の長時間労働(発症直前の1か月で160時間以上の残業)
  ✓ 生死にかかわる病気や事故

② 具体的な出来事の評価

「特別な出来事」に該当しない場合、29項目の出来事を「弱・中・強」で評価します。1つでも「強」があるか、「中」が2つ以上で総合的に「強」と判断されると労災となります。これらの具体的な出来事について、どのような場合に「弱」「中」「強」に相当するかなどが負荷評価表には示されています。例えば、「上司とのトラブル」についてみると、「業務指導の範囲内である指導・叱責を受けた」は「弱」に相当します。

例として、
  ✓ 2週間以上の連続勤務
  ✓ 長時間労働(月80時間以上の残業)
  ✓ パワーハラスメント(暴言・過度な叱責)
  ✓ 上司とのトラブル(パワハラとは別項目)
  ✓ セクシュアルハラスメント
  ✓ 顧客等からのカスタマーハラスメント(2023年改正で追加)
  ✓ 感染症リスクの高い業務への従事(2023年改正で追加)

 

③ 精神疾患の発症と業務の因果関係

「業務起因性」として、業務上の負荷が医学的に証明される必要があります。ストレスの程度は職種や職場ごとの許容範囲を超えているかも考慮されます。

④ 業務以外の要因

「個体側要因」といい、元々の精神疾患や家庭・金銭トラブルが主要因の場合、労災と認められにくいです。

 

3. 2023年の改正で変わったポイント

202391日、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正しました。新たなリスクが追加され、事業所の対応がより重要になりました。

<主な改正点>
  ✓ カスタマーハラスメントの追加

顧客や取引先からの迷惑行為が、労災の心理的負荷として認められるようになりました。
 
  ✓ 感染症リスクの追加

医療・介護現場などで、感染症にさらされる業務が労災対象に。

  ✓ 精神障害の悪化にも業務起因性を認定

以前は「特別な出来事」がなければ難しかったが、業務の強いストレスで悪化した場合も労災対象となりました。

 

4.労災申請があったら、事業所はどう対応すべきか?

① 事実確認を冷静に行う

労働者と職場の関係が悪化している場合があり、まずは冷静に状況を整理しましょう。労災申請は労働者の権利であり、企業が妨害することは違法です。

② 労働者や家族への誠実な対応

誠意を持った対応がないと、民事訴訟に発展する可能性があります。特に自殺のケースでは遺族が申請者となるため、慎重な対応が必要です。

③ 労働基準監督署の調査協力

労災の認定には労基署の聞き取り調査が行われます。
  ✓ 提出書類の準備
  ✓ 上司・同僚へのフォローアップ
  ✓ 証言の整理

など、人事担当者の適切な対応が求められます。

 

5. 労災を防ぐために企業ができること

労災リスクを知ることで、逆に職場の対策を立てやすくなります。

① 長時間労働・連続勤務の管理

長時間労働は客観的に認定されやすいため、厳密な管理が必要です。

② ハラスメント対策

上司とのトラブルが原因での労災申請が多いため、管理職研修や相談窓口を設置しましょう。

③ 産業医・カウンセリング体制の充実

従業員が気軽に相談できる環境を整備し、早期のメンタルケアを促進します。

④ ストレスチェックの活用

ストレスチェック制度を活用し、高ストレス者を早期に把握・対応することが重要です。

 

6. まとめ

労災認定の基準を知ることで、企業は労災リスクを事前に予測し、適切なメンタルヘルス対策を講じることが可能です。

特に人事担当者は、以下の厚生労働省のページを確認しておくことをおすすめします。


      参考
      厚生労働省「精神障害の労災認定」リーフレット
        https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

髙橋真里奈氏顔写真

この記事の講師

原口 正

宇都宮大学 保健管理センター 准教授
博士(医学) 公衆衛生学修士
労働衛生コンサルタント
日本医師会 認定産業医
公認心理師 
日本精神神経学会 専門医・指導医


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