新型コロナウイルスの感染拡大により急変した「働き方改革」について、この数年間でデジタル化がどれだけ進化したかをコロナ禍前と比較しながら理解し、今後進めるべきポイントについて解説します。
※本記事は、2021年12月16日に開催されたウェビナー『コロナ禍で変化した働き方改革~加速する業務のデジタル化~』をもとに作成した記事を、2024年12月にウェルナレ編集部にて追記・内容の見直しをしております。
目次
昨今、皆が口にするようになった「働き方改革」ですが、きちんと理解していますか? 本章では「働き方改革」が施行された経緯やポイント、具体的な取り組みについて解説します。
2019年4月に施行された「働き方改革 関連法案」について、過去の経緯を含め改めて見ていきましょう。
「企業戦士」「モーレツ社員」などの企業に貢献、仕事第一、がむしゃらに働くサラリーマンが推奨された「高度成長期」
バブル崩壊により日本の不景気、景気後退時期、バブル崩壊をきっかけに、社会情勢が大きく変動し「長時間労働による過労死」が疑問視され、「企業戦士」型働き方が疑問視されるようになった。
働き方の見直し
「働き方改革関連法案」が施行。「働き方改革」とは、働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現。
ここでは、働き方改革をするうえでのポイントと、具体的な取り組み方法について解説します。
「定年退職年齢の見直し」「女性活躍(産休育休取得者対応)」「勤務地限定社員制度」「副業/兼務の推進」などの実施
「長時間労働の上限規制」「フレックスタイム制の導入」「ノー残業DAYの設定」
「テレワーク/リモートワークの導入」などの実施
「均等均衡待遇」「非正規社員からの正規登用」「賃金の改定」「プロフェッショナル制度の導入」などの実施
本章では、積極的な働き方の見直しの実施というように、時代に沿った「働き方」について解説しました。各企業においては、法に沿った対策や企業ごとの施策をしてきたのではないでしょうか。
近年よく耳にするようになった「DX」という言葉ですが、本章では改めて「DX」の意味を理解し、DXに頼ることにより、実現する日本の働き方がどれだけ進化していくかについて展望を解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、英語ではDigital Transformationと書き、DXと略されています。Transformationの「Trans」は「交差する」という意味があるため、交差を表す「X」という1文字が用いられるようになりました。DXはテクノロジーにより産業構造を変化させることを意味しています。
経済産業省では令和2年に、企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった、経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめました。さらにその2年後に、「コロナ禍を踏まえたデジタル・ガバナンス検討会」を開催し、「デジタルガバナンス・コード2.0」を取りまとめています。
「デジタルガバナンス・コード2.0」では、あらゆる要素のデジタル化に向けて、ビジネスモデルを抜本的にDXし、新たな成長を実現する企業が現れてきています。ただし一方で既存ビジネスも破壊される事例も現れているため、このような時代変化の中で、持続的な企業価値の向上を図っていくためには、以下4点が重要であるとしています。
①ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと
経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」(2022年9月13日改定)
②デジタルの力を、効率化・省力化を目指したITによる既存ビジネスの改善にとどまらず、新たな収益につながる既存ビジネスの付加価値向上や新規デジタルビジネスの創出に振り向けること
③ビジネスの持続性確保のため、IT システムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと
④必要な変革を行うため、IT 部門、DX 部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと
「一億総活躍社会」とは、平成29年11月に当時の安倍内閣総理大臣が国会での所信表明演説で「女性が輝く社会、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、誰もが生きがいを感じられる『一億総活躍社会』を創り上げます」と述べたことにより、一気に広がった言葉です。
具体的には、以下の内容が「一億総活躍社会」の概念となります。
・若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会
首相官邸ホームページ「一億総活躍社会の実現」
・一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会
・強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム
これらの「一億総活躍社会」を実現させるための取り組みが「働き方改革」にもつながっていきます。「働き方改革」は、働く人々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革となります。
今、日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く人々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上や、就業機会の拡大、意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが重要課題となっています。
そこで、働く人々の置かれた立場・状況に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働くみながより良い将来の展望を持てることを目指していかなければならず、その手段の一つとしてDXも必要不可欠となっていくのです。
出典元:厚生労働省「働き方改革のポイントをチェック!」
RPAとはRobotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称で、これまで人間が日常的に行ってきたパソコンなどの操作を、ソフトウェアのロボットにより自動化することで、「ロボットによる業務自動化」を意味しています。
RPAでいうロボットとは、工場などで働く産業用ロボットや、人や動物と同じような形で同じような動きをする「ハードウェアロボット」ではなく、パソコンの中で動く無形の「ソフトウェアロボット」のことを指します。
RPAはこれまでシステム化が見送られてきた精度の高い手作業などの業務などで、品質を落とさず、比較的低コストかつ短期間で導入できるという特徴があります。具体的な業務としては、帳簿入力や伝票作成、ダイレクトメールの発送業務、経費チェック、顧客データの管理、SFA(営業支援システム)へのデータ入力など、主に事務職の人たちが携わる定型業務が挙げられます。
RPAの導入と運用は、労働時間の削減に向けた働き方改革である「業務改善・改革」の目標を明確にし、自社に合うツールの選択とマネジメントの運用方法に配慮して進めることが重要となります。まずは継続的にPDCAサイクルをまわしながら活用していくことが望ましいでしょう。
引用元:総務省「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」
ERPとはEnterprise Resources Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)の略称で、企業経営の基本となる資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に分配し有効活用する考え方、またそれを実現するシステムのことです。ERPシステムは「統合基幹業務システム」や「業務統合パッケージ」などと呼ばれ、業務効率化や情報一元化を目的に導入されます。
ERPシステムに搭載される機能は、主に以下のものなどがあげられます。
ERPのメリットは、企業のあらゆるところに散らばっている情報を一箇所に集め、そのまとまった情報を元にして、企業の状況を正確・迅速に把握し、経営戦略や戦術を決定できるところです。さらに、ITを活用して「業務の効率化」をはかったり、他のシステムとの連携によりスピード化を実現する、といった目的で導入企業も増加傾向にあります。
業務の効率を上げるために有効な手段として、AIやIoTの導入を検討している企業も増加傾向にあるようです。ただ、「AI」と「IoT」の2つの細かい違いは分かりにくいようで、意味を混同しきちんと理解している人は少ないと思われます。この2つの違いは「モノ」があるかないかという点です。
AIは「データを分析して活用する知能」で、プログラムのひとつであり、AIそのものは形がないため、活用するにはコンピューターなどが必要となります。IoTは「データを集めるモノ」で、モノが主体となるため、活用するには家電などのモノが必要となります。
この異なるAIとIoTの2つを組み合わせて、新たな付加価値を生み出すことができるようになりました。製造業における設備保全の自動化や、農業分野における栽培管理や土壌管理の自動化、医療分野では健康状態の可視化や病気の早期発見などとなります。これらの分野において、コンピューター化とオートメーション化が推進され、生産体制や運用管理の効率化が図られるようになったのです。
2020年1月、日本で初めて新型コロナウイルス感染者が確認されてから、「働き方改革」への対応が「待ったなし」で激変しました。具体的にはどのような取り組みをおこない、どのような課題が出てきたのでしょうか。
各企業が行った「新型コロナウイルス対策」の取り組みは、下の図の通りとなります。
特に、企業が重点を置かれた対策は、密(人との接触)を避ける対策で、出勤をせずに自宅やその他の施設などで業務を行う施策ではなかったでしょうか?
ここでは、コロナ禍で顕著に増加したテレワークについて解説します。
などが挙げられています。
出典元:総務省 情報流通行政局 情報通信政策課情報通信経済室「令和元年通信利用動向調査の結果」別紙より
2017年から2019年の3年間のテレワークの導入企業の割合を示したグラフです。
出典元:総務省 情報流通行政局 情報通信政策課情報通信経済室 令和元年通信利用動向調査より抜粋
コロナ感染前ということもあり、2019年は導入している企業20.2%、導入予定がある企業9.4%で、合わせて29.6% 約3割程度の企業がテレワークを導入、導入予定があると回答をされています。2017年の調査から徐々にではありますが、増加傾向が見られます。
東京都が実施した2020年「都内企業のテレワーク導入率緊急調査」のデータでは、2020年3月導入率24.0%、2020年4月導入率62.7%となっており、1ヵ月で38.7%も急激に上昇したことが示されています(東京都 産業労働局雇用就業部労働環境課 報道発表資料 10月度テレワーク実施率調査結果「実施率の推移」より )。その後、緊急事態宣言解除などの影響もありますが、約60%の企業でテレワークを導入されていることがわかります。
出典元:東京都 産業労働局雇用就業部労働環境課 10月度テレワーク実施率調査結果
以上のことから、コロナ感染拡大により、「働き方改革」は、感染拡大前の「働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する」から、コロナウイルス感染防止対策として、「密(人との接触)を避ける」ことの必要性から新型コロナウイルスに感染しないようにする「テレワーク/リモートワークの導入」を行うことを目的としたものに変わっています。
パーソル総合研究所の「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、従業員がテレワークを実施して感じるメリットとしては、「感染症リスクを減らせる」「通勤時間の削減」「ワークライフバランスの実現」「生産性の向上/業務改善」が挙げられていました。
また、総務省が行った「令和元年通信利用動向調査」では、企業としての導入目的として「業務の効率(生産性)の向上」「勤務者のワークライフバランスの向上」「勤務者の移動時間短縮」「人材の確保・定着」などが挙げられており、企業と従業員それぞれのメリットがほぼ一致していることがわかります。
パーソル総合研究所の「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によると、従業員がテレワークに関して感ずる不安を要約すると、「上司や同僚からの評価に関する不安」「業務の進捗や負担増などに関する不安」「コミュニケーション不足に関する不安」を多く抱えていることを示しています。
同じくパーソル総合研究所の調査で、テレワークを利用したメンバーが実際に感じた「課題」としては、「運動不足を感じる」「自宅でのシステム・ネット環境への接続」「コミュニケーション不足」「労働時間の管理」などが挙げられました。
以上のことから、テレワークにおける課題をまとめると、以下の4点となります。
どうしても外出する機会が減ってしまうことにより、「今日は誰とも話さなかった」という日がある方も多いのではないでしょうか。また、仕事のプレッシャーを感じながら自宅で黙々と仕事をすることも、孤独感や閉塞感を感じやすくなる要素のひとつと考えられます。
在宅勤務により、出勤や退社のような気持ちの切り替えにつながる行動がなくなるため、途中で長時間休憩を取ってしまったり、終業時間以降もだらだらと仕事をし続けてしまい、結果的に長時間労働になってしまうケースがあります。
運動をすることで、気分のリフレッシュや精神的な安定につながるセロトニンが分泌されストレスが緩和されやすくなります。運動不足は身体の不調だけでなく、気分が落ち込みやすくなってしまうなど、精神面にも影響が出ることが分かっています。
転職などにより初めて在宅勤務を経験する人も少なくないため、「自宅に仕事ができる環境が整っていない」「机や椅子が長時間作業をするのに向いていない」というケースがあります。また、家族に気を遣いながら仕事をせざるを得ないといった人も多く、集中できないことでストレスを感じてしまいます。
企業が従業員に一定のポイント(補助枠) を付与し、従業員は企業ごとに設計されたメニューの範囲内で自由に選び、 利用できる選択型の福利厚生制度です。
テレワークで重要度が増した課題は4つでした。全てを社内で解決することは可能でしょうか? 日頃の業務負担も考慮されれば、「社外ツールの活用」によるDXが解決の早道とも考えられます。
では、社外ツールを活用し、DXを推進すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下に4つのメリットを挙げます。
素早い情報共有、業務の効率化、時間の有効活用、組織の活性化
健康診断関連業務の削減、予防対策の実施、健康相談の開催
業務効率化、ペーパーレス化、データの蓄積・閲覧、業務スピードアップ
わかりやすい進捗管理、タスク・カテゴリー整理、タスク漏れ防止、勤怠管理
DXを進めるには、注意すべき点もあります。その内容をご紹介いたします。
システム開発やプログラム導入の費用、パソコンやタブレットなどの機器購入費用、維持管理費用。
場合によっては、推進するための人材の採用費用なども必要になる。
緊急事態に備えて、トラブル発生時の対応策も考えておく必要がある。
製造業などの企業では、難しい問題もある。管理部門についても、一人が同じ業務を長年継続している、過去の勘と経験で業務が進められている職場などデリケートな問題もある。
DXを実行するにあたり、4つのポイントをご紹介いたします。
経営層が先頭に立ち、強い意志を持って積極的に取り組む姿勢を示すことが第一歩となる。
最初からすべてに取り組むのではなく、優先順位を決めて、何から取り組んでいくのか計画的に進めることが大切。
導入内容が決定すれば、必要なシステムやネットワークの導入、使用するパソコンやタブレットの導入など環境の整備を進めます。機器などの導入には、実際にご利用される内容にあった使いやすいものを準備されると良いのではないでしょうか?
いくら経営層が積極的に取り組み、段階的な計画を立て、準備を進めても、従業員や担当者に準備・利用されなければ目的は達成されません。その為にも、利用する従業員への説明は大変重要になります。
DXを進めるためには、メリットや注意点などを理解、確認した上で、ポイントを押さえながら、DXを推進することが不可欠となるのです。
前述の通り、働く人のストレスが悪化している中で、従業員様の体調不良や離職を少しでも減らすために、会社には「従業員のサポート」を目的とした取り組みが求められてきています。ここからは、先進的な取り組みを実施されている事例をご紹介いたします。
A社では、毎年恒例となっていた社員旅行がコロナ禍により中止となりましたが、部署や事業所を越えたイベントを通じて、エンゲージメント向上につなげていきたいという思いからオンライン海外ツアーを実施しました。
旅行気分をさらに味わえるようにと、外国料理のお弁当やお菓子なども事前に準備し、参加者全員が楽しめる機会となったようです。
B社では、リモートワークの導入に伴い、従業員間のコミュニケーション、特に日常的な雑談が減少していることを課題視していたことから、昼休憩の時間を活用してオンライン雑談会を実施しています。雑談なのでもちろん参加や退室は自由で、よい気分転換につながっていると好評のようです。
C社では、新入社員が入社時からリモートワークになり、モチベーション低下が懸念されていたため、新入社員が既存社員と交流を持てるような質問会や昼食会をオンラインで実施しています。オンライン上であっても、何度か交流を持った既存社員がいると安心感につながります。
D社では、リモート勤務が続くことで心身の疲れやストレスを感じる声が社員から挙がっていたため、外部のメンタルサポートプログラムを企業側が費用を負担して実施しています。対面でのカウンセリングに比べて心理的なハードルも低く、またいつでもどこでも相談できるといったメリットもあり、利便性も高い制度です。
本記事では、DXの推進が働き方にどのような進化を与えているのかなど、現在注目されているDXについて解説しました。コロナ禍で変化した働き方改革として、加速する業務のDXが、会社とテレワークをつなぐ「外部ツール」の活用が不可欠となり、さらにDXのメリットや注意点、ポイントを押さえたうえで、働き方改革を進めていくことが重要であることがご理解できましたでしょうか。
今後も継続されるテレワークに関して、デジタルツールの利用はますます増加して行いくと考えられています。企業のご担当者には、継続的に充実を図っていく必要があることをご理解いただければ幸いです。