福利厚生の従業員持株会とは?導入効果から運用ポイントまで解説

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 「従業員のエンゲージメント向上や長期的な資産形成支援を検討しているが、どのような制度が効果的なのか分からない」

「持株会制度の導入を考えているものの、企業にとってのメリット・デメリットや運営上の注意点が不明で判断に迷っている」

従業員持株会は適切に設計・運用することで、従業員の資産形成支援と企業価値向上の両立を図る効果的な福利厚生制度です。

本記事では、従業員持株会の基本的な仕組みから企業・従業員双方のメリット・デメリット、ストックオプションとの違い、設立時の検討ポイントまで、企業の人事担当者が知っておくべき実践的な情報を解説します。

 


 

目次

  1. 持株会とは
    1. 1-1 従業員持株会の仕組み
    2. 1-2 従業員持株会の加入状況
  2. 持株会とストックオプションの違いとは
  3. 企業が持株会を導入するメリット
    1. 3-1 従業員のエンゲージメント向上
    2. 3-2 人材採用のアピールポイントになる
    3. 3-3 持株会が安定株主になる
    4. 3-4 福利厚生の一環
  4. 企業が持株会を導入するデメリット
    1. 4-1 配当金の支払いや運営事務などの負担増
    2. 4-2 株価低迷によるモチベーション低下
  5. 従業員側の持株会に加入するメリット
    1. 5-1 奨励金がある
    2. 5-2 配当金・キャピタルゲインを得られる
    3. 5-3 財産形成の手間がかからない
  6. 従業員側の持株会に加入するデメリット
    1. 6-1 会社への依存度が高くなる
    2. 6-2 株式売却に時間がかかる
    3. 6-3 株主優待が受けられない
  7. 企業が持株会を設立するにあたって検討が必要なこと
  8. まとめ
 

1.持株会とは



従業員持株会制度は、従業員が自社株式を共同で購入・保有する仕組みを通じて、従業員の資産形成支援と企業への帰属意識向上を図る福利厚生制度として、多くの企業で導入されています。

持株会は「民法上の組合」として設立される任意団体で、従業員の給与天引きにより自社株を定期購入し、企業からの奨励金もあわせて従業員の財産形成を効率的に支援する制度です。

 

参考:従業員持株制度とは、どのような制度なのでしょうか。(J-Net21

 

  

1-1 従業員持株会の仕組み

従業員持株会は、従業員の給与から毎月一定額を天引きし、その資金をプールして自社株式を定期購入するものです

仕組みとしては、持株会は「民法上の組合」として設立され、従業員は会員となり毎月の給与から天引きで一定額を拠出します。持株会はこれらの資金を集め、定期的に自社株式を購入します。

購入した株式は持株会理事長名義で管理され、各従業員は拠出額に応じた「持分」を所有します。多くの企業では、従業員の拠出金に対して一定割合の「奨励金」を上乗せする制度を設けています。

 
  

1-2 従業員持株会の加入状況

日本における従業員持株会の普及状況は、その制度の定着度を示しています。

東京証券取引所の調査によると、20243月末時点で東証上場企業の約83%にあたる3,273社が持株会制度を導入しており、上場企業にとって標準的な福利厚生制度となっています。

加入者数は約311万人に達し、会員1人当たりの平均保有金額は2023年度に282.4万円と過去最高額を記録しました。従業員の加入率は40%弱で推移しており、企業側・従業員側ともに持株会への期待値が継続的に維持されています。


  

2.持株会とストックオプションの違いとは

従業員持株会と混同されがちな制度に「ストックオプション」があります。

どちらの制度も自社株式を活用する点で共通していますが、その目的や仕組みには大きな違いがあります。

 

持株会は従業員の福利厚生・資産形成支援を目的とした制度であるのに対し、ストックオプションは特定の従業員に対するインセンティブ報酬としての性格が強い制度です。

 

持株会では従業員が自己資金を拠出して実際に株式を購入するのに対し、ストックオプションは将来一定の価格で株式を購入できる「権利」を付与する制度です。


項目 従業員持株会 ストックオプション
主な目的 福利厚生・従業員の資産形成支援 インセンティブ報酬・成果報酬
対象者 原則として全従業員 経営陣・特定の従業員
資金負担 従業員の自己資金による継続的な拠出 権利行使時に一括で株式購入
活用場面 安定企業での全社的な福利厚生 成長企業での重要人材への報酬


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3.企業が持株会を導入するメリット

企業が従業員持株会を導入することで得られる主なメリットは、以下のように人材戦略と経営戦略の両面にわたります。


3-1 .従業員のエンゲージメント向上

従業員が株主としての立場を得ることで、単なる労働者から「会社の一員」としての意識が高まることが期待されます。

 

自社の業績が直接自身の資産に反映される仕組みにより、従業員は会社の業績により強い関心を持つようになり、日々の業務に対する責任感や当事者意識が向上することが期待されます。また、持株会を通じて定期的に業績情報や経営方針が共有されることで、従業員と経営陣との間のコミュニケーションが活性化し、組織の一体感醸成にも寄与します。

 

3-2 人材採用のアピールポイントになる

充実した福利厚生制度としての持株会は、企業の採用力向上に貢献します。

 

特に奨励金制度を伴う持株会は、求職者にとって魅力的な福利厚生として映ります。従業員の長期的な資産形成を支援する姿勢を示すことで、優秀な人材の獲得競争において他社との差別化要因として機能します。

福利厚生の充実度は転職検討の重要な要素の一つとされており、持株会制度は採用力強化の有効な手段となる可能性があります。
 


3-3 持株会が安定株主になる

従業員持株会は、企業にとって長期的で安定的な株主として機能します。

持株会は基本的に長期保有を前提とした投資を行うため、短期的な株価変動に左右されにくい安定株主となります。これにより、敵対的買収のリスク軽減や株価の安定化効果が期待できます。


3-4 福利厚生の一環

持株会は、従業員の資産形成を直接的に支援する実用性の高い福利厚生制度です。

 

奨励金制度により、従業員は市場価格よりも有利な条件で自社株を購入できるため、実質的な経済的メリットを提供できます。また、非上場企業においては、事業承継対策としても有効です。


 

4.企業が持株会を導入するデメリット

持株会制度には多くのメリットがある一方で、企業が認識しておくべきデメリットやリスクも以下のようなものが存在します。

 

 

4-1 配当金の支払いや運営事務などの負担増

持株会を導入すると、企業には配当金を継続的に支払う義務が生じます。

 

特に非上場企業の場合、従業員にとって配当金が唯一のリターンとなるため、業績が悪化しても配当を維持することへの期待が高まります。しかし、業績不振の中で無理に配当を支払うと企業のキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。

 

また、持株会の運営には複雑な事務手続きが必要になります。拠出金の管理、株式の購入手続き、持分計算、配当金の分配など、専門的な知識を要する業務が継続的に発生します。

 

これらの事務負担を軽減する方法として、専門的なアウトソーシングサービスの活用が有効です。たとえば、イーウェルの制度受付代行サービスでは、持株会制度に関する煩雑な事務処理を包括的に代行し、企業の負担を大幅に軽減することが可能です。

  

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4-2 株価低迷によるモチベーション低下

株価が長期的に低迷・下落した場合、従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。

 

従業員は給与から天引きされた資金が目減りしていく状況を目の当たりにし、資産形成どころか損失を被ることになります。程度によっては、従業員の不満や不安を増大させ、制度に対する不信感から組織全体の士気低下を招く可能性があります。

 

 

5.従業員側の持株会に加入するメリット


従業員にとって持株会への加入は、通常の投資では得られない特典やメリットを享受できる魅力的な資産形成手段となります。たとえば以下のようなメリットです。


5-1 奨励金がある

従業員にとって最大のメリットは、企業から支給される「奨励金」です。

 

東京証券取引所の調査によると、持株会を導入する企業の96.6%が奨励金を支給しており、その平均支給額は拠出金1,000円あたり約100円(約10%)となっています。これは、投資した瞬間に10%の利益が確定するのに等しく、現在の超低金利環境下では極めて有利な条件です。


  

5-2 配当金・キャピタルゲインを得られる

保有する分に応じて配当金を受け取ることができ、多くの持株会では配当金の再投資により複利効果を活用できます。 

また、会社の業績向上により株価が上昇すれば、将来株式を売却する際にキャピタルゲイン(売却益)を得ることも可能です。特に非上場企業がIPOを果たした場合には、大きな利益を得る可能性があります。


  

5-3 財産形成の手間がかからない

給与からの自動天引きシステムにより、意識せずとも着実に資産形成を進めることができます。

 

一度加入手続きを行えば、毎月自動的に一定額が拠出され株式購入に回るため、投資のタイミングを考える必要がありません。また、通常は100株単位でしか購入できない株式を、持株会では月々1,000円といった少額から購入できます。


 

6.従業員側の持株会に加入するデメリット

従業員が持株会に加入する際には、その魅力的なメリットの裏に潜むデメリットを十分に理解する必要があります。たとえば、以下のようなものです。

  • 会社への依存度が高くなる
  • 株主売却に時間がかかる
  • 株主優待が受けられない

 


6-1 .会社への依存度が高くなる

これが従業員にとって最大のデメリットです。持株会への加入は、収入と資産の両方を勤務先に依存させることを意味します。

 

投資の基本原則である「卵は一つのカゴに盛るな」に反し、会社の業績悪化時には給与減少と保有株式の価値下落という二重の打撃を受けるリスクがあります。このリスクを軽減するためには、持株会への投資を資産全体の一部に留め、他の金融商品への分散投資を併せて行うことが重要です。

  

6-2 株式売却に時間がかかる

持株会で保有する株式は、個人の証券口座のように即座に売却することができません。

 

売却を希望する場合は持株会の事務局を通じて手続きを行う必要があり、現金化まで数週間を要することが一般的です。また、決算発表前後などは売買ができないため、株価急落時の迅速な損切りができないリスクがあります。

 
  

6-3 株主優待が受けられない

持株会で保有する株式は持株会理事長名義であるため、個人株主を対象とする株主優待を受け取ることができません。

 

日本の株式投資の魅力の一つである株主優待制度の恩恵を受けられない点は、株主優待を重視する投資家にとってはデメリットとなります。

メリット デメリット
奨励金による有利な投資条件 収入と資産の集中リスク
配当金・キャピタルゲインの獲得 売却時の手続きの煩雑さと時間
自動積立による手軽な資産形成 株主優待の対象外

 

 

7.企業が持株会を設立するにあたって検討が必要なこと

従業員持株会の設立は、長期的な運営を前提とした重要な経営判断です。事前に検討すべき主要項目について正しく理解しておきましょう。

 

持株会の設立には、明確な目的設定、詳細な制度設計、適切な運営体制の構築が不可欠です。

 

まず、制度導入の目的を明確化する必要があります。従業員の資産形成支援、エンゲージメント向上、安定株主の確保、事業承継対策など、主目的によって制度設計の方向性が決まります。

 

制度設計では、奨励金の支給率、拠出金の範囲、退職時の株式売買価格の算定方法などを詳細に定めた規約を作成します。特に非上場企業の場合は、市場価格が存在しないため、株式の評価方法を明確に定めることが重要です。

 

法的要件として、給与からの天引きを行うため労働基準法に基づく労使協定の締結が必須となります。また、インサイダー取引規制への対応として、定時定額購入の原則を徹底する必要があります。

 

設立時には従業員への十分な説明を行い、メリットだけでなくリスクについても正確に伝えることで、制度への理解と信頼を築くことが制度成功の鍵となります。



 

8.まとめ

従業員持株会は、適切に設計・運用することで企業と従業員の双方に大きなメリットをもたらす福利厚生制度です。

 

企業にとっては従業員のエンゲージメント向上や安定株主の確保、従業員にとっては奨励金による有利な投資条件と手軽な資産形成の機会を提供します。一方で、投資集中リスクや運営事務の負担といったデメリットも存在するため、これらを適切に設計・運用することが重要です。

 

制度成功の要件は、導入目的の明確化と従業員への十分な情報提供です。メリットだけでなくリスクについても正確に伝え、従業員が理解した上で参加できる環境を整えることが長期的な成功につながります。

 

なお、持株会制度を含む総合的な福利厚生制度の構築をご検討の場合は、イーウェルにご相談ください。制度受付代行サービスにより持株会制度の複雑な事務処理を一括受託し、企業の負担軽減と制度利用促進を実現いたします。

 

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著者情報

株式会社イーウェル ウェルナレ事務局

「人も、企業も、ウェルビーイングへ。」をテーマとして、企業の健康経営や福利厚生の支援を行う株式会社イーウェルが運営する、BtoB(人事総務向け)オウンドメディア「ウェルナレ」の編集部。
2021年7月にメディアリリース後、毎年60回以上、有名企業様とのコラボセミナーや官公庁の専門分野に特化した方を招いてのカンファレンス、大学教授による福利厚生勉強会の開催や専門家記事の掲載などを実施し、多くの方に好評いただいております。
人事部署や経営者が、会社のウェルビーイングを向上されるためのヒントを探して、日々活動しています。

運営会社:株式会社イーウェル

 

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